マスコミ各社は、積水ハウスの分譲マンション「グランドメゾン国立富士見通り」が竣工を目前に控え、購入者との契約を解除し、建物も解体すると国立市に届け出たことを報じている。報道によれば、建築基準法などの法令に違反しているわけではなく、近隣住民などから〝富士山が見えなくなる〟との反対運動を考慮し、同社は「建物が周辺に与える影響についての検討に不十分な点があった。経営判断」(朝日新聞)として決断したという。
物件は、JR中央線国立駅から徒歩10分、国立市中2丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率41%、容積率288%)に位置する敷地面積約464㎡、10階建て19戸。専有面積は65.80~75.88㎡。竣工予定は2024年6月下旬。施工は川口土木建築工業。
今後は、建築基準法第39条(手付の額の制限等)の「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して、代金の額の十分の二を超える額の手付を受領することができない」「宅地建物取引業者が、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約の締結に際して手付を受領したときは…当該宅地建物取引業者はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる」規定により、手付金の倍返しを行い、契約を解除することになりそうだ。
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住民のマンション建設反対運動により、絶対高さを法令基準より低くした事例はたくさんあるだろうが、法令に違反していないのに竣工目前で契約を解除し、建物も解体するという事例を記者は聞いたことがない。おそらく初めてのことではないか。明和地所の「国立マンション」について10年くらい取材をしてきた記者も驚いた。
同社はその理由として「経営判断」としか示していないが、「人間愛」を理念に掲げ、「人間性豊かな住まいと環境の創造」を標榜する同社にとって、そのブランド価値を守るほうが得策だと考えたのだろう。建築費や手付金倍返しと解体費用を含めた損失額は数億から10億円程度にとどまるのではないか。
今回の事例とは異なるが、2011年に竣工した同社の記念碑的なマンション「グランドメゾン伊勢山」は、2007年に耐震偽装が発覚し工事を中止して建て替えたものだ。今回の「国立」は更地にして、改めて低く抑えてマンションを建設するか、あるいは売却することになりそうだ。
それにしても、景観価値、というよりは今回は〝富士山が見えない〟というだけのごく限られたエリアの人たちの〝利益〟を重視しただけに過ぎないが、〝富士山が見える〟価値はそれほど高いのか。ならば、どうして「国立」マンションのとき、地区計画で他のエリアも高さ規制をしなかったのか。記者などは道路整備によって「ケヤキ」「イチョウ」「ポプラ」「ユリノキ」「サクラ」などの街路樹が伐採され、それらの名を付した通りが失われるほうが問題だと思うが…。
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