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2023/05/23(火) 21:28

威風堂々〝聖地〟神宮外苑野球場の巨木 事業者VS.イコモス 鳥や虫の視点で考えて

投稿者:  牧田司

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神宮外苑のいちょう並木

 三井不動産など事業者4者は5月18日、「(仮称)神宮外苑地区市街地再開発事業」の環境影響評価書について日本イコモス国内委員会(ICOMOS/ International Council on Monuments and Sites)」(イコモス)から誤り・虚偽と指摘されていた全58項目に対する回答を、同日開催された令和5年第2回審議会総会で行ったと発表した。

 全58項目のうち「指摘自体に事実と異なる内容が含まれるもの」が約半数、「考え方や解釈の違いに基づく指摘」が約半数であり、評価・予測内容としては正当なものであり、評価書には誤り・虚偽はないとし、今後も審議会総会および各関係機関への報告・協議をしながら、適切に本計画を進めていくとしている。

 一方、イコモスは5月16日、「緊急要請」として、事業者の説明は「自然環境アセスメント技術マニュアル」に記載された科学的方法論を遵守しておられず、数多くの誤りと虚偽の内容を、事業者自らが立証されたものとし、東京都環境影響評価書としては著しくレベルの低いものであり、世界に誇る「環境都市・東京」の実現に向けて、再審を要請すると発表した。

 「(事業者の)粗悪なデータの集積は誤った群落分類を招き、調査対象範囲植生の本質を大きく見誤る可能性をもたらすため十分注意を要する」「生態系のネットワークは、既存樹木の53%、1018本が伐採・移植されるため、破壊される。特に、建国記念文庫の森、及び絵画館前広場の樹林地における樹齢100年を超える多数の樹木の伐採・移植は、取り返しのつかない行為である」と指摘している。

 また、イコモスは同日、中央大学研究開発機構グリーンインフラ研究室・石川幹子氏が作成した2023年調査の明治神宮外苑現存植生図を公表。植生図には、凡例として樹林帯の22項目のほか、例えば軟式野球場にはスダジイ、シラカシ、エノキ、ケヤキ、トチノキ、ヒマラヤスギ、トウカエデ、ウバメガシ、イチョウ、サクラなどの巨樹がどこに植わっているか詳細に記載されている。

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軟式野球場

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野球場のユリノキ

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屋内練習場(手前のグラウンド内野は人工芝)

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ヒマラヤスギ

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建国記念文庫エリア

◇        ◆     ◇

 記者は平成の時代に入ってから約30年間、RBA野球大会の取材のため〝草野球の聖地〟神宮外苑軟式野球場に通った。トータルすれば300~400日、試合数にしたら数千試合になるだろうか。

 再開発計画では、野球場は広場とテニス場、駐車場に変更されることになっている。工事はずっと先だろうが、野球場の最期を見届けようと、イチョウ並木なども含めて約2時間かけて見て回った。

 グランドに入ろうとしたら「ご利用者以外立入禁止」のスタンド看板が目に入った。以前にはなかったものだし、グラウンドを見て回るくらい何のお咎めもないだろうと、全6面のグラウンド(日の丸・ヒマラヤ・桜・ケヤキ・大銀杏・コブシ)の外周部の樹木を見て回った。(あとで野球場事務所に確認したら「一般の方が入り込み、キャッチボールなどをするケースが目につくようになったので10年くらい前から看板を設置するようになった」とのことだった)。

 グラウンドの外周に植えられている巨木は、双方の論争などどこ吹く風、小生のように加齢による醜い外貌を晒しながらも、しっかりと根を張り若葉を茂らせ、イコモスが形容したように「威風堂々」と屹立していた。写真で示した通りだ。主だった高木だけでも100本以上あるはずだ。

 4列配置の神宮外苑のシンボルでもあるいちょう並木も確認しようと向かう途中、小生と同年配と思われる杖を突いた男性と、男性を支えるように歩いていた女性に出会い、外苑の緑が伐採されることについてしばし話しあった。

 男性の方は、小生より1歳年上(75)の同じ多摩市民で「わたしは青山高校の出身。外苑の緑がどうなるか心配で見に来た。イチョウはかなり弱っているものもある」と話した。女性の方は奥さんで「ひどいわね。小池さん(都知事)は何を考えているのかしら」と首を傾げた。

 建国記念文庫エリアには工事用の囲いが設けられており、中に入ることはできなかった。計画ではエリア内の3,028本が伐採対象になっており、うち約9割は群生低木で、高木は23本とされている。

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野球場の「ご利用者以外立入禁止」スタンド看板

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御観兵榎(明治天皇がこのエノキの傍に居室を設けたとされる。現在は2代目とか)

