
「TRAN.SCENDER® HÔTEL Yokohama」
プロフィッツは10月1日、記者発表会を開催し、わが国に眠る約352兆円の「未流通アセット」をいかに事業化し、新たな価値を見出すかの戦略を発表するとともに、横浜中華街の飲食店ビルをホテルへ転換した「TRAN.SCENDER® HÔTEL Yokohama」を公開した。
発表会の冒頭、同社代表取締役・田中慎一郎氏(47)は、日本の収益不動産は約352.1兆円と推計される一方、年間取引額は約1.8%にとどまっている現状をとらえ、「未流通アセット」とは、売買市場に出ておらず、現在の使い方や持ち方では十分に価値を引き出せていない本社、寮、研修所、店舗、遊休地などの遊休・低稼働の不動産を指すと定義づけている。
そのような考え方をするようになった原点について田中氏は、12年前の銀座ビルの再生を紹介。立地・面積・築年数・賃料としての「物件」ではなく、用途・商品・体験・価格・鵜運営・投資まで一体的に設計することが大事で、選び続けてくれる「ファン」をつくることが、高い賃料を支える「事業」につながると語った。
遊休・低稼働不動産が多い原因として、わが国には不動産を「保有する価値」を重視する文化があり、低稼働でも一定の収入が得られれば先のことを考えない所有者が多く、業界もまた開発、運営、仲介などがセグメントごとに区切られており、定量的に不動産の価値を図る物差しがないことを指摘した。
再生事例として紹介した「TRAN.SCENDER® HÔTEL Yokohama」は、横浜・中華街駅から徒歩3分の、築30年の大型飲食店ビルを、オレンジ・アンド・パートナーズと協業し、アート・茶・服・街を取り入れた滞在型ホテルへ転換したもので、2025年11月14日に開業。2028年11月期の目標は稼働率83%、ADR(客室単価)35,580円、RevPAR(1室あたり収益)29,530円。2026年1~7月の実績は、事前計画比で稼働率が10.5ポイント、RevPARが2.8%上回っていると語った。
発表会に出席したオレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役副社長・萩尾友樹氏は、同社の社長は小山薫堂氏で、〝もったいない主義〟を掲げ「場の企画」「食の企画」「ファンづくりの企画」をテーマに20年間にわたって活動していると紹介。飲食店をホテルに再生・転換するにあたっては、中華街で減る「宴会需要」と、横浜で増える「滞在需要」に着目し、〝あったらいいね〟〝面白いね〟のアイデアを100くらい提案したと話した。
田中氏は、「これまでの知見を活かし、未流通アセットを世の中に開放し、日本を面白い国にしていく」と締めくくった。

田中氏

萩尾氏(左)と田中氏
◇ ◆ ◇
田中氏は「面白い国にしていく」と語った。記者も、どこかのテレビ曲も謳っていたように〝面白くなければ記事じゃない〟がモットーなので、そしてまた、ホテルでは朝食の中華がゆにシュウマイ、杏仁豆腐、担々麺など、こんなにたくさん食べたのは数十年ぶりの食事が振舞われたので(酒の提供はなかったのは残念)、その〝お返し〟をしないと失礼なので、読者の皆さんもそのつもりで記事を読んでいただきたい。中国ほど義理を重んじる国はない。
試食会が終わり、いざ客室見学に移るときだった。だしぬけに〝アンポ ハンタイ〟の拡声器の音が外から聞こえた。60~70年前の記憶が一挙によみがえった。この日は、華僑総会のパレードが行われるのは事前に確認していた。いまの日中関係を考えれば〝安保反対〟もありかと、外に飛び出した。練り歩く人の衣装はみんな〝赤〟。これも納得。最後尾で日の丸と中国の国旗の小旗を振っている人に「どうして安保反対ですか」と尋ねたら、「そうじゃない。日中友好万歳とみんな叫んでいるのよ」だった。
取材を終え、近くの料理店に入った。「おなかがいっぱい。紹興酒だけください」と注文した。メニューをみたら、この店は〝食べ放題〟が売りで、紹興酒は1種類しかなく1合650円だった。1週間前、リストの取材のときに飲んだ甕だし紹興酒は1,300円だったので、その半値だ。味はほぼ同じ。どっちが高いのか安いのかさっぱりわからなくなった。
隣の3人組の女性のお客さんは日本語も中国語も話していたので、ノートに「日中友好万歳」と書き、「これは中国語でどのように発言するのですか」と聞いたら、「Rì zhōng yǒu yì wàn suì」と気安く応えてくれた。これがどうして「安保反対」に聞こえたのかわからないが、記者は「牧田司」とまたノートに書き「Mù tián Sī(ムー ティエン スー)」と発音したら通じた。記者は何度も中国に行ったことがあり、自分の名前と「灰皿」の「烟灰缸Yānhuī gāng(煙を吸うと肺がんになる)」くらいは話せる。
さて、みなさん。どうして中国はホテルのことを「酒店」「飯店」と呼ぶかご存じか。開高健「玉、砕ける」(1978年「文藝春秋」)には「直行挺身」は正常位の意味で、「中国語ではホテルのことは××酒店、レストランのことは△△酒家という習慣であるけれど、