分譲マンション事業に関する市場調査から商品企画、設計・監理まで幅広いサービスを提供しているトータルブレイン取締役副社長執行役員・杉原禎之氏に2年ぶりにお会いし、最近のトレンド、展望などについて話を聞いた。もともと顔は黒かったのだが、真っ黒だった。ゴルフ焼けでも酒焼けでもない。日焼けだ。雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモマケズ、自ら構想を練り仕上げた「月例レポート」を携え、毎日2~3社、月にして50社に説明して回る〝足〟のなせる業でもある。
マンションデベロッパー50社といえば、ほとんどのプレイヤーを網羅していることになる。「月例レポート」は2008年の第一号から直近の2024年9月発行の「首都圏超ハイグレードマンション市場検証~@8,000千円/坪オーバーの市場状況を探る~」まで246号を数える。年間にして約10回発行していることになる。1号当たりのページ数は20ページ前後で、小説にすれば短編小説だが、ぎゅっと詰まった中身を加味すれば中編小説か。つまり、年間にして長編小説を3~4編発行していることになる。その価値たるや、金額に換算したら1冊数十万円だろう。
最新号は、2007年以降の坪単価800万円以上の51物件がデータとしてまとめられており、うち12物件について物件の特徴、販売手法、購入者の傾向が紹介されている。
一つひとつ紹介したいのだが、著作権の問題もあるし、杉原氏自らがまとめたデータを第三者に流すことなどできない。興味のある方は直接同社に問い合わせていただきたい。(記者は51物件のうち半数近くを取材しており、『RBAタイムズ こだわり記事』で紹介している。検索していただければただで読める)
冒頭に「自ら構想を練り仕上げた『月例レポート』を携え、毎日2~3社、月にして50社に説明して回る」と書いたが、これは知らない方に説明が必要だ。記者はトータルブレイン創業者の故・久光龍彦氏とは長谷川工務店時代からのお付き合いで、師と仰ぐ業界人3人のうちの一人だ。亡くなられる2019年までは定期的にお会いし、酒を飲みながら歓談していたのだが、「月例レポート」は杉原氏がまとめているとは全然知らなかった。久光氏が1か月に回る会社は40社くらいだったから、この5年間で10社くらい増加している。これまたすごい。
久光氏と杉原氏が異なるのは睡眠時間くらいか。久光氏は20時には床に就き、4時に起きていた。杉原氏は22時に就寝し、起きるのは5時だそうだ。
実はもう一つ、久光氏と杉原氏の違いがある。価値観、人生観の違いだ。久光氏は、記者もそうなのだが、「不動産の価値」として居住環境を重視した。不動産(マンションなど)はあちこちに所有していたようだが、住んでいたのはカバザクラの突板がふんだんに用いられていた山の手のマンションだった。一方、杉原氏が最初に買ったのは港区の湾岸マンションだった(その後買い替えたかどうかは不明)。杉原氏がそのマンションを買ったとき、久光氏は笑って何も言わなかったが、〝なんであんなところに住むか〟という表情をしていた。
この違いは、今回の「月例レポート」でも確認することができた。昨年ほぼ同時期に分譲された「三田ガーデンヒルズ」(1,004戸、以下「三田」)と「ワールドタワーレジデンス」(389戸、以下「浜松町」)の評価についてだ。
記者は「三田」が分譲開始される10か月前に「坪単価は1,300万円でどうか」という記事を書いた。結果はその通りとなった。未分譲住戸が13戸あるが、どのような形で分譲されるのか(一般公開はされないのではないか)。「三田」は、「広尾」「六本木」「虎ノ門」「麻布台」とともに「5大ヒルズ」と称されるのは間違いない。
「浜松町」は取材を申し込んだが断られた。なので設備仕様レベルはわからないのだが、坪単価1,176万円万円は妥当な値段だと思う。ところが、杉原氏は「私はもっと高くても売れたと思う」と話した。
皆さんはいかがか。記者は「浜松町」の施工を担当した鹿島建設のファンで、ハイスペックだとは思うが、超高層建築物に四方八方囲まれている。「三田」と異なり、投資需要もあったはずだから、杉原氏が考えるように坪1,500万円でも〝先物買い〟で購入する投資家はいただろうが〝格〟が違う。「三田」は第2種住居地域(容積率400%)立地、「浜松町は商業地域(同900%)立地だ。
つまるところ、数えれば20も30もある「不動産の価値」の要素のうち何を重視するかの違いだ。われわれ年寄りはみんな「居住環境」を重視するが、最近の人は「資産性」を重視する傾向が強い。
一般的には、資産性とは値下がりする可能性が少なく、交通利便性が高いエリアと解され、23区でいえば港区、千代田区、渋谷区や中央区、新宿区、文京区の一部だろう。今後も東京-有楽町-新橋-浜松町-品川ゲートウェイ-品川エリアは国際交流拠点として異次元の再開発プロジェクトが目白押しだ。これらのエリアに立地するマンションは、よほどの社会・経済状況が変化しない限り、資産性が担保されるはずだ。将来性を考慮すれば、杉原氏が「浜松町」を「三田」以上に評価するのはわからないわけではない(先日、三菱地所関係者と話をしたのだが、仮に皇居が見下ろせる「大・丸・有」エリアでマンションが供給されたら、坪単価は5,000万円くらいになるという点で意見の一致を見た)
だが、しかし、お金持ちは城南5山に代表されるように昔から高台立地を好んだ。1988年にバブルが崩壊するまでは、億ションといえば住居系立地がほとんどで、商業系エリアの物件は数えるほどしかなかった。「高台」であって「タワマン」ではない。
「タワマン」好きのお金持ちには「齊藤ひろ子+浅見泰司 編著 タワーマンションは大丈夫か?!」(2020年、プログレス)に関する記事を添付したので読んでいただきたい。
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