左から三浦氏、和泉氏、柳川氏、石塚氏
東京建物は5月21日、高度金融人材育成施設「FIAN(フィアン)」の開所戦略発表会を開催し、オックスフォード大学や東京大学、シンガポール国立大学アジアデジタル金融研究所などと連携し、東京を起点としたグローバルエコシステムの強化と、国際金融都市・東京の競争力強化に貢献する「AIと金融の未来研究会」を設けた背景、狙いなどを説明した。
発表会で同社代表取締役副社長執行役員・和泉晃氏は、同社が参加組合員として事業参画している「呉服橋プロジェクト(八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業)」の先行施設としてグローバル金融システムのプレーヤーと連携を取りながら企画運営する施設として「FIAN」を開設し、第一期(2025年度)の「AIと金融の未来研究会」にはSMBC日興証券、みずほフィナンシャルグループ、商工組合中央金庫、三井住友銀行、大和証券など大手金融機関など8社がプラチナ会員として参加すると説明。賛助会員を含めた会員は3年後には300社に拡大すると語った。
「AIと金融の未来研究会」座長の東京大学大学院経済学研究科教授・柳川範之氏は、オンライン、ネットの世界だけでは新しいオープンイノベーションは生まれないとし、「交流を通じて国内外の最先端の知見を活用できる高度金融人材を育てるのが研究会の大きな柱の一つ。もう一つは、縦割り構造の壁を打破すること。金融機関同士、あるいは金融庁、日本銀行、国土交通省の担当者などと話しあう機会などないのが現状。今後は横連携を進めないと大きな発展は望めない。研究会ではお互いが学び議論しあうことで、ネットワーク効果とか新しい技術が生まれることを期待している」と述べた。
元NTTデータ経営研究所・石塚昭浩氏は「このような取り組みはわが国ではほぼなかった」と、来賓として挨拶した東京都産業労働局国際金融都プロモーション推進担当部長・三浦知氏は「都が推進している『国際金融都市・東京』構想2.0と皆さまの取り組みは目指す方向が一致している。大変期待している」とそれぞれ話した。
施設は、地下鉄日本橋駅直結(東京駅から徒歩6分)、東京建物日本橋ビル11階の約443㎡。最大70名収容のセミナー・イベントスペースのほかシェアオフィス(個室4室、会議室1室、コワーキング約25席)から構成。
実寸大の4畳半の畳をモチーフにしたエントランスのアート(畳は井草を使用し、中央の鏡は緑、赤、青に変化する)
受付カウンター(植物は本物)
ラウンジ
竹筒に本物のカンパニュラ、アジサイなどを活けているラウンジ(ソファの後ろはフェイクグリーン)
◇ ◆ ◇
AIと金融はもっとも苦手で縁遠い分野だ。しかし、AIを活用しないと企業も社員も生きられない世の中になるだろうということは容易に想像できる。三井不動産は、現在のDXの年間投資額200億円を2030年には350億円に拡大すると発表したし、大和ハウス工業が2019年に立ち上げたデジタルコンストラクションPJの人員は51名だったのが、現在は268名に増やしているのも聞いた。
今回の発表会で注目したのは、わが国の金融機関の後進性と、金融機関に限ったことではないが、縦割り社会・組織の弊害についてだった。
配布された資料には「NTTデータによると、2024年時点で世界の金融機関の約69%が生成AIを導入済または試験運用中である一方で、日本国内金融機関では、既に生成AIを活用している企業は31%、施行段階を含めると58.1%に留まっている…海外と比較して〝実装〟のフェーズに課題がある可能性が高い」とある。金融機関ですらこの程度だ。全業種ではどうか言うまでもない。
縦割り社会・組織の弊害が論じられたのはバブルがはじけたあたりからだ。それまでグローバル企業ランキングで上位を独占していたわが国は、その後、凋落の一途だ。その原因の一つに硬直した縦割り社会・組織にあると記者は考えている。
柳川氏はこの縦割り社会・組織の壁に挑戦すると話した。大和ハウスは今年4月1日付で、縦割り組織に横ぐしを入れる大幅な機構改革を行っている。世の中が劇的に変わる予感がする。
「呉服橋プロジェクト」現場
施行中の「呉服橋プロジェクト」(左は三菱地所「常盤橋タワー」)
「常盤橋プロジェクト」の北側の現在(首都高速が取り払われ、日本橋川が再生されるのは2040年)
DXとCEが世の中を劇的に変える 大和ハウス「業界動向勉強会<建設DX篇>」(2024/12/12)
驚嘆 2030年の年間DX投資額350億円に拡大 三井不「DX VISION 2030」策定(2024/8/5)