三井不動産と日鉄興和不動産は10月2日、「MFLP・LOGIFRONT 東京板橋」の竣工記者説明会・内覧会を実施し、日鉄興和不動産執行役員企業不動産開発本部副本部長・加藤由純氏、三井不動産執行役員ロジスティックス本部長・篠塚寛之氏が施設の特徴などを説明し、板橋区区長・坂本健氏が防災拠点の取り組みなどを紹介した。説明会にはメディア約75名が参加し、関係者を含めると百数十人が参加した。内覧会では、都内初の物流施設併設型ドローン実証実験の場「板橋ドローンフィールド」の実演デモンストレーションなどが行われた。
施設は、日本製鉄の工場跡地を2021年に日鉄興和不が2021年に取得し、三井不と共同で開発を進めてきたもの。23区内の希少な工業専用地域に位置し、敷地面積約91,000㎡、延床面積約250,000㎡の都内最大の物流施設。敷地内に東京都初の物流施設併設型ドローン実証実験の場「板橋ドローンフィールド」を開設し、ドローン業界全体の産業発展に寄与することを目指すほか、官民連携により板橋区の防災拠点とし、隣接する公園と敷地南側に流れる新河岸川沿いの歩行空間を創出するなど地域に開かれた施設となっているのが特徴。ほぼ満室稼働する。
BCP対策・セキュリティ対策としては、免震装置、72時間対応の非常用発電機、備蓄倉庫、入退館管理、24時間常駐の防災センターなどオフィスビル同等のレベルとし、梁下有効天井高5.5m(オフィス天井高は3m)、床の積載荷重1.5t/㎡を確保。国際基準(45ftコンテナ車両)の大型車両にも対応可能なトラックバースなど最新鋭の設備を備えている。
共用部施設としては、2か所のラウンジ、ドライバー休憩室に加え、有人コンビニ、ジェンダーレストイレ、礼拝室、WEB会議用ブースなどの快適な空間・ワークプレイスを提供する。
建物デザインを手掛けたのはオーストラリアのデザイン事務所JACKSON TEECE。「White Waves」を外装デザインコンセプトに、空、さざ波など自然の有機的な流れを抽象化させ、地域と調和する洗練されたファサードデザインとなっている。
環境面の取り組みでは、屋上全面に約19,000㎡、約4MWの太陽光パネルを設置し、余剰電力は区内の73の区立小中学校へ供給することで、区立小中学校のRE100化に貢献。年間の一次エネルギー消費を実質的にゼロとする最高ランクの「ZEB 認証」とDBJ Green Building認証最高位となる「5スター」を取得している。
地域貢献では、様々なイベント開催が可能な広場を確保し、約25,000㎡の緑地エリアを整備して生物多様性に配慮し、周辺地域の在来種を基本とした計573本の樹木・約50種類の植栽を施している。
また、緊急着陸用のヘリポートとしても活用可能な高台広場と、隣接する板橋区立舟渡水辺公園を一体的に整備したほか、地域住民約1,000人を収容可能な緊急一時退避場所を整備。敷地内には、「板橋区災害時配送ステーション」を設置し、災害時に必要な飲料水や非常食等を保管するとともに、区内の避難所に支援物資を配送する。
日鉄興和不動産の加藤氏は、用地取得の経緯、区の地域課題への対応などについて説明し、安心・安全の取り組みを行い「地域に開かれ、人々の豊かな暮らしを実現する」と語った。
三井不動産の篠塚氏は、施設の位置づけを「街づくり型物流施設の集大成」とし、業界トップレベルのスペックを備え、また地域社会との共生を通じて「地域の価値向上に貢献したい」と語った。
施設は、都営三田線西台駅から徒歩10分、板橋区舟渡4丁目の工業専用地域(建ぺい率60%、容積率200%)に位置する敷地面積約91,255㎡、6階建て免震構造の延床面積約256,157㎡。設計は日鉄エンジニアリング。施工は日鉄エンジニアリング・佐藤工業。監修はフクダ・アンド・パートナーズ。デザインは外装:JACKSON TEECE、内装:ボノボ。着工2023年2月、竣工は2024年9月。
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記者説明会で加藤氏は「地域に開かれ他施設」と、篠塚氏は「街づくり型物流施設の集大成」とそれぞれ語った。
