わが業界もすっかり夏休みモードに入ったようだ。長谷工総合研究所の「CRI」8月号は首都圏と近畿圏の「分譲マンション市場動向」を特集にしており、コンサルトント会社のトータルブレインも20ページにも及ぶ「2022年前半戦の首都圏マンション市場動向 及び後半戦以降の課題と展望」と題するレポートを発刊した。これらについては機会を改めて書くことにして、国土交通省の住宅着工のマクロデータから、マンション市場について考えることにした。
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過去10年間の分譲住宅の着工戸数そのものは25万戸前後で推移しているが、分譲マンションの比率は漸減しており、2021年度は41.4%まで減少しており、2012年度より8.3ポイント下落している。地価・建築費上昇などによる適地難が背景にありそうだ。その一方で、分譲戸建てがメインの飯田グループ、オープンハウス、ケイアイスター不動産などが価格の安さを武器に全国展開を強化している。
都市圏別では、首都圏マンションは2012年度の約7.2万戸から2021年度は約4.9万戸に、2012年度比31.8%減少。分譲住宅全体に占める割合も2012年度の54.4%から2021年度は45.3%と9.1ポイント下落し、過去10年間で最少を記録した。
中部圏のマンションは増加傾向にあり、全国に占める割合は2012年度の5.5%から2021年度は8.9%へ伸びている。圏域に占めるマンション比率はこの10年間ほぼ横ばい、30%前後で推移している。
近畿圏のマンションは年度によって増減が目立つが、全国着工に占める割合はほぼ20%台の前半、圏域に占めるマンション割合は50%台の前半でそれぞれ推移している。
その他地方の分譲住宅は増加傾向にあり、2017年度に6万戸台に乗ると、2020年度は約5.9万戸と6万戸を下回ったが、2021年度は約6.7万戸と2012年度比48.1%増加している。マンションも年度によって多少の増減はあるが、2021年度は過去10年で最多の約2.3万戸となり、全国に占める割合も過去10年間で最高の22.5%ととなり、近畿圏を抜いた。圏域に占めるマンション割合もほぼ中部圏を上回っている。
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さらに過去5年間(2017年度~2021年度)に絞って、マンション着工動向を見た。
トップはもちろん東京都。5年間トータルで17,056戸となり、全国着工戸数550,526戸のうち31%を占めている。ただ、着工戸数の減少傾向は続いており、2022年度は2021年度の29,216戸を下回る可能性が大きい。用地難と価格上昇などが原因と思われる。首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)は5年間合計で277,771戸となり、全国の50.5%を占めている。
2位の大阪府は5年間合計78,633戸で、東京都の46.0%。近畿圏(大阪・滋賀・京都・兵庫・奈良・和歌山)合計は119,659となり、全国の21.7%となっている。
3位は神奈川県の57,794戸、4位は愛知県の38,062戸。中部圏(愛知・静岡・岐阜・三重)は48,575戸で、全国比8.8%。3大都市圏の合計は446,005戸で、全国に占める割合は81.0%となっている。
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九州勢の着工増が目立っている。福岡県の5年間の着工戸数は約26,000戸で、埼玉、千葉、兵庫より上位の堂々5位に入っている。
着工増を象徴するのが、記者も見学取材したタカラレーベン「レーベン福岡天神 ONE TOWER」(153戸)だ。同社の創業50周年記念物件で、圧倒的な人気を呼んでいる。坪単価は書かないという約束なので、紹介できないのは残念だが、過去の博多駅圏の最高値を更新した。
「福岡天神」が高値更新したことで、他の物件に好影響を与えているのか、西日本鉄道・大和ハウス工業「ブライトクロス博多」(183戸)は、2021年10月1日~2022年3月31日の成約戸数120戸は、九州で分譲された新築分譲マンションの中で最多と、ホームページに公表している。
リゾートマンション・分譲ホテルなど首都圏の富裕層にも人気が高い沖縄県は13位で、熊本県は16位、長崎県は19位、鹿児島県は20位、大分県は21位。過去4年間は年間平均231戸だった宮崎県も2021年度は673戸と3倍増に近い戸数を着工し31位に浮上した。
沖縄県では、サンフロンティア不動産の分譲ホテル「HIYORI オーシャンリゾート沖縄」(203室)が今年3月までに竣工完売した。坪単価は350万円だった。
熊本県では、タカラレーベン西日本は7月29日から熊本市の駅前再開発街区に、ランドマークトなる15階建て3棟構成の「レーベン熊本駅レクシア」(全167戸)の分譲を開始した。坪単価は分からないが、300万円近いのではないか。
長崎市の中心市街地活性化事業の玄関口に位置する大京・穴吹工務店・三菱地所レジデンス・エヌ・ティ・ティ都市開発・JR西日本プロパティーズの5社JVの26階建て「ライオンズタワー新大工町」(240戸)もホームページを見た限りでは販売は好調のようだ。
住友不動産は8月12日、宮崎市内過去最大級のマンション「シティテラス宮崎」第1期29戸の登録申し込みを受け付ける。JR宮崎駅から徒歩5分の15階建て全204戸。第1期の専有面積は70.14~75.30㎡、価格は3,180万~5,080万円(最多価格帯3,500万円台)。竣工予定は2024年2月中旬。施工は穴吹工務店。
同社関係者によると、市内郊外部の一戸建てに住んでいるシニア層の〝都心回帰〟需要を取り込んでいるようだ。
どうして九州地方のマンション着工が増加しているのか。頻発・激甚化する自然災害や、コンパクトシティ・中心市街地活性化事業などの取り組みなどと関連するのかどうか詳細な分析が必要だ。
3大都市圏以外では、指定都市を抱える広島県(広島市)が9位、宮城県(仙台市)が12位、岡山県(岡山市)が15位、新潟県(新潟市)が25位にランクされている。
他では、過去4年間の年間平均は431戸だった茨城県が2021年度は1,405戸に増やし18位に浮上。現在、西日本鉄道・東レ建設・長谷工不動産の3社JV「つくばウェルビーイングプロジェクト」(569戸)や名鉄都市開発「メイツつくば」(166戸)などが分譲されている。
最下位の福井県は、過去4年間で154戸しかなかったが、2021年は308戸が着工された。タカラレーベン「レーベン福井二の宮CROSS FRONT」(84戸)のほか、福井駅から徒歩4分の28階建て再開発のコスモスイニシア「ザ・福井タワー イニシアグラン」(106戸)が着工増に寄与しているようだ。
ブービーの山梨県だが、タカラレーベンは、甲府市内の一等地・丸の内一丁目に位置する岡島の百貨店跡地を取得し、28階建て約360戸の商・住複合タワーマンションを建設すると先に発表した。竣工予定は2028年。
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