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2021/06/25(金) 20:00

隈研吾氏の〝十八番〟外観は吉野杉のルーバー 日本財団「THE TOKYO TOILET」PJ

投稿者:  牧田司

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「鍋島松濤公園トイレ」(撮影:永禮賢氏、提供:日本財団)

 日本財団は6月24日、誰もが快適に使⽤できる公共トイレを渋⾕区内17か所に設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の9カ所目となる、建築家・隈研吾氏がデザインした「鍋島松濤公園トイレ」のメディア向け見学会を行い、同日から⼀般利⽤を開始した。

 タイトルは「森のコミチ」で、緑豊かな松濤公園に、集落のようなトイレの村をデザイン。ランダムな角度の耳付きの吉野杉の杉板ルーバーに覆われた5つの小屋は「森のコミチ」で結ばれて森の中に消えていくというもの。

 ⼦育て、着替え、車いすなど多様なニーズにあわせて、村を構成するひとつずつのトイレの、プラン、備品、内装も異なるそれぞれの個室を分棟とすることで、公園に開かれた⾵通しの良い、通り抜けのできる「公衆トイレの村」としている。

 隈研吾氏は、「今回様々な候補地がありましたが、⼀番緑の深い鍋島松濤公園に設計することで、これまでの公共トイレのイメージを払拭できると思い、この場所を選びました。トイレだけでなく、動線となる道も含めて設計しています。建築物に加えて、その周辺の環境など、トータルな体験として捉えていただければと思います。 また、従来の公共トイレは全て均⼀なデザインでしたが、今回はお子さんが利⽤できるトイレや、イベントの多い渋谷の街に合わせて着替えができるトイレなど、小さな5つのトイレを設計しています。これまでの公共トイレと異なり、様々な人に使⽤いただける点も大きな特徴です」と述べた。

 ⽇本財団常務理事・笹川順平氏は、「プロジェクトは、今回の鍋島松濤公園トイレで9か所⽬になります。このプロジェクトは建築までが半分、適切に維持管理しながらご使⽤いただくことが残りの半分だと考えています。従来の公共トイレに持たれている〝暗い・汚い・臭い・怖い〟といったイメー ジを取り払うモデルケースになることを⽬指すべく、ご使⽤いただく皆さまにもご協⼒いただけますと幸いです」と語った。

 「THE TOKYO TOILET」は、日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴であるはずの公共トイレが利用者に不評であることから、性別、年齢、障害を問わず、誰もが快適に使⽤できる公共トイレを2021年秋までに区内17カ所に設置するもの。プロジェクトには建築家の隈研吾氏、伊東豊雄氏、安藤忠雄氏、坂茂氏、槇文彦氏、クリエイティブディレクターの佐藤可⼠和氏など16人の専門家が参画している。トイレの設計施⼯は⼤和ハウス⼯業、現状調査や設置機器・レイアウトの提案はTOTOが担当している。

 THE TOKYO TOILETの特設ウェブサイトはhttps://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/thetokyotoilet

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撮影:永禮賢氏、提供:日本財団

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撮影:永禮賢氏、提供:日本財団

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※以下は全て記者写す

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◇       ◆     ◇

 上段は、日本財団のプレス・リリースをほとんどコピペした記事だ。隈氏は、実際にはたくさん面白い話をされた。忠実に再現したいのだが、申し訳ない。その後、別の取材があり、うちに帰ってから酒も入ってしまったので、記事を書けなくなった。

 とりあえず、写真だけを紹介します。続きは明日、明後日にします。

 (続き)

 隈氏の木の格子デザインはたくさん見学してきたので、今回も鉄やコンクリではなく木がふんだんに採用されているのではないかという予感はあった。その通りだった。ただ、使用されている木の名前はわからなかった。スギのようには見えたが、木目が密で、記者の田舎・三重のスギとは異なっていた。

 直接、隈氏から吉野杉であることを聞き、納得もした。三重のスギも美しいと思うが、関係者の間では吉野杉のほうが建築材としては使用部位にもよるが優れていると評価されているのだろう。

 トイレの個室に採用されているメタセコイア、サクラ、コナラ、ケヤキ、イチョウなどの木片は、「相模原津久井産材」の廃材・端材になるものをそのまま生かしたことも聞いた。

 素晴らしい公園トイレに仕上がったのは、隈氏と笹川氏のやり取りからもよく伝わってきた。

 公衆トイレについて隈氏は、「1990年にバブルがはじけて、東京の仕事が全部キャンセルとなり、仕事がなくなったとき、いちばん最初に頼まれた仕事は高知県の梼原(ゆすはら)町の公衆便所でした。町長さんから『隈さん、公衆トイレの設計できる? 』と聞かれ、『公衆便所すごく得意です』と答えました。木を使った建物の設計は公衆便所から始まりました。私の人生にとっても大きな転機でした。30年たってもう一度公衆便所に出会え、公衆便所を通じて新しい都市像を提案できた。縁の深さを感じている」と語った。

 笹川氏は、「最初に先生の事務所に伺い、依頼したときは断られると思ったが、『これまで関わったプロジェクトの中で一番面白そうだ』と仰っていただいて、とても嬉しかった。これまでの9か所のプロジェクトの中で自然との共生をテーマにしたのは今回が初めて。もっと驚くことに、トイレを楽しもうというコンセプトも今回が初めて」と返し、嬉しさを隠しきれない様子だった。

 高知県梼原町は、隈氏の作品がたくさんある町として知られているが、公衆トイレが最初の案件だったのを初めて知った。

 隈氏はまた、自らが審査委員長となり、在学生を対象とした東大赤門脇のトイレデザインコンペを行い、採用案も決定したと話した。

 この件に関し、ネットで調べた。隈氏は講評として次のように述べている。

 「小さな公共トイレを入り口にして、これほどに深い世界にはいってゆけるとは、僕自身正直なところ全く予想していなかった。

 『インクルーシブな社会の実現』が重要であるということについて、反論する人はいないであろう。しかし、その総論に賛成な人も、それが具体的にどんなトイレのプランニングになり、どんなデザインになるべきかと問われると、はたと考え込んでしまうだろう。それほどに、僕らは無意識にトイレを使い、無意識に様々な人たちをエクスクルード(排除)したり、差別したりして、毎日を過ごしているのである。建築に携わり建築を作っている人間が、実はその問題に対して最も無意識で、無知であったかもしれない。

 審査していて、その事実をつきつけられ、僕自身にとっても貴重な体験をさせていただいた。

 大学という場所は、専門家を育てる場所である以上に、専門家が傲慢と偏見に陥りやすいことを教えるべき場所でもある。今回のコンペは、小さなトイレを通じて、そのとても大事なことを発信できたように、僕は感じた」

 この隈氏の言葉は重くて深い。これまで9か所すべてのトイレを見学してよかった。「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは凄い展開を見せてきた。「無意識にトイレを使い、無意識に様々な人たちをエクスクルード(排除)したり、差別したりして、毎日を過ごしている」われわれの意識を劇的に変えるはずだ。

 今回採用されたスギの学名「クリプトメリアヤポニカ(Cryptomeria japonica)」は「隠れた日本の財産」というではないか。隈氏の作品は5年、10年、20年と時間が経過することで色合いが変化し、周囲の風景によく馴染み、同化していくに違いない。

 

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隈氏(左)と笹川氏

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「鍋島松濤公園」入口

〝汚い・臭い・暗い・危険〟公共トイレ利用率13.5% 日本財団18歳意識調査(2021/6/22)

素晴らしい槇文彦氏、田村奈穂氏、片山正通氏 日本財団 渋谷公園トイレPJ(2020/9/21)

 

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