ソニーグループ発のSREホールディングスが経済産業省と東京証券取引所の「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021」のグランプリに日立製作所とともに選定されたことを一昨日紹介した。名だたる大企業を抑えてわが業界からグランプリを獲得したのはとても嬉しいのだが、この会社のことはいま一つよくわからないところがある。
同社は選定発表の3日前の6月4日、「首都圏の駅別中古マンション価格騰落率を調査」と題するニュースリリースを発表しているが、これが実に不可解。なんだかAIに翻弄・嘲笑されているようで気分がよくない。不動産流通業は労働集約的な業種だと思っていたが、AIが幅を利かす時代に突入したのか。
調査は、駅から徒歩15分以内、築5~15年、専有面積50㎡以上、間取り1R以外という条件を設定し、2020年1~3月の中古マンション成約価格と2021年3月末時点での不動産価格推定エンジンを用いたAI査定価格を70㎡換算して比較し、その騰落率を算出したというものだ。
ランキングとして発表されているのは首都圏175駅圏で、調査は住宅評論家の櫻井幸雄氏と共同で企画し、調査結果の分析を同氏が行ったともある。
このレポートを読んで疑問に思ったことがある。レポートには「中古マンション成約価格」の元データに関する説明がないことだ。同社の企業規模からして首都圏175駅圏の成約価格を得ることは不可能なはずだし、同業から異端児扱いされている同社が他の大手不動産流通会社から成約価格の情報提供を受けることなどもありえない。成約価格の元データを明らかにしないのは調査レポートとして体をなさない。
記者は、成約価格はレインズ情報によると推測するのだが、レインズは「レインズから取得した成約情報は、購入や売却等を検討する顧客に対して取引価格を設定する場合の『意見の根拠』としてのみ明示することができる」としており、成約情報を広告・宣伝などに利用することを禁じている。レポートは広告・宣伝ではないにしろ、釈然としないものを感じる。
さらに腑に落ちないのは、成約価格とAI査定価格を比較することの可否だ。AIであろうと宅建士であろうと査定価格をいくらにするかは勝手だろうが、それと成約価格を比較することの意味はどこにあるのか。業界では成約価格より査定価格が1~2割高くなるのは常識だ。むしろ、中古市場が好転していることを考えれば、騰落率が100%以下の駅圏が47もあるのが不思議だ。
ランキングとして発表されている具体的な駅圏についても触れてみよう。
同調査によると、騰落率が139.9%でトップの西武池袋線ひばりケ丘の成約価格は3,376万円(坪単価159万円)で、AI査定価格は4,723万円(坪単価223万円)となっている。
ひばりケ丘駅圏の成約価格が坪159万円というのは〝安い〟と感じなくもない。同駅に限らず西武池袋線は新築も中古も他の沿線に比べ〝割り負け〟していると記者は思っている。
一つ例示する。2007年に分譲された駅前の西武不動産販売他「ひばりタワー」322戸だ。記者は当時、各地のタワーマンションが相次いで高値を更新していたのを考慮し、坪単価は300万円前後と予想したが、実際に分譲されたのは坪285万円くらいだったはずだ。高額住戸は完売までかなり時間がかかった。
いまこの「ひばりタワー」をAIに査定させたら坪250万円くらいではないか。しかし、平均坪単価223万円というのはありえない価格ではないか。
もう一つ、西武池袋線と同じように〝割り負け〟が著しいわが京王相模原線の京王多摩センター駅圏はどうか。レポートでは、成約価格は3,804万円(坪単価179万円)で、AI査定価格は3,701万円(坪単価174万円)となっており、ランキングでは156位だ。
駅近の免震「ザ・パークハウス 多摩センター」は「ひばりタワー」に負けない坪250万円くらいで、街のポテンシャルは多摩センターのほうが上だと思うが(もちろん異論もある)、AI査定価格はひばりケ丘駅が坪223万円で、京王多摩センターは49万円も安い174万円なのか。AIに〝根拠を示せ〟といえば答えてくれるのか。
ランキング2位の日暮里駅のAI査定手価格7,566万円(坪単価357万円)というのは新築並みの価格だ。これもあり得ない。
同社のホームページには「業界最高水準の精度を誇るAIが、人間では処理できないほどの大量なデータや様々な条件から売却の推定価格を算出します」とある。
その結果、今回の査定価格がはじき出されたとしたら、われわれには反論の余地はないのか。DX銘柄審査員は同社を「破壊的なビジネスモデル」と絶賛した。われわれはAIにひれ伏し、盲従していいのかというひねくれ根性が頭をもたげてくる。
そういえば、「DX注目企業2021」(カスタマーケア部門)に選定された東急不動産ホールディングスの東急リバブルは同社の「投資用区分マンションAIマッチングシステム」が「営業経験5年以上の担当者が行う物件選定と遜色ないレベルを実現したと発表した。同業他社も含めAI同士、さらに宅建士を交えて戦ったらどこが勝つのか、雌雄を決してほしい。小生が知るRBA野球関係者の宅建士はAIに絶対負けないと信じる。
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