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2026/06/23(火) 16:16

大和ハウス芳井会長 なぜ〝推し本〟に原田ひ香著「三千円の使いかた」(中公文庫)

投稿者:  牧田司

 Screenshot 2026-06-23 at 16-12-20 油断大敵〝経営者はかくあれかし〟大和ハウス・芳井会長 マスコミ懇談会.png
芳井氏

大和ハウス工業の芳井敬一会長が20265.21付朝日新聞「好書好日」で、オススメの3冊の一つに原田ひ香著「三千円の使いかた」(中央文庫、20218月発行)を上げた。芳井氏がどうしてこの小説を〝推し本〟として紹介したのか、その理由を知りたくて読んだのだが、なにも分からなかった。徒労に終わった。経営者の心は読めない。

芳井氏は、記者がもっとも気になる業界トップの一人だ。一言でいえば、何を打ち出すか分からないからだ(芳井氏はラガーマン時代、瞬時の判断が勝敗を左右するWGを務めていた)。いくつか紹介しよう。

同社は202311月、2022年度実績の分譲戸建て1,571棟を2027年度には7,000棟に拡大すると打ち出した。取締役常務執行役員住宅事業本部長・永瀬俊哉氏は、「現在の木造化比率7%を全て木造にしたいくらい」とまで語った。永瀬氏の発言は、芳井氏の意向によるものであるのは間違いない。

同社は20243月、賃貸住宅トップの大東建託と賃貸に関する防災協定を締結したと発表した。芳井氏は発表会の席上、「大東建託さんとはお会いしたいと考えていたので、竹内(社長)さんにお会いし、非常に素晴らしい、ぜひ進めましょうと即決していただいたのがスタート。(管理戸数)業界トップの大東建託さんと組むことは世の中に大きなインパクトを与える。トップ同士の決断が大事だということも分かった」などと話した。

同社はまた20249月、埼玉県の分譲戸建て3戸の設計・施工を分譲戸建てのトップ飯田グループホールディングスの1社に発注し、同様の契約を分譲戸建て供給ナンバー2のオープンハウスとも結ぶ計画が進行していることを明らかにした。永瀬氏は「当社の社長の芳井と飯田さんのトップの方が財界活動の中で案外親しくされている」と、その舞台裏を明かした。

同社は20265月、29日、不動産ストック事業「BIZ Livness(ビズ リブネス)」の代表的プロジェクトである相模原市の複合商業施設「COTOE(コトエ)橋本」を開業した。住宅向け「Livness」と合わせ、2030年代に売上高1兆円を目指している。このほか、業界の課題の一つである「団地再生」の取り組みにも力を注ぐことを打ち出している。

これらはすべて、2055年の創業100周年に向けた長期ビジョン「売上高10兆円」実現への布石だ。

その芳井氏が「好書好日」で「三千円の使いかた」を推奨した。中央公論新社のホームページには、「三千円…」は「70代、50代、30代、20代の御厨家の3代にわたる女性たちの節約ストーリー(家族小説)」「2022年上半期ベストセラーランキング三冠達成」とあり、「小説なのに家計管理の勉強にも出来るお得な一冊」「これは女性のあらゆるライフステージにおける人生の縮図です。こんなに面白くてタメになる小説は初めてかも」などの読者の言葉が躍っている。発行部数は100万部を突破しているようだ。

Screenshot 2026-06-23 at 16-07-14 三千円の使いかた -原田ひ香 著|中公文庫|中央公論新社.png
注公論新社ホームページから

        ◆     ◇

 売上高が55,768億円(20263月期)の会社の会長であり、お金には困っていないはずの芳井氏がどうして〝推し本〟として紹介しているのか、その意図を探ろうと読んだ。文庫本のページ数は349ページだから、一挙に読もうと思えば12日で読める。ところが、この種の〝節約家族小説〟(そんなジャンルがあるのか)を読むのは初めてで、どこにでもありそうな3世代の女性の家計簿や貯金、節約、恋愛、趣味、子育て、調理、おしゃべりなどの現実社会がリアル(リアリズム文学でもない)に描かれているのに、金銭感覚など全くない小生は面食らい、何度も中断し、読み終えるまで1週間もかかってしまった。次のような場面のオンパレードだ。

 「(井戸家の)真帆は自分のこずかいを五千円くらいと決めていた」「消防士の夫、太陽の給料は、残業手当も含めても二十三万円と少し」「太陽の月々のこずかいは二万円だった。少し前まで一万だったのだが、さすがに『たりないよ』と文句を言われて増やした」「井戸家の月々の収支を書き出すと次のようになる」

給料 (手取り)二十三万円
家賃 八万八千円
食費 二万円(週四千円×五週)
太陽おこずかい 二万円
スマホ代 (二人で)五千円
光熱費 一万円
保険料 (太陽のみ)二千円
予備費 レジャー費など 二万円
貯金 六万円

 これには愕然とした。小説の時代背景はバブル崩壊後だから、今から2030年くらい前か。給料が二十三万円だったら、やむをえないのだろうが、こずかいが二万円とは…。

 小生はこれまで自分のこずかいを計算したことがないが、ざっと計算してみた。まずタバコ代。以前は130本吸っていたが、今は20本弱だから、月約14,000円。次に昼食代(酒代含む)。もっぱら利用するのは日高屋で1日平均1,000円として、25日間で約25,000円。外出した時や取材の合間に利用するコーヒー代(タバコが吸えるドトールしか利用しない)が月に約10,000円。これだけで約39,000円だ。家で飲む酒代(ほとんど芋焼酎=「鬼火」はとてもおいしい)は月に10,000円。このほか、小説などの書籍代は、今はお金もないので図書館で借りるようにしているので、月に数千円もないかも。

この小説の中で唯一面白いと思ったのは、小生とよく似た生活力などまるでない中年男性を描いた第4話の「費用対効果」だ。大好きだった故・宮尾登美子さんは実父を冷徹な目で描いたし、〝両性具有〟作家を自認する小池真理子さんも男性の性愛を心憎いばかりに表現した。原田さんもそうだ。作家に男性も女性もないと思うが、女性だから男性がよく見えるのかもしれない。

 ただ、原田さんは令和4年、業界人ならみんな知っている、黒川紀章が設計した「中銀カプセルタワービル」をモデルにした「そのマンション、終の住処でいいですか」(新潮文庫)も書かれているが、そのビルを〝おっぱいマンション〟と揶揄しているのには正直腹が立った。

 小生はバブル崩壊の前の約10年間、旧職の記者としてこのビルの前を週に一度通って校正作業のため印刷工場に通っていた。居室内を取材したこともある。〝おっぱいマンション〟には全然見えなかった。業界関係者もそう呼んでいた覚えはない。ご存命の若尾文子さん(92歳)に失礼ではないか。

 もう一つ付け加えるなら、小生は2004年の芥川賞に当時19歳の綿矢りささんと、20歳の金原ひとみさんが受賞したとき、同賞受賞者のベストセラー本を読まないことに決めた。今でも読むのは同世代以上の作家の小説で、若い人の小説はほとんど読まない。 

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