三菱地所など大丸有SDGs ACT5実行委員会が6月4日に実施した「皇居外苑濠での泥と生きもの採取イベント(濠プロジェクト)」を見学した。
イベントは5月28日と6月4日のそれぞれ午前と午後の4回にわたって実施されたもので、大手町、丸の内、有楽町で働く人限定の定員いっぱいの35人が参加。台湾由来のタイワンウチワヤンマの幼虫(ヤゴ)が初めて都心で確認され、大きな成果があったようで、参加した子どもたちも「ヤゴを見たのは初めて。とても面白かった」と話していた。
「濠プロジェクト」は、環境省、日本自然保護協会、エコッツェリア協会などの協力を得て同社を中心とする大丸有SDGs ACT5実行委員会が主催するもので、かつて皇居のお濠に生息していた水草など生物多様性の保全・再生と、泥の中に眠っている種子の発見・発芽を目指す取り組み。1017年にスタートして今回が5年目。2020年には、東京都区部では絶滅したとされる水草「ミゾハコベ」を復元させる成果もあげている。
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記者はお濠の土手に腰かけ、たばこを吸いビールでも飲みながら観察しようと思っていたのだか、とんでもない。お濠を管理する環境省の規制は厳しく、参加者の数は制限され、名前は事前に登録され、番号付きの腕章を身に付けることが義務付けられていた。記者が変な行動をしないか監視するためか、それとも子守でもするつもりなのか、傍には同社の広報担当者がずっと付き添っていた。
作業は、田の草取りのようなのどかな風景に見えたが、危険が伴う重労働であることが分かった。お濠の深さは1mくらいだが、重さ数キロの胴長とライフジャケットの着用が義務付けられていた。それでも事故を起こす危険性があることから、子どもは濠の中に入るのは不可だった。独りで作業を行わないよう指示もされた。泥を採取する器具「採泥器」は3キロくらい、泥が入ったバケツの重さは10キロくらいあった。
そういえば、小生もそうだが、同社の吉田淳一社長は小さいころ、田んぼの肥溜めに落ちたことがあったと、ほくそ笑みながら1時間半の作業を観察した。とても勉強になった。誰一人転ぶ人もなく、無事故だったのが何よりだった。
泥を採取し、生き物を見つける参加者の様子を眺めた限りでは、水質はよくないと思った。悪臭というほどではなかったが、水田のそれとは異なる下水道のような匂いが漂ってきた。記者と同じように見学していた女性に声を掛けたら、「そうですね。匂いますね。わたしは近くに勤務していますが、ひところと比べるときつくなくなってきた」と話した。
なるほど。同社は2017年からお濠の水を取り込み、浄化して戻す「濠水浄化施設」を稼働させているが、その効果が表れてきたということかもしれない。
そして、心配するほど水質も悪くないことも実感できた。「皇居のお濠は多様性の宝庫」と言われるそうだが、名も知らぬ肴(わがパソコンは「魚」でなく真っ先に「肴」に変換する)や水生動植物がたくさん生息していることを目の当たりにした。
最大の収穫は、東京都では絶滅危惧種といわれるヒシの種を初めて見たことだった。ヒシは食用にされていたことは知ってはいたが、葉っぱや種がどのような形状をしているのか見たことは一度もなかった。ヒシの種は名前の通り菱形をしており、その四辺には逆トゲがびっしり生えている。水鳥などに付着したら外れないようにする知恵なのだそうだ。「三菱」の「菱」がヒシに由来するのかどうか…記者はしらない。
化石の中から発見された種子が発芽した例はたくさん報告されているが、皇居外苑濠の泥の中で数十年間も発芽の機会をうかがう水生植物はなんとけなげでたくましいのだろう。
もう一つは、冒頭に書いた台湾由来のトンボの幼虫(ヤゴ)だ。写真のように見た目は他の品種とほとんど変わらない。太っているか痩せているかの違いとしか見えないが、研究者とおぼしき方は「これはタイワンウチワヤンマだ。地球温暖化で北上しており、立川では成虫が確認されているが、都心で幼虫が確認できたのは初めて。(学会か)に報告しなくちゃ」とスマホに収め、興奮気味に話した。
そしてまた、新種のヤゴの発見に夢中になれる研究者が羨ましい。「誰一人取り残さない(leave no one behind)」-SDGsが目指すゴールはこのような小さな取り組みを通じて実現するのだろう。「昆虫記」を著したファーブルの生活は苦しかったようだが、未来の子どもたちはそんなことがあってはならない。この日参加した子どもたちの中から研究者が誕生するかもしれない。
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