旭化成ホームズは8月4日、同社が建設した築1-30年の賃貸併用住宅オーナーを対象に実施したアンケート調査の結果をまとめ発表した。年の賃貸併用住宅の実態とオーナーの意識、家族変化への対応実態を明らかにするのが目的。同日、結果報告を兼ねた第19回「くらしノベーションフォーラム」を開催し、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄氏が「併用で高まる価値」と題する講演を行った。
冒頭、同社取締役兼常務執行役員・大和久裕二氏は、「当社は今年創業50周年を迎え、賃貸併用住宅の提案開始から40年が経過した。多様化するオーナー、入居者ニーズに今まで以上の価値を提供できるか再考する目的で、今回の調査を行った」と挨拶。
調査は、2021年7月から8月にかけて賃貸併用住宅オーナー1,200人に郵送によるアンケート方式で行ったもので、有効回答は685人(回答率74%)。報告書は78ページに及ぶ。以下、主な特徴。
1)築1-10年の賃貸併用住宅の調査では、平均して敷地面積の1.38倍の延べ床面積で建築されており、都市の高度利用が求められている中で、都市の特性を活かせていることが確認できた
2)階数が高いほど最上階自宅型が増え、3階建ての約7割が最上階自宅型
3)くらし価値1:ワンフロアライフ対応住戸は91%、そのうち71%が主要な生活空間が1階、または主要な生活空間にEVでアクセスできるフラットアクセスであり、高齢期も住みやすい住居となっている実態が明らかに
4)くらし価値2:築21-30年のオーナーの家族人数は、平均3.8人から2.5人まで減少し、年数の経過による家族減への対応が課題。一方ですでに約40%が賃貸住戸に家族・親族が住むことを想定済みで、当初賃貸住戸に家族が居住し、家族減少時に賃貸へ戻す、または賃貸住戸を取り込み家族住戸を拡大する実例も
5)くらし価値3:賃貸居住者に挨拶をするオーナーが8割。入居者の顔が分かるオーナーは7割で、80代の高齢オーナーでは50代の4倍以上立ち話をするなどの交流をしている実態も
6)経済価値:賃貸併用住宅メリットとして、ローン返済の軽減(87%)や安定収入、私的年金が得られる(85%)、子どもに将来収入を生む資産が残せる(85%)などの経済的価値が認識されている
同社は1982年に賃貸併用住宅の仕様化を開始してから2021年度まで累計12,310棟の引き渡しを行っている。
左から同社二世帯住宅研究所所長・松本吉彦氏、大月氏、大和久氏、同社くらしノベーション研究所所長・河合慎一郎氏(写真提供は旭化成ホームズ)
左から松本氏、大和久氏、河合氏(写真提供は旭化成ホームズ)
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報告書は78ページもありなかなか読みごたえがある。まず、40年間で累計12,310棟の実績について。単純計算すると年間約308棟超だ。国土交通省の2021年度の住宅着工統計の戸建て併用住宅は2,595棟だから、約12%は同社ということになる。これは同業他社と比較して圧倒的に多いのではないか。
敷地面積は平均219.5㎡、延べ床面積は平均301.8㎡、自宅住戸面積は平均118.7㎡、賃貸住戸面積は平均37.7㎡×3.81戸=143.9㎡、レンタブル比(賃貸住戸面積÷総面積)は、40~60%未満が多いというのはなるほどという数値だ。
オーナーとテナントとの関係性では、共同型はお茶食事・手土産・立ち話32%(分離型は25%)、挨拶あり58%(同49%)、挨拶なし8%(同17%)となっており、コミュニティが満足度を高めているとしている。これは、一般的な賃貸マンションや分譲マンションにはないはずだ。
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一つだけ不思議に思ったのは、アンケートの回収率が57%と極めて高く、家賃収入・節税対策・土地活用の経済価値と、ワンフロアライフ・家族変化対応・自由なコミュニティのくらし価値が両立しており、総じてオーナーの満足度が高いのはよく分かるのだが、賃貸入居者の声は紹介されていないことだ。
後述するように、賃貸住宅は分譲住宅と比べて相対的に質は劣るし、家賃負担も大きい。施主のオーナーも請負の同社も賃貸居住者も満足するという三方良しの構図が成立しているのかということだ。(だから同社の賃貸併用が伸びているのだろうか)