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御観兵榎近くのドクダミの群生

◇        ◆     ◇

 イコモスの指摘と事業者の回答は膨大な量に及び、かなり専門的な文言もあるので、小生などの素人が読みこなすのは困難だが、以下、気掛かりなことを紹介する。

 事業者の説明資料18ページには、審議会委員の「一部のみ樹木を残した神宮外苑広場北側の保全エリアで『再生・復元』することは不可能です。本数としての残置量ではなく、質としての劣化を予測する必要があります。質を高める措置がない限り、一方向的な劣化であり、『保全エリア』とは言えません。そのための措置はどのように考えており、どの程度の効果を予測されているのでしょうか。」という問いに対して、回答では「改変する神宮外苑広場(建国記念文庫)の樹林地については、ラグビー場棟の建設によって樹林面積が縮小するため質の劣化は免れませんが、現況と同様に階層構造を有する樹林や(この「や」は明らかに誤字)を保全するとともに、改変によって開けた部分には林縁植物を移植し、林内の湿潤環境を保全して生態系を維持する計画としており、影響は限定的と考えます」となっている。(赤字は小生)

 委員は質の劣化を質しているのに対して、回答は「樹林面積が縮小するため質の劣化は免れません」と「質の劣化」を認めている。ここは「量の減少」ではないのか。また、「改変によって開けた部分には林縁植物を移植し、林内の湿潤環境を保全して生態系を維持する計画としており、影響は限定的」としているが、これは説明不足。「量は減少するが、質の劣化は限定的」とどうして言えないのか。

 また、41ページにはイコモスの「事業者がサイトで発表している緑の割合は、現状が約25%、開発後が約30%となっており、開発後、緑が増えるような錯覚をもたらす図面となっている。しかし、航空写真を判読し、精査を行い、草野球のエリアも追加すると、現況は32%、開発後は27%となる」「事業者がサイトで発表しているオープンスペースの割合は、現状が約21%、開発後が約44%となっており、開発後、オープンスペースが増えるような錯覚をもたらす図面となっている。しかし、軟式野球場は、災害時に極めて重要な役割を果たすオープンスペースであり、また、現在の秩父宮ラグビー場前の広場も貴重なオープンスペースである。このことから見直しを行った結果、現況は41%、開発後は43%となり、ほぼ変わらないことが明らかとなった」との指摘について、事業者は次のように回答している。

 「草野球のエリアも追加すると緑の割合が変化するとの指摘について、絵画館前は環境影響評価の範囲対象外ですが、現況の緑地における絵画館前の軟式野球場の緑については2018年の航空写真(google earth)を参照し、野球場の内野エリア等が土系舗装等であることを確認しております。『日本イコモス国内委員会』による算定では、土系舗装等の緑で被覆されていない部分も含んでいるため、現況の緑の割合に違いが生じておりますが、土系舗装等を含まない算定が正しいものと考えます」「オープンスペースの割合に絵画館前の軟式野球場や秩父宮ラグビー場前の広場を計上すべきとの指摘については、絵画館前は環境影響評価の範囲対象外ですが、公開空地とは東京都総合設計許可要綱においては、『計画建築物の敷地内の空地又は開放空間のうち、日常一般に公開される部分』とされており、当該記載を参考といたしております。オープンスペースの割合の算定では、道路を除く部分をその対象としているところですが、絵画館前の軟式野球場は、スポーツ施設として利用がされており、日常的に一般の人が広場等のオープンスペースとして利用する事ができないため、計上しておりません」

 みなさん、いかがか。これは、イコモスと事業者との「考え方や解釈の違い」ということになるのだろう。例えば軟式野球場。イコモスは「緑」「オーブスペース」として算出しており、前出の現存植生図でもグラウンドは土の部分以外は「芝生・草地」とされている(コブシ球場の内野は人工芝)。事業者はグラウンドは公開空地でもオープンスペースでもないとしてカウントしていない。

 これ以上立ち入らないが、地球温暖化防止や鳥や虫の視点からすれば算出手法やエリアを区切ることなどはどうでもいいことだ。緑の量と質が変わることで生態系にどのような影響を及ぼすのか、さらにまた開発後どうなるか注視する必要がありそうだ。

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いちょう並木

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「母」の枕詞のイチョウの「垂乳根」(通りがかりの若い女性グループに「皆さんはまだ若いから大丈夫でしょうし、わたしのかみさんは小さいので垂れていませんが、イチョウは成長するとこのようにおっぱいが垂れてくるんです」と声を掛けた。双方ギャハハハハ。垂乳根は雄株にもできるそうだ)

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