旭化成不動産レジデンス・マンション建替え研究所は8月22日、第10回「高経年マンション再生問題メディア懇親会」を開催し、「建替えの再取得住戸に係る実態(マンション建替え調査報告書Ⅷ)」報告と、香川総合法律事務所代表弁護士・香川希理氏による基調講演「外部管理者方式でどうなる? マンション管理の未来」を行った。まずは、香川氏の基調講演から紹介する。
香川氏は、国土交通省「マンション標準管理委託契約書見直し検討会」「外部専門家の活用のあり方に関するワーキンググループ」の委員を務めており、今年6月に改訂された「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」について概要、問題点とその対応、区分所有者の責務、今後について語った。
香川氏は、約1時間の基調講演・質疑応答の中で、管理者と管理会社の関係について、「発注者たる管理者としてはなるべく安く発注することが利益となり、受注者たる管理会社はなるべく高く受注することが(株主)利益となる、構造的に利益が相反する関係」にあると何度も述べ、警鐘を鳴らした。
また、「マスコミの力」にも言及し、メディアの発信力に期待を寄せた。(この点については、最近、日経新聞をはじめ一般紙も利益相反の危険性を指摘している。結構なことだと思う)
そして、「私見」と断り、香川氏は次のように締めくくった。
「理事会方式と管理者方式について、必ずしもどちらかが正解でどちらかが不正解というわけではない。ただし、何ら法規制やガイドラインがないまま管理業者管理者方式が急増していたので、管理組合(区分所有者)の権利が不当に害されることのないようガイドラインが策定された。
したがって、まずは管理会社、分譲業者、管理組合(区分所有者)などがガイドラインを理解し、遵守することが重要となる。
そのうえで、区分所有者の意識を高めるとともに、管理のあり方や必要な法規制について検討、論議していくべき」
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記者は、国土交通省の「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」以降、12年間くらいマンション管理について取材してきた。管理規約からコミュニティ条項を削除することに対しては反対派に与し、批判的な記事をたくさん書いた。外部管理者方式(以前は「第三者管理」、最近は「第三者管理者方式」と呼ばれていた)については、フィー(報酬)の問題があり、弁護士やマンション管理士などが請け負うことはなく、管理会社は利益相反をクリアするのは容易でないと考えてきた。
今回、ガイドラインが改訂され、管理業者管理方式も要件を満たせば可能になった(すでに数年前から一部の会社は採用していたが)。記者も経験があるが、理事会の役員として素人が活動するのは難しく、自らの財産はともかく、組合員の財産を棄損せず、価値を向上させなければならないというプレッシャーは相当なもので、その労力をお金に換算したら理事一人当たり1万円/月はすると見ている。そんなお金を捻出することができる中古マンションは半分もないはずだ。
香川氏が指摘した利益相反の懸念はぬぐえない。先の国土交通省「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」の資料として公表されたアンケート調査(2023年2月~3月実施)結果-「第三者管理を導入している事例がある」と回答した45社のうち、「管理者としての契約を締結していない」が51%に達しており、60%が報酬の設定を行っていない-に愕然とした。一般的な管理委託契約と管理者委託契約を別会計にしないで、どんぶり勘定にしている管理会社の常識を疑った。一言でいえば杜撰そのものだ。これでは利益相反は防げないと思った。
だが、管理者の過失による損害や故意・重過失などによる損害防止策を講じ、新ガイドラインを遵守すれば利益相反は防げと思う。マンション標準管理規約第38条でも、「管理組合と理事長(管理者)との利益が相反する事項については、理事長(同)は、代表権を有しない。この場合においては、監事又は理事長(同)以外の理事が管理組合を代表する」と担保されている。利益相反を防げないと管理会社=管理者はリプレイスされるのは必至だ。管理業者管理者方式はいわば両刃の剣だ。
フィー(報酬)の課題も中古はともかく、新築はクリアできそうだ。今年5月のマンション管理業協会の記者懇親会でこの問題について質問した。高松茂理事長(三井不動産レジデンシャルサービス会長)は「当社(三井不動産レジデンシャル)は新築マンションに採用しているが、きちんとフィーを明記している。既存マンションへ採用する場合は1,000円以下/戸にしている。無料はありえない」と答えた。
同協会副理事長・谷信弘氏(長谷工ホールディングス・長谷工コミュニティ代表取締役会長兼社長)は「当社グループも積極的に第三者管理者方式を採用している。管理受託とは別会計で、戸当たり1,000~2,000円」と話した。
また、大和ハウス工業と大和ライフネクストが今年5月21日に行った「マンション管理業(分譲マンションの 第三者管理者方式)篇」をテーマにした業界動向勉強会で、同社はデメリット対策として、第三者管理者サービスを独立した組織で提供し、各業務執行に複数の部門が関わることで牽制・内部統制を行い、社内ガバナンスを高め、契約形態としては管理委託契約とは別途「管理者業務委託契約」を締結し、報酬額は50戸程度で月額約5万円(1戸当たり1,000円)と報告。同社は、既存マンションを対象に外部管理者方式の受託に注力してきた結果、2023年度末では76組合、受託管理戸数は5,287戸に上っており、近く100組合になる予定だという。
例えが適当かどうかわからないが、街路樹1本の維持管理に要する年間費用が1万円もする時代だ(自治体によりかなり差はあるが)。50戸程度で月額約5万円(1戸当たり1,000円)というフィー(報酬)は、区分所有者の財産を守り、価値向上を図るマンション管理の目的と、管理組合役員の労力を天秤にかけたら安いような気がする(主体者の権利・義務を管理会社=管理者に売り渡していいのかという反論はありそうだが)。ただ、月額5万円で管理者業務を請け負う弁護士など専門家は皆無ではないか。(香川氏にそのことを聞きたかったのだが、失礼だと思いとどまった)
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