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2022/08/27(土) 14:49

マンション管理適正評価「★5つ」目指す BELCA賞受賞の東急不「我孫子ビレジ」

投稿者:  牧田司

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「我孫子ビレジ」

 東急不動産は8月26日、同社が1977年に開発し、東急コミュニティーが約45年にわたり管理・運営を受託している中高層マンション「我孫子ビレジ」の記者見学会を行った。今年のロングライフビル推進協会「第31回BELCA(Building and Equipment Long-life Cycle Association)賞 ロングライフ部門」を受賞したのを受け、長寿命化の取り組みなどを紹介するため。

 物件は、JR我孫子駅から徒歩15分、我孫子市つくし野3丁目に位置する敷地面積約42ha、中高層マンションと戸建てがそれぞれ約1,000戸のほか小・中学校、市役所出張所、銀行、ショッピングセンターなどからなる複合開発のマンション棟。居住棟はSRC/PC部材造の11階建て・14階建て2棟と、PC造5階建て17棟の合計20棟994戸。間取りは3LDK(78㎡)~4LDK(104㎡)。竣工は19777年(昭和52年)。設計監理は東急不動産。実施設計は東急設計コンサルタント。施工は東急プレハブ。管理は東急コュニティー。

 見学会の冒頭、管理組合法人専務理事・田中裕実氏は概要、維持管理、長寿命化の取り組みなどについて次のように説明した。

 計画にあたっては、公団型住宅から一線を画し、最先端の技術・発想で良好な住環境を作りたいという同社若手設計者の意気込みに会社が応え、ヨーロッパの建築物視察成果を取り入れ、工事を担当する東急プレハブを設立し、SRCとPCの混構造としたのが特徴。土地が持っている「環境色彩」をデザインに導入したわが国初の事例でもある。

 専有面積は1戸78㎡とし、スラブ厚は約15cm、ふところ厚15cmの二重床。スラブと床の空間に給水管、給湯管、暖房管、ガス管、生活排水管を設置。各室に暖房用パネルヒータが設置されている。

 建物の耐震性については、旧耐震ではあるが、アスベストは含まれていないことを確認済み。また、団地在住の構造設計一級建築士が2006年に構造計算書と評定報告を精査した結果、震度6強の地震に対し、崩壊や倒壊に至るには十分な余裕があることを確認。中層棟は現行耐震基準を満たす。

 省エネ改修では、2011年に住棟セントラル式給湯設備をボイラー技士24時間常駐から無人化とし、様々な手法を用いて電力消費を76%、燃料消費を38%削減。

 2012年には居住棟の全サッシ窓を省エネ改修(Low-E複層ガラス化)するとともに、受水槽・加圧給水設備の改修を行い、消費電力を58%削減。2013年には玄関扉も一新。照明器具のLED化も実施済み。このほか、ライフラインの改修・増強も行っている。

 外構の維持管理では、「緑環境は団地の誇り」という居住者の共通認識のもと、提供公園の管理受託、小公園の整備などを行っている。

 長期修繕計画では、建て替えずに100年マンションを目指すため長期修繕36か年計画を策定。現行修繕積立金の変更・借入金なしに、36年間黒字を維持することを決議。マンション管理適正化法認定基準を満たす。建物の維持保全には専門知識・経験が必要であることから、専任理事制度を設け、永続的な維持保全を図るため「営繕タスクフォース」を設置している。

 専有部の改修では、細則の改定を行い、居住者の希望に対応。現在、リフォーム申請件数は10~20件/年。大半はフローリングだが、間仕切り壁撤去、キッチン位置変更、WIC設置も多い。高層棟はラーメン構造なのでスケルトン改装が可能(壁式構造の中層棟は制約あり)。

 居住者の人口構成は現在70~90代が半数近くで、平均年齢は58歳。入居率は95%。管理費などの滞納率は0.4%。

 これら長寿命化の取り組みをアピールするため「第31回BELCA・ロングライフ部門」(選考委員長・三井所清典氏に応募し、①時代の先端を行く高品位な設計・ 建設②基本構造を維持・保全③省エネ改修を実施④今後の長期維持保全計画-が高く評価され受賞した。同社の物件が同賞ロングライフ部門に受賞するのは、1999年(平成3年)の第1回の「東急ドエル桜台コートビレジ」に次いで2回目。第1回の同部門の受賞作はこのほか「世界平和記念聖堂」「服部時計店」(和光ビル)「パレスサイド・ビルディング」(毎日ビルディングに名称変更)「丸ノ内ビルヂング」(2002年に「丸の内ビルディング」に建て替え)だった。

