収束しつつあるとはいえ、新型コロナがわれらホモ・サピエンスをあざ笑うかのように跳梁跋扈している。老若男女を問わずあまねく〝平等〟に攻め立てているはずなのに、都の感染者データでは年代別・性別によって罹患率はかなりの差が出ている。生産年齢層では若い女性の罹患率が最多だ。
なぜそうなのか。メディアはあまり報じない。そもそも都のデータは年代と性別はリンクしておらず、それぞれの感染者数しか発表されないからだと思う。
記者は、「三密」と関係があるのではないかという仮説を立てた。1日当たりの感染者が200人を突破しても、10人くらいでもあっても経路不明率は50%をなかなか切れない。
その理由の一つには、感染者が感染源に〝思い当たる節がない〟こともあるだろうが、都も「(感染者が)個人情報が漏れることを恐れ、調査に協力的でない」旨のことを発言しているように、明かせない事情があるからだと踏んでいる。
そこで、的外れかもしれないが、思い切って5月11日付で「新型コロナ 感染経路不明者が減らない理由 〝闇社会〟〝二重就業〟も一因」と見出しを付けて記事にした。
驚いたのはアクセス数だ。2週間で約6,400件に上っている。これまでRBA野球やマンションの記事で1万件を突破した記事はたくさんあるが、不動産に関係のない記事でこれほどのアクセスがあったのは初めてではないかと思う(確認はしていない)。
〝闇社会〟〝二重就業〟のワードに反応した人が多いからだろうが、新型コロナがあぶりだした〝不平等社会〟の暗部に迫るヒントがこのアクセス数に隠されている気がしてならない。
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〝闇社会〟とは何かを知るためにネットで調べたら、風俗店で働く女性の無料生活・法律相談事業「風テラス(かぜと読むのかと思ったら「風俗」の「ふう」のようだ)にヒットした。早速、「風テラス」を主宰する坂爪真吾氏の「『身体を売る彼女たち』の事情-自立と依存の性風俗」(ちくま新書)を買って読んだ。
陳腐な言葉だが、目から鱗とはこのことをいう。記者だって「風俗」を一通り利用したことがあり知っているつもりだ。とはいえ、「JKビジネス」なるものがテレビで報じられたとき、東京都住宅供給公社(アルファベット表記:JKK)が何か絡んでいるのかと訝ったくらいだから、所詮、その程度の知識しかない。
この本は「風俗」で働く当事者のミクロ現場を赤裸々にレポートするとともに、「風俗」が隠花植物のように蔓延するマクロ社会の問題点に迫っている。数行読むたびに「えっ、そんなことってあるの」と踏みとどまらざるをえなかった。吐き気すら覚えるほどの衝撃を受けた。これまでの「風俗」の概念がガタガタと音を立てて崩れた。
ぐさりと胸に突き刺さる文章が頻繁に登場する。以下、いくつか引用する。
「(JKビジネスの)現実を見たくない人たち、あるいは現実を自分の見たいようにしか見ない人たちにとって、『被害者』『犠牲者』というレッテルは好都合だ。そのため、こうしたレッテルに基づいてメディアで報道が行なわれ、そこからマッチポンプ的に生み出された二次情報を根拠にした啓発キャンペーンや政治的パフォーマンスが繰り返されることになる。
この悪循環を終わらせるためには、現場で働く当事者たちに直接アプローチすることのできる場を作り出し、そこで得られた一次情報に基づいて、適切な支援の方法や実効性のある政策の在り方を試行錯誤しながら模索していく以外にない」(60~61ページ)
「現場から得られた一次情報を大量に所有・管理している人たちがいる。それは一体誰だろうか。(中略)正解は、風俗情報サイトの運営会社だ。(中略)デリヘリの世界では情報サイトに広告を出稿しないと、そもそも営業自体が成り立たない。
風俗情報サイトの運営会社は、各掲載店舗のPV(ページビュー:閲覧回数)に始まり、その地域の中でどの店がどれだけ儲かっているかといった情報、集客や求人広告の反応率、(中略)性感染症の結果(陽性率の割合)まで、あらゆる『ビックデータ』を持っている」(159~160ページ)
「(『JKビジネス』による被害や不幸を減らすための)啓発広告を出したいのであれば(中略)彼女たちの動線上にピンポイントで配置する必要がある。いわゆる『JKビジネス』で働こうとする全ての女性が必ず通る『関所』=働く前に必ず目にする場所はどこだろうか? そう、答えは『求人ポータルサイト』だ」(246ページ)
「性風俗が搾取でなく共助であるからこそ、搾取以上に悲惨なことが現場で起こりうるのだ」(168ページ)
「性風俗の世界は、多重化した困難を抱えた女性たちが、複雑に絡まりあった困難を一発で解決するための『快刀』を求めて集まってくる世界だ。彼女たちの声に応える形で、性風俗の世界が用意している一つ目の『快刀』は『匿名化』である」(185ページ)
「二つ目の『快刀』は、『現金化』だ。性風俗は女性にまつわる森羅万象を現金化できる世界である。唾液、母乳、尿(以下、書くのがためらわれるので省略)あらゆる行為をサービスやオプションの形で現金化できる」(189~190ページ)
だが、しかし、坂爪氏は、われわれを突き放したままにはしない。
「遅かれ早かれ、大半の女性が『風』の世界で働いても生活保護と同水準、あるいはそれ以下の金額しか稼げない時代がやってくるだろう。(中略)『彼女たち』の問題が『私たち』の問題に他ならないのだとすれば、誰もが当事者として『いびつな共助』に向き合わざるをえなくなる瞬間が訪れるはずだ」(266ページ)と警鐘を鳴らしながら、「それらの問い対する答えは全て、『風』の中に舞っているはずだ」(267ページ)と締めくくる。
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坂爪氏が指摘する「二次情報」に依拠した報道がいかに危ういものであるかは、小生も含めわが業界紙も考えないといけない。取材の基本は「現場」だ。
もう一つ、業界紙・情報誌紙のあり方を示唆する指摘もあった。物件情報サイトだ。マンションデベロッパーにとって、物件情報サイトは販促の大きな武器であるはずだが、エリア、交通便、価格、面積、環境…の検索条件は購入検討者にきちんと届いているのか。駅に近いマンションは本当に価値が高いのか、資産性があるのか、価格の安い物件が購入者のためになるのか…考え直す必要があるのではないか。
物件情報サイトには購入検討者の声はほとんど反映されていない。これでいいのか。
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この日(27日)、散歩に出かけるとき、「風俗で働いている女性を応援している団体に寄付をしたいから3000円頂戴」とかみさんに頼んだら、「何よ!バタバタと倒産しているというのに!彼女たちは稼げるの!岡村クン(岡村隆史氏)が言ったでしょ!」と怒鳴られた。
かみさんに頭が上がらず、きちんと説明しなかった小生も悪いが、岡村氏を持ち出したのには返す言葉もなかった。岡村氏はブラック・ジョークで人を笑わせるのが『仕事』ではないか。なにもあんなに袋叩きされなくてもいいのにと思う。冗談が通じない世の中は怖い。
テーブルに叩きつけられた3000円を黙って受け取り、「風テラス基金」に振り込もうとしたら、手数料が500円かかるので、2500円しか振り込めなかった。財布に残ったのは缶ビール代くらいしかなかった。
いうまでもないことだが、寄付は「風テラス」をもちろん応援したい気持ちもあったが、諸々の「現場」で働く人たちへの連帯を示すエールだ。皆さん!逃げろ!徹底して逃げろ!
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