最初に断っておく。記者は新型コロナの専門家でもなんでもない素人だ。感染動向、その他専門的な知見などについては東京都が発表するモニタリング会議の資料やコメントを読んで頂きたい。
例えば10月29日の会議では、「今週は複数の病院、高齢者施設、大学の運動部の寮、職場におけるクラスターの発生が報告された。基本的な感染予防策である『手洗い、マスク着用、3密を避ける』等に加えて、こまめな換気、環境の清拭・消毒を、あらためて徹底する必要がある」「入院患者数の急増にも対応できる病床の確保が依然として必要な状況である。重症患者数が再び増加しており、今後の推移と通常の医療体制への影響に警戒が必要である」とある。
ぐうたらの記者も徹底して「三密」を避け(どうして〝酒〟に変換するのだ)、コロナから逃げることに決めた。この8か月間というもの取材と散歩以外はほとんど外出しない。外出しても混んでいる電車内では空いている以外は座らないし、外食は基本的にしない。コンビニでお握りを買って野外で食べる。どうしてもやめられないタバコは、喫茶店でも喫煙所でも息を殺して吸う。
前置きが長くなった。記者は4月から毎日のように東京都が発表する感染動向の性別・年齢別データリソースにアクセスし、エクセルデータに落とし込む作業を続けている。感染者の属性を通じて見えない敵に肉薄し、感染拡大防止に役立つ情報を発信できないかと考えたからだ。
残念ながら、都が発表するデータは性別・年代別の数値だけで、核心に迫ることはできていない。新型コロナは、感染者の数字に一喜一憂する記者をあざ笑うかのように広く深く蔓延しているようだ。
別表は、最近6週間の都の年代別・男女別感染者数をまとめたものだ。感染者数は1,100~1,200人台で推移しており、専門家が指摘する分水嶺なのかもしれない。今後爆発的に増加するのかそれとも減少に転じるのか判断できる予兆のようなものは見当たらない。
はっきり言えるのは、もっとも感染者が多いのは20代男性で、次いで20代女性、30代男性の〝3強〟がリードしていることだ。キャスティングボードはこの3強が握っている。
重症化リスクが高いとされる60歳以上の高齢者の全体に占める割合は累計で15.9%であるのに対し、この6週間は16~19%台で推移していることからやや増加傾向にあるといえそうだ。
一方、新型コロナが生物学的性差を勘案せず平等に襲い掛かる特性を備えているとすれば、10歳未満と10代の男女別感染者はそれを裏付けている。
ところが、他の年代では男女による〝差〟が歴然としている。累計の男女比は男性約32,000人(58.0%):女性約13,000人(42.0%)となっており、20代感染者は約5,200人であるのに対し女性は約4,500人で約700人の差があり、30代は男性約4,200人:女性約2,600人、40代は男性約3,000人:女性1,600人、50代は男性約2,300人:女性約1,400人、60代は男性約1,300人:女性約700人、70代は男性約900人:女性約700人といずれも男性が上回っている。80代と90代は男女が逆転するが、これは人口構成からして当然の結果とも受け止められる。
この差異こそ社会的・文化的性差、つまりジェンダー性差であることが明らかだ。これは〝男性は外で働き、女性は家事・育児〟などと言った古臭い社会構造の反映と受け止められないこともないが、記者はむしろ感染リスクを冒してでも働かざるを得ない就労環境がこのような差となっていると考えている。
都のデータでは感染者の職業などは公表されていないが、記者は8月、政令指定都市でもっとも高齢化率が高い北九州市の感染者データを調べたことがある。同市のその時点の感染者511人の男女比は男性257人:女性254人とほとんど差がなく、職業では医療・介護関係者が全体の25.4%を占め、年代も20~30代の若い人が圧倒的に多く、高齢者感染比率も37.0%に達していた。
結果として、ジェンダー性差だけでなく都市と地方の差も明らかになった。
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気になるのは経路不明者比率が減らないことだ。猖獗を極めた第一波のときのように60%を超える日はなくなってきたが、累計では56.0%と感染者の半数以上は経路不明者だ。新型コロナの恐ろしさがここにある。
これは、〝思い当たる節がない〟無症状者が1~2割存在していることと無関係ではないのだろうが、それよりも「コロナ自警団」を恐れ、会社や近所、関係者に感染を知られたくないと考える人が多いことをうかがわせる。
記者は、5月に経路不明者が減らないのは「闇社会・二重就業も一因」ではないかと書いたが、現段階でアクセス数は約49,000件に達している。過去、マンションの記事でもこれほどアクセスが殺到したことはない。多くてせいぜい2万件くらいだ。「闇社会・二重就業」の記事は的外れでもなかったと確信している。
少ないとは言え、性別あるいは年齢不明の人も14人いるのは無視できない。これは自らの性別、年齢が分からないほど人事不省の状態に陥ったからだとは考えづらく、〝おとこおんな〟の問題でもないのは明らかだ。性別も年齢も公表しづらい社会のありようが問題だ。
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7~9月の全国自殺者がいずれも1,800人超となり前年同月を上回ったことから、一部には新型コロナと結びつける論調もみられる。いま一つ因果関係が明らかではないが、注視する必要はありそうだ。