その通りだと思う。施設の南側を流れる新河岸川に掛る舟渡大橋の歩者専用路から撮影した写真を見ていただきたい。美しいデザインが確認できるはずだ。敷地は隣接する舟渡水辺公園との垣根はなく、あおぞら広場、芝生広場、わくわく広場などは地域住民に公開される。従前は一般に供共用されていなかった新河岸川沿いの歩行空間も整備されるという。素晴らしい施設だと思う
しかし一方で、「地域に開かれた」「街づくり」「地域の価値向上」が強調されればされるほど、物流業界全体は地域から分断され、嫌悪施設として地域から嫌われているのではないかとい疑問が湧いてきた。
配布された資料には「工業専用地域(工専地域)での大規模開発」と記されており、篠塚氏は「希少価値が高い」とも語った。昨年行われた記者説明会では、敷地が工専地域であることは知らされていなかった(きちんと確認すべきだった)。
そこで調べてみた。篠塚氏の語った通りだ。東京都の市街化区域の用途地域指定面積111,553.7haのうち工専地域は1,323.0ha(全用途の11.5%)で、区部に限ると工専地域は1,018.5ha(同1.7%)しかない。工専地域の指定があるのは江戸川区の555.6ha(同15.2%)、大田区の361.0ha(同6.5%)、板橋区の87.8ha(同2.9%)、足立区の14.0ha(同0.3%)のみだ(かつて江東区も指定されていた)。
物流施設も消費地に近いほど価値が高いということだろうが、〝ほぼなんでもあり〟の準工と異なり、工専地域は住工混在を認めず、住宅、小規模の物品販売店や飲食店を除く商業施設、ホテル・旅館、学校、図書館などは許可されない(保育施設は許可される)。
区と東京都が工専地域のままにしたのは、都の「用途地域等に関する指定方針及び指定基準」(平成16年)の「基本的に物流機能を担うべき区域として、原則として工業地域又は工業専用地域を指定する」に倣ったのだろうが、「街に開かれた施設」にするのであれば、マンションや宿泊施設、その他の用途を可能にする準工業地域に変更する選択肢はなかったのだろうかという疑問だ。
それと、これは些細なことかもしれないが、社銘板に掲出を断った会社もあるということだが、これはなぜか。世間に知られると困ることでもあるのか。地域に開かれた施設と符合しないではないかという疑問を抱いた。
地域・自然との共生では、敷地内に植えられている樹木はみんな幼木で、施設内の緑もフェイクばかりだったことも気になった。酷暑に耐えられなかったのか、枯れている樹木もたくさんあった。外構に成木が植えられ、施設内も本物の観葉植物がふんだんに配されていた三井不動産のシニア向けマンション「西麻布」「幕張」「藤沢」と比較するのは酷だが、「街づくり型物流施設の集大成」を謡うのであれば、緑の質を上げてほしかった。
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なぜ、このようなことを書くかといえば、2018年5月、当時の三井不動産常務執行役員ロジスティクス本部長・三木孝行氏(現、顧問)が「もはや物流施設は嫌悪施設ではない」と語ったのに記者は惚れこみ、その後ずっとこの言葉が頭の中にこびりついているからだ。事実、「船橋」も「羽田」も素晴らしい施設だ。
そんなこんなを考えながら取材を終え、駅に向かう途中だった。ビルの敷地内の樹木がことごとく強剪定され、エントランスに植えられている立派なクスノキなど数本が丸裸にされている光景に出会った。〝樹木葬〟とはこのことをいう。葉っぱはほとんどなし、死に瀕している状態だった。社名を確認した。ESG経営に力を入れているわが国を代表する大企業の物流子会社営業所だった。
公道からとはいえ写真撮影の許可を得ていないし、記事に掲載したら訴えられる可能性もありそうなので写真の公表は避けるが、この会社の幹部や社員は無残な樹木を見てなんの痛痒も感じないのだろうか。街路樹を枯死させた中古車販売会社とどこが違うのか。物流=嫌悪=樹木虐待を結びつけたくはないのだが…昭島の81haという桁違いの巨大物流開発は大丈夫か。
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