 過去、BELCA賞を受賞した集合住宅は6件で、同社の2物件のほかは「コープオリンピア」「大倉山ハイム3号棟~8号棟住宅」「ヒルサイドテラス1期~5期」「たまむすびテラス」。

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受水槽ポンプ室(停電時でも7時間給水が可能)

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中層棟

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田中氏

◇      ◆     ◇             

 我孫子を取材するのは、5年前の東レ建設・総合地所「The FORESIS(ザ・フォレシス)」以来5年ぶりだ。この物件の記事でも書いたが、昭和50~60年代の前半にかけて、JR我孫子駅を中心に常磐線、成田線では大量のマンション・戸建てが供給され、活況を呈した。多いときは年間1,000戸超が販売された。

 バブル崩壊後も、駅北口徒歩圏では2000年竣工の「エールの丘」(482戸)を皮切りに「シティア」(851戸)「グラン・レジデンス」(731戸)「アクア・レジデンス」(424戸)の4棟約2,500戸のほか、この20年間くらいの間に約2,760戸が分譲されている。総じてレベルは高い。

 「我孫子ビレジ」は、同社が昭和56に大規模開発「東急ビレジ」の集大成として「柏ビレジ」を分譲開始した際、当時常務の故・安芸哲郎氏(元東急不動産社長-会長)が熱っぽく語ったのを聞いている。その後、他のマンションや戸建てを見学したときにタクシーの中から眺めたことはあるが、敷地内に入ったのは今回が初めてだった。

 取材して、こんなに素晴らしい団地が、しかも昭和52年に建設されていたのに驚嘆した。昭和50年代のマンションといえば、3LDKは18坪(60㎡)が主流で、20坪(66㎡)もあれば〝広めの3LDK〟という宣伝文句が通用した時代だ。そんな頃に、前段で紹介した高性能の中高層住宅にチャレンジした同社の進取の精神は刮目に値する。

 そのDNAは居住者に引き継がれている。ただ〝100年マンション〟を目指すための課題も見えてきた。緑環境は申し分ないどころか成長段階だ。敷地内にはシンボルツリーになりそうなメタセコイアの高木は30本くらい植わっていた。シラカシなどの常緑樹も多い。井戸水を利用した遊水路もある。

 国土交通省「マンション管理計画認定」を取得し、マンション管理業協会の「マンション管理適正化評価制度」への登録を検討中で、田中氏は満点の「★5つ」を獲得できるのではないかと話した。これらは、中古市場で適正な評価を得るに違いない。大きな武器になる。

 問題はソフトだ。中古市場での取引額は坪38万円くらいだと業界紙記者から聞いた。これは〝不当〟に安いと思う。緑環境や居住性能の価値の見える化は必須要件で、先にも書いた同駅北側にある徒歩10分圏内の約2,760戸に負けない戦略を構築する必要があるのではないか。田中氏は若者家族向けにWEBなどで情報を発信していくと話したが、管理組合の活動だけでは限界がある。行政や東急リバブル、東急コミュニティーなどの支援が欠かせない。

 そして、同社にはかつて全国の街づくりの見本になった〝街づくりの東急〟から〝団地再生の東急〟としてベンチマークとなるよう力を注いでほしい。

 明治大学・園田眞理子教授は、同社も参加した一昨年の「郊外住宅地フォーラム」で「(劣勢の郊外住宅地は)逆転満塁ホームランを打つ可能性がある」と語った。その機は熟していると記者も思う。「東急ビレジ」にはその土壌がある。人材の宝庫ではないか。

 このコロナ禍でライフスタイルもワークスタイルも劇的に変化している。「人」「地域」「コミュニティー」「多様性」「SDGs」などのキーワードは「団地再生」と極めて親和性が高い。

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高層棟はスキップフロア・両面バルコニーを採用

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樹形が美しいネタセコイア

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遊歩道(右には井戸水による遊水路)

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提供公園(維持管理は市から管理組合が受託)

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