この点について同社に質問した。入居者アンケートを実施する方向で検討するという回答を得た。一般的な賃貸アパート・マンションとどのように異なるか、オーナーと緩やかにつながる関係をどのように考えているのか、面白い回答に期待したい。
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大月氏は、上田篤氏の1973年に朝日新聞に掲載された「現代住宅双六」、2007年の日経新聞の「新・住宅双六」から語り始め、分譲戸建ても分譲マンションも入居者の高齢化が急速に進む一方で、賃貸住宅は〝住まわざるを得ない〟事情もあるが、築30年を経ても各世代が一定の割合で入居している数字を示した。
また、最近は自治体のワンルーム規制によって若年層向けの賃貸マンションが建てづらくなっている一方で、若い人を呼び込もうとする自治体間の〝人口争奪戦〟も演じられており、これまで賃貸と戸建ては異なったカテゴリーとしてとらえられているが、これからは融合させていく必要があると語った。
そして、同潤会アパートや自らの経験、大規模住宅地内での親子近居・隣居の事例紹介や、地方への移住、十津川村の「高森の家」、寒冷地の「越冬プラン」などの慣らし住み、喜連川の戸建て団地に隣接する雇用促進住宅を町の活性化に活用した事例などを紹介。
さらに、生業を生むリッチライフの「分離型マンション」、韓国の「連立住宅」、NPO法人による地域の空き家活動、シェアハウス、更には賃貸・シェアハウス・コンビニ・障がい児保育・カフェなど近隣とのコミュニティを緩やかにつなぐ賃貸住宅など多様な住まい方の可能性について語った。
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記者も、大月氏が賃貸と戸建て(マンションも含めて)複合の街づくりを進めるべきという主張に大賛成だ。もともとわが国の街は、金持ちも貧乏人も若者も高齢者も多様な人々が住み、それぞれが助け合うコミュニティの機能を有していた。
しかし、高度成長期をきっかけに経済最優先の核家族を基本とする〝nLDK〟という均一的な住宅供給によって都市と地方は分断され、コミュニティは破壊された。バブルの発生・崩壊によって〝住宅双六〟は昭和の遺物として死語となった。核家族そのものも崩壊の危機にあるのが現状だ。
ごく一部の富裕層を除き、一般的な世帯には多様な選択肢はない。国の持家偏重政策を改めない限り、賃貸と戸建ての融合は絵空事に過ぎないと記者は思う。
マンションなどの持家は、最近の地価・建築費の上昇で基本性能・設備仕様レベルの退行がどんどん進んではいるが、低金利を背景に住宅ローン控除、税制など手厚い住宅取得支援策によって支えられている。
賃貸はどうか。オーナーの利回りを最優先するため基本性能・設備仕様は後回しになり、耐震性、断熱性、遮音性などあらゆる面で分譲より劣り、その割には入居者の家賃負担は重い。崩れつつあるとはいえ、いまだに絶対的な住宅不足時代の悪しき商慣習〝礼金〟を墨守し、高齢者の入居を拒否するところも少なくない。賃貸脱出⇒住宅取得志向は強まることはあっても弱まることはないと考える。
端的な例が、生活困窮者や高齢者、子育て世帯などの入居を拒まないセーフティネット住宅だ。今回のテーマではないのでここでは詳しく書かないが、記者は貧困ビジネスとなんら変わらない住宅が登録されているのを取材したことがある。この制度は、最貧者を閉じ込め、生活再建の道を断つ危険性もはらんでいると思う。
もう一つ、大月氏が紹介したリッチライフプランについて。これは記者も同社が分譲開始したころ取材したことがある。素晴らしいと思った。しかし最近、同社は供給していない。
地価・建築費の上昇などで土地が仕入れられないからだろうと思うが、考えてみるとそのような賃貸用のスペースを備えたリスクも伴ったマンションを購入する余力は一般的な需要層にはない。
仮に分譲坪単価を300万円としよう。自宅用に20坪確保すると6,000万円だ。隣に8坪の賃貸用のスペースを併設すると2,400万円だ。合計で8,400万円。そんなお金を出す余裕があれば自宅用スペースを優先するはずだ。
かつて、UR都市機構も同じようなαルーム付きマンションを分譲したことがあるが、長続きしなかった。生業として機能するサポート体制がないからだ。
大月氏(写真提供は旭化成ホームズ)
大東建託 セーフティネット住宅の登録住宅は約45万戸 全国の90%超か(2021/7/14)