環境植栽学・造園学の第一人者、千葉大学名誉教授・藤井英二郎氏は7月20日、約130人(うちオンライン視聴50人)が参加した渋谷区玉川上水緑道利用者の会の「温暖化と街路樹・緑道・公園」セミナーで、「日本の街路樹の幹は強剪定後の胴吹き跡でデコボコ」「強剪定では人も猛暑に耐えられなくなるから自殺行為。樹冠を広げて直射日光を遮る樹形が基本」「大きくならない樹種や葉が少ない樹種では猛暑に対応できない」「樹木医は資格取り立てから熟練者まで様々」「(金属支柱によって)首絞められたり、地下支柱のベルトや金具が幹元や支持根に食い込んで生きられない」などと指摘し、わが国の最近の街路樹設計・管理、剪定について改善を促した。
セミナーでは神宮外苑の樹木伐採に反対しているロッシェル・カップさんもミニ講演を行い、いたるところで進められているPark-PFIの危険性を指摘した。
主催者の利用者の会は「先生の生きとし生けるものへの温かい眼差し、長年の研究に基づくお話、東京だけではなく日本全体で起こっている温暖化の影響。多くの方に知っていただければと思います」とXでコメントを寄せている。藤井氏は、利用者の会の相談を受け、渋谷区が「玉川上水旧水路緑道公園」で伐採することを決めていた189本の樹木の多くが健全であると指摘した。
渋谷区は平成30年、文化服装学院のある代々木三丁目から京王新線初台-幡ヶ谷-笹塚に至る総延長約2.6㎞、約3.4haの都市公園「玉川上水旧水路緑道公園」が都市計画決定から40年が経過し、緑道全体の傷みや老朽化が進んでいるとして再整備することを決定。当初は緑道内の189本を「不健全」と判断し、伐採対象にしていたが、渋谷区玉川上水緑道利用者の会など住民の反対により整備計画を見直し、伐採対象だった樹木のうち134本は残すことに変更。令和6年3月、都市計画公園として都市計画決定した。緑道は、従来通り都市公園として位置づけられている。※
※都市計画変更前(左)と変更後 従前は緑道と道路とも都市計画道路として位置づけられており、従後は都市計画道路は廃止され、緑道の位置付けは都市計画公園。住民らはこの変更を疑問視している。緑道は従前、従後とも都市公園法で管理されるが、都市公園そのものではない。ここが味噌。
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藤井氏は講演の冒頭、樹冠被覆率は地球温暖化への対応、ヒートアイランド現象を緩和するための重要な指標であるとし、「メルボルン(オーストラリア)は現状の22%を2040年までに40%に、リヨン(フランス)は現在27%なのを2030年までに30%にしようとしているんです。世界の大都市の多くは20%以上です。わが国はどうかというと、渋谷区は代々木公園などがあるから14.4%ですが、世田谷区10.6%、目黒区9.2%、大きな緑地のない区は5%前後です」と語った。
ここで、緑に関する様々な指標について整理しよう。環境イノベーション情報機構によると、「樹冠被覆率は、上から樹冠を地面に向かって水平に投影した時にできる陰影の面積が(全体)敷地に占める面積の割合」で、「緑被率は、ある地域又は地区における緑地(被)面積の占める割合。平面的な緑の量を把握するための指標で都市計画などに用いられる。『緑地』の定義は場合により異なるので注意が必要。また、『個々の土地』の面積についても、厳密に樹木、芝、草花など植物によって覆われた部分の土地(樹木の場合、その樹冠を水平面に投影した土地)の面積のみをいう場合(この場合、緑被率ということが多い)と、樹林地や農地など『緑地』と定義された一団の土地の面積をいう場合(この場合、緑地率と言うことが多い)とがある」と定義づけしている。
また、「みどり率は、平成12年(2000年)12月に東京都が策定した『緑の東京計画』に取り入れられた指標。樹林地や農地など緑で覆われた土地面積に加えて、公園内の緑で覆われていない土地面積や水面などの面積(オープンスペース)を加えた面積が対象とする地域全体面積に占める割合をいう」としている。
このほか、敷地の道路側立面に対する緑の立面積(道路から見たみどり)の割合をいう「緑視率」や、敷地面積に対する建築物の緑化施設(上から見たみどり)の割合をみた「緑化率」も用いられることがある。
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指標が異なると、どのように数値が異なるか。港区の公表資料を見比べていただきたい。上段が「緑被率」で、下段が「樹木被覆率」だ。全然異なることがわかる。緑被率は23区のうち7区が20%以上で、すべての区で10%以上だ(みどり率は区部平均24.2%)。一方、樹木被覆率は20%を超える区は1つもなく、8区が10%を下回っている。
参考までに、記者が2022年8月に書いた東京都の街路樹に関する記事を添付する。当然のことだが、モノサシによって数値は異なり、行政は総じて都合のいい数値しか公表しないと考えるべきだ。
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