神宮外苑イチョウ並木(青山通りから2025年7月14日撮影)
神宮外苑地区再開発の再考を願う建築・造園・都市計画・環境の専門家有志は2025年7月2日、文部科学大臣宛てに「神宮外苑再開発事業におけるJSCによる秩父宮ラグビー場の財産処分の認可申請への不認可及び適切な指導に関する要請書」を提出した。要請書は、神宮外苑の再開発を可能にした「東京都公園まちづくり制度」そのものが違法であると主張している。多くの専門家が制度を違法としていることから、神宮外苑問題は新たな局面を迎えた。
有志に名を連ねているのは、石川幹子氏(東京大学名誉教授)、糸長浩司氏(元日本大学教授)、大方潤一郎氏(東京大学名誉教授)、原科幸彦氏(千葉商科大学前学長、東京科学大学名誉教授)、藤本昌也氏(日本建築士会連合会名誉会長)、松隈 洋氏(神奈川大学教授)で、要請書の冒頭は次のようにある。
「私たち専門家有志は、神宮外苑の文化的資産及び環境の保全を求め、2023年3月8日以来、建築・造園・都市計画・環境政策等の420人の専門家の署名をもとに「施行認可の撤回及び環境影響評価の継続審議」を求める要請書を三度にわたり都知事、都議会議長及び環境影響評価審議会会長に提出してきました。(中略)しかし、現段階では何の回答もない状況です」
続いて、「東京都は2013年に作成した『東京都公園まちづくり制度実施要綱』の『公園まちづくり制度』を神宮外苑地区に適用し、秩父宮ラグビー場を『当初都市計画決定からおおむね五十年以上経過した未供用区域』とし、都市計画公園を削除しました。そして、再開発等促進区を定める地区計画を導入し、超高層事務所ビル等を建てることを可能にする都市計画を決定しました。これらの審議過程は、民主的で透明なものとはいえないだけでなく、都市施設の都市計画決定に関する知事の裁量権の濫用に当たる違法なものです」としている。
そして、「そもそも都市計画公園等の都市施設の都市計画決定あるいは変更にあたっては、都市計画基礎調査等を踏まえ『土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配するよう』定められている(都市計画法第13条第1 項第11号)にもかかわらず、当該都市計画公園に関するユーザーのニーズの動向や環境保全の必要性等を、客観的データ等を踏まえ、市民参加過程を含む正規の都市計画の審議過程を通じて十分に吟味しないまま、単に都市計画公園内の一部の土地の区域が『長期に渡って未供用』であるということを理由に当該未供用区域を都市計画公園区域から除外することは都市計画法に違反した違法な行為であるといえます。つまり、『東京都公園まちづくり制度実施要綱』は、都知事の都市計画の運用に関する著しい裁量権の逸脱を認めた違法な要綱であり、この要綱に基づく都市計画公園区域の変更も違法なものであるといえるのです」と主張している。
日本イコモスは、神宮外苑の再開発について、令和4年10月3日付「近代日本の公共空間を代表する文化的資産である神宮外苑の保全・継承についての提言」では「『公園まちづくり制度』の不適切な適用」としている。「公園まちづくり制度」そのものが違法としたのは今回が初めてと思われる。
このほか、神宮外苑の再開発に反対しているロッシェル・カップさんなどが東京都を訴えている「神宮外苑再開発事業認可取消等請求事件」では、令和6年5月10日付準備書面で「東京都公園まちづくり制度は要綱で定められた制度であるが、都市計画法の趣旨に反するものである以上、違法なものである」としている。
今気が付いたのだが、右のイチョウの枝ぶりからして、専門家が指摘している樹勢が衰えているイチョウか
移植が検討されている秩父宮ラグビー場前のイチョウ並木
◇ ◆ ◇
要請書を読んだ。都の行為が「違法行為」であると主張する方々に対して、判断材料がない段階で行政の長として答えようがないのではないか。有志の方々は、都の「東京都公園まちづくり制度」は都市計画法違反と主張するならば、「要請書」-つまり「お願い文」などという形式ではなく、事業を認可した東京都を被告とする行政訴訟を提起すべきだと思う。
しかし、都市計画法そのものは、行政の無謬主義に基づいており、都が都市計画法の何条に違反しているかを証明するのは至難の業だ。有志の方々は、違法の根拠として都市計画法第13条第1項第11号を持ち出しているか、これのどこに違反しているのか示していないし、秩父宮ラグビー場が昭和50年からずっと「未供用」(記事参照)とされてきたのは不条理だとしても、事実のようだ。全て法律が優先する。悪法も法だ。都も事業者も、施設内の「広場」を「都市公園」とは一言も言っていない。「都市計画公園」と「都市公園」は似て非なるものだ。これを混同しているから問題を難しくしている。「神宮外苑」が都市公園であるかの言説をまき散らしてきた専門家にもその責任はあると思う。(どこかの記事に、都が「未供用と断定」と書かれていたが、これは事実ではない。都市計画法でずっと「未供用」とされてきたのだ)
景観権に訴えても勝ち目はない。勝訴するためには、大量の巨木伐採によってどれほどの利益か損なわれるか科学的に証明する必要があると思うが、残念ながらわが国には、米国などで採用されている「i-Tree(都市緑地機能評価)システム」は一般化されていない。
ただ、石川幹子氏が7月14日に行われた緊急オンラインセミナー「神宮外苑で今、何が起きているのか? 」で語った「神宮内苑は代々木公園から水の供給が得られているから維持できているが、内苑も危機的状況にある。維持・管理ができないのであれば、明治神宮は国に返還すべき」という意見は傾聴に値すると思う。
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