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2022/08/08(月) 12:54

将来性ある穴場・路線開拓、新しい視点の構築必要 トータルブレイン・杉原副社長

投稿者:  牧田司

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杉原氏

 マンション設計・コンサルタント会社のトータルブレイン取締役副社長執行役員・杉原禎之氏(59)にほぼ1年ぶりにお会いし、今年前半の首都圏マンション市場について話を聞いた。

 同社が発行した「2022年前半戦の首都圏マンション市場検証 及び後半戦以降の課題と展望」レポート(Vol.225)には、1~6月の供給量は前年同期比4.2%減の12,716戸で、初月契約率は前年同期比1.2ポイント減の72.1%、平均坪単価は前年同期の309万円から4.4%アップの323万円とある。これらは不動産経済研究所のデータに基づくもので、長谷工総合研究所の「CRI」8月号と同じだ。

 この基礎データについて。不動研は1戸30㎡未満のワンルームや1棟売り、非分譲住戸などを調査対象外(関西圏は30㎡未満を含む)にしているが、住宅着工動向からして「分譲マンション」はこの倍はあるはずで、捕捉率は50%だ。残りの部分はどうなったかも追跡調査すべきだとは思う。

 この問題はさておき、同社レポートの真骨頂は、それらのマクロデータだけではなく、直接各社にヒアリングし、好不調、人気の要因などを公表している点だ。ヒアリング対象となった新規発売物件は270物件で、そのうち90.4%に当たる244物件の回答を得ているから、ほぼ全物件を網羅していることになる。

 杉原氏自身も、毎日3~4社、毎月約50社の幹部や担当者と定期的に情報交換をしている。われわれ業界紙の記者が知りえない、生々しい現場の情報を把握しているのは間違いない。コンサル会社の強みだ。クライアントにとっても極秘情報が外にでる心配がないから、本音を語れる。

 ここでは、頂いた貴重なデータを公表することはしないが、一つだけ、杉原氏の了解を得たので、レポートの雑感(総括)をそのまま紹介する。次のようにある。

◇        ◆     ◇

 2022年の前半戦の首都圏マンション市場は、概ね昨年の好調継続ということになるが、ポイントには割安な郊外マーケットの復調があげられる。所得の上昇が難しい中、都心中心にマンション価格は上昇を続けており、賃貸を脱出したい一般層は中古や割安な郊外マンションを検討せざるを得ず、郊外物件の販売が好転した(23区でも割安な練馬区や城北エリアの販売が好転)。今年前半の売れ行きの特徴の一つに、アクセスが良い割に意外と割安なエリアでの販売好調事例の増加があげられる。

 一次取得層は予算が限られている中、検討エリアを広げてマンションを探し始めている。そしてその際、重要視しているのは、都心アクセスと割安感。そしてその良好なアクセスにも関わらず割安なエリアは、デベロッパーの沿線・エリア(地位)評価が低く、供給側に人気がないエリアである。

 エンドユーザーは、エリアの持つ過去のネガティブなイメージよりも、将来の発展性に期待し、先取りする(しかも過去のイメージはほとんど知らない)ため、デベロッパーサイドも、これまでのエリアイメージにとらわれることなく、アクセスの良さや、将来性が感じられる穴場の路線・エリアを開拓していくことが必要なのではないだろうか。

 デベロッパーは現在4つの不安要素を抱えている。①建築費の更なる上昇(人件費・建築資材・設備の高騰、ZEH-M対応によるコストアップ等)②地価の更なる上昇(マンション用地不足)③住宅ローン金利の上昇④物価高騰と生活防衛意識の高まりによる顧客マインドの低下-である。

 そして、それらを乗り越えるためには、エンドユーザーのニーズ(アクセスと割安感)にもっと応えられる新しい視点での供給戦略が必要であり、そのためには、これまでの固定観念は捨てて、沿線・エリア評価の見直しを行っていく必要があるのではないだろうか。

◇        ◆     ◇

 記者もほぼ同じ考えだ。住宅ローン金利上昇懸念だが、これは懸念が杞憂に終わることを願いたい。仮に金利が0.5%でも上昇したらわが国の経済社会はパニック状態に陥る。住宅購入どころではない。変動金利で借りている人は立ちどころに返済に窮す。ローン破綻が激増し、経営が行き詰まるデベロッパーもリーマン・ショック時の比ではないはずだ。黒田日銀総裁もそのような愚は犯さないと思う。

 さて、問題は、雑感がいう「将来性が感じられる穴場の路線・エリア」の開拓と、「エンドユーザーのニーズ(アクセスと割安感)にもっと応えられる新しい視点」をどう構築するかだ。

 不動産に穴場など存在しないし、現時点で新しい視点などどこも持ち合わせていないのではないか。売れ行きがいいのを背景に、利益を確保するため基本性能・設備仕様レベルをどんどん落とし、競合物件が高値追求してくれることを願い、漁夫の利を得ようとしているのではないか。

 強いてアクセスがよく、割安感のあるエリアをあげるとすれば、マンション空白区ではないか。直近の事例では、日鉄興和不動産・三菱地所レジデンス「リビオタワー羽沢横浜国大」がある。過去10年間にさかのぼって供給が1件もない首都圏駅は100駅を下らないのでは。舎人ライナーを〝穴場〟とする人もいるが、交通利便性よりも緑環境を重視する小生は勧められない。

 他では、小生が注目しているのは東京駅から30分圏内の京葉線南船橋だ。ららぽーとがあり競馬場もある。供給はいつか分からないが、三井不動産レジデンシャルがマンションを分譲する。利便性から言えば坪350万円でも安いと思うが、そんな高値にはならないはずだ。

 もう一つは、現在は地区計画によって居住が不可の新木場だ。規模は皇居より広い151haだ、地区計画を変更し、インフラも整備して複合都市を建設することになるのはそんな遠い将来でもないような気がする。新木場駅から東京駅までは10分だ。

 新しいサービスでは、三井不動産レジデンシャルの大規模修繕工事を長周期化することで、運用段階のライフサイクルCO2排出量を約38%削減する取り組みと、入居者が読み終えた本を次の読み手に届けるサービス「循環するライブラリ」に注目している。基本性能・設備仕様の退行を補って余りある価値があると思う。

 ZEH、全館空調、樹脂サッシは差別化の必須要件になるはずだ。

入居者の読み終えた本を貸し出す「循環ライブラリ」 三井不レジ「文京本駒込」(2022/8/6)

駅1分の利便性・資産性受けたか 県外が5割 日鉄興和「羽沢横浜国大」好調スタート(2022/6/25)

「しつこく繰り返し」仕上げる月例レポート トータルブレイン副社長・杉原禎之氏(2021/8/31)

 

 

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