神宮外苑の再開発(乱開発)に強く反対しているロッシェル・カップさんなどが呼びかけ人となっている「SAVE 神宮外苑ミーティング実行委員会」は6月29日、「0707 CHANGE! SAVE 神宮外苑ミーティング」を神宮外苑絵画館前広場で行い、斎藤幸平さん(経済思想家)、永井玲衣さん(哲学研究者)、ラサール石井さん(タレント)、岸本聡子さん(杉並区長)、竹内昌義さん(建築家)、北山恒さん(建築家)ら各界の著名人がそれぞれスピーチし、〝神宮外苑の樹木伐採反対!乱開発反対!〟などと気勢を上げた。イベントには約500人(主催者発表)か集まった。
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イベントを知らせるメールをロッシェル・カップさんから受け取ったとき、時期が時期だから今が盛りの甘い香りのクチナシの話かと思ったが、そうではなかった。汚辱に満ちた政治の匂いが芬々と漂ってきた。
やめようと思ったが、だれが何をやろうとやらまいと、人の行動はすべて政治的にならざるを得ない。小生のように政治に背を向ける「非政治」、あるいは逃げる「反政治」もまた「非政治」「反政治」の色彩を帯びる。
なので、〝街路樹の味方〟として参加・取材することにした。質はともかく「街路樹が泣いている」の記事へのアクセス数は数十万件に達している。見出しは独り歩きし、あちこちに採用されている。見出しそのものには著作権などない。結構なことだ。
イベントは予想通りだった。あるいはと思っていた、都知事選挙に出馬している蓮舫氏も飛び入り参加し、「神宮外苑再開発は立ち止まり、都民投票でその是非を問いましょう」などと演説をぶち、参加者の喝さいを浴びた。
著名人のスピーチは、小生の心を揺るがすまでには至らなかった。和して同ぜず。外苑の樹木伐採に反対するのは基本的に賛成だが、的外れのトークもあった(記者はすべて伐採するなとは言っていない。樹木を避けて開発することは可能だと思っている)。
こんなことを明かしたら、主催者や参加者に袋叩きにあうだろうが、取材しながら、人気ブログ「融通無碍」のブロガー長谷田一平氏と「日高屋」で早く飲みたいとずっと考えていた。
イベント開始から2時間くらい経過したころだ。やっと解放される時間だ。中高年ばかりの参加者(とはいえ、外苑の巨木と比べたらせいぜい幼木かやっと成木になったころに過ぎない)の中から若い女性がすくっと立ち上がり、「大学4年生です。もう泣けそうです。生まれてきてからずっと未来に不安を抱えてきましたが、皆さんのお話を聞き、希望の光が見えてきました。弱い人に目を向ける政治にしないといけない。幸せに生き、(樹木を守る)都民の権利が奪われてはならない。選挙に行って社会を買えましょう」と語った・
この日の取材で唯一、もっとも感動した瞬間だった。
この女性の話には感動を覚えたのだが、記者が注目したスピーチが一つあった。よく聞き取れなかったのだが、6月6日に亡くなった建築家の槇文彦氏(享年95)について建築家の北山恒氏が触れたことだ。神宮外苑にも槇氏は関与したことを話したのではなかったか。北山氏は何を話されたのか。
記者はお会いしたことは一度もないが、槇さんが大好きだった。槇さんの最後の作品になったかどうかはわからないが、野村不動産の「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」と日本財団の「THE TOKYO TOILET」プロジェクトのうちの一つ「恵比寿東公園」の記事を読んでいただき、トイレはぜひ見学していただきたい。こんな美しいトイレは全国どこを探してもないはずだ。
隈研吾氏は6月14日付朝日新聞に「槇の建築だけは、まったく別の、さわやかで控えめで、しかも周囲の街と融(と)けあう、開放的な空気感をたたえていた。今から思い返せば、槇の建築はひとつの大きな転換の予兆であった」「槇は国際人であったからこそ日本人になれたのであり、日本人であったからこそ国際人になれたのである」「槇が造った街や建築は、専門家をうならせるだけではなく、実際に明るく、軽やかで楽しかった。独善的建築家と社会との分断というモダニズムの課題も、槇は見事に乗り越えてみせてくれたのである」などと寄稿している。
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小生は、神宮外苑再開発が都知事選の争点になるかどうかはわからない。マスコミ報道によると、蓮舫氏は「いったん立ち止まる。都知事選の争点にしている」と主張。選挙公約に「再開発の前提となっている『公園まちづくり制度』の適用プロセスや環境アセスメントを、もう一度厳格に検証します」と掲げている。再開発の是非を問う都民投票を行うべきとしている。
これに対し、「小池氏は『争点にならない。なぜなら今立ち止まっているから』と説明。事業主体である民間事業者に樹木保全策の提出を求めているとした」(6月19日付朝日新聞など)と述べた。
しかし、この小池氏の「(再開発計画は)今立ち止まっている」と話したのは明らかに嘘だ。計画は立ち止まってなどいない。
小池氏が「立ち止まっている」と語った根拠は、2022年5月26日付の都知事名による「神宮外苑地区におけるまちづくりに関する要請について」を指すと思われるが、要請書には「立ち止まれ」などと一言も触れていない。これに対して事業者は2023年2月17日付で報告を行っている。報告書にも「立ち止まります」などと書かれていない。その後、この報告書に対する都の再要請は現段階ではない。それを了としとしているのだろう。
イベント参加者に「私は選挙に行かない」と正直に言ったら大ブーイングを食らった。「信念はないの」と聞かれたので、「そんなものありません」と答えた。
なぜ選挙に行かないかくどくど説明しないが、小さいころから親に〝嘘つきは泥棒の始まり〟と強く諭されたし、敬愛する百瀬恵夫・明治大学名誉教授が「政治家は詐欺師か大馬鹿野郎かのどちらか」と喝破したのを、そして同じ長野県出身の大好きな作家・丸山健二氏も無視しているのに習っているからに過ぎない。詐欺師にはなりたくないし、大馬鹿野郎は自分一人で十分だ。
小池さんのような嘘つきは大嫌いだが、事業者の法的な手続きには瑕疵(うそ)はないような気がする。行政(権力)による要請書は絶大な力を発揮する(無視し続けたら間違いなく行政処分に踏み切る)。事業者はきちんと回答している。
「公園まちづくり制度」については記事にしているので読んでいただきたい。これがみそだ。「都市計画公園」の「未供用」を活用する新たな都市再開発手法だ。そんな裏技があったかと小生は驚愕した。
蓮舫さん
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