小田急電鉄は10月1日、開発を進めてきた「下北線路街」の施設の一つ「BONUS TRACK」を開業した。同日、プロジェクトを担当する同社生活創造事業本部 開発推進部課長・橋本崇氏と施設を運営する散歩社代表取締役CEO・小野裕之氏、同社取締役CCO・内沼晋太郎氏によるトークセッションが行われた。
橋本氏は、3年前に同プロジェクトを担当したとき、地域住民から聞き取り調査を行った結果、〝昔は個性的な店が多かった〟との声を聞き、復活できないかと考え、それを実現するには賃料を抑える必要性を感じ、小野氏に相談を持ち掛けたなどと開発の経緯について語った。
小野氏は、「下北沢には自分たちの価値をしっかり認識している多様な主体者(店舗など)が存在し、民間の力と融合させれば地域とも共存できると考え、事業に参画した」と話した。
内沼氏は、音楽、アート、映画など地域の人々に日常使いしてもらえるようなイベントをどんどん仕掛けていくと語った。
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この施設については開業前の3月末にも取材しているので、そちらの記事も参照していただきたい。
トークセッション会場で配布された資料の一つに「BE YOU.シモキタらしく。ジブンらしく。」のパンフレットがあった。
新聞紙の見開き2ページ分に相当するA1判を4つ割り、つまり8ページ建ての大きなもので、世田谷代田駅から下北沢-東北沢に至る全長約1.7㎞の゛下北線路街」に、今回の「BONUS TRACK」を含めホテル、旅館、学生寮、コミュニティハブ、カフェ、商業施設など計画を含め13のプロジェクトが図示されている。
そして、冒頭のキャッチコピーには「いろんな人が、自分らしく生きている街、シモキタ。ここまで多様性にあふれている場所は、日本中を見渡しても、そうそう存在しません。」とあった。
このフレーズに京王線沿線に約50年住んでいる京王ファンの小生は敏感に反応した。「ここまで多様性にあふれている場所は、日本中を見渡しても、そうそう存在しません」というのは根拠があるのかと。
橋本氏はさすがに「このコピーは街づくりの思いを表現したもので…」と言葉を濁したが、小野氏は「北は北海道から南は九州まで全国の街を巡ったが、一定程度人口が集積し、個性的な店舗が揃い、車が歩行者に気を付けるウォーカブルな街は他にない」と言い切った。
この答えに記者も頭をフル回転した。京王線沿線にそんな街はないかと。残念ながらない。尻尾を巻くほかなかった。
同じような空間はないわけではない。似たようなエリアはある。京王新線初台-幡ヶ谷-笹塚の線路沿いには緑道、公園が走っている。総延長は下北線路街の約1.7㎞と同じくらいではないか。もう一つは、京王線と京王相模原線の分岐駅である調布駅の地下化にともなう地上空間だ。
前者の公園、緑道はそれなりの人通りはあるが、管理するのは渋谷区で周囲の商業施設、住宅などとは隔絶されており、お互いが背を向けた状態で存在する。最近、日本財団による公園トイレも幡ヶ谷駅近くに建設されたが、果たしてどれくらいの人が利用するか。記者はほとんどないとみている。
後者の調布駅前の整備だが、これは調布市の事業として行われており、完成は2025年度なので現段階ではよく分からないが、市民が自由に行き交う空間は期待できないのではないかと記者は思っている。
なぜ、これほどまでに異なるのか。詳しく紹介する余裕はないが、一言でいえば街づくりの思想・理念の有無だ。小田急は地域と共存する街づくりを進めようとしている。一方の京王はそれがない(失礼)。初台-幡ヶ谷-笹塚の緑地空間に市民が関わる余地は皆無だ。調布駅前の空間づくりも市民の声(あるのかないのかよく分からないが)が反映されるのは期待薄のような気がする(記者は40年前の緑が豊富な調布駅周辺はよく知っている)。
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「お帰り、何か食べてきた? 」「うん」「2,000円渡したんだけど収まった? 」「…(倍以上)」「お酒飲んできたでしょ。すぐ分かるんだから」「…うん」-小田急電鉄の取材を終え、うちに帰ったのは午後2時半を過ぎていた。
利用した「恋する豚研究所コロッケカフェ」「お粥とお酒 ANDON」「日記屋月日」はみんないい店だ。おいしかった。2,000円は本を買ったことにしよう。駅前の温泉旅館・由縁別邸はGo Toトラベルを利用して飲みに行こう。
京王線にも「BONUS TRACK」のような街はできないか。がんばれ京王!小田急に負けるな!
小田急電鉄〝下北沢の新たな名所〟SOHO&店舗「BONUS TRACK」4月1日開業(2020/3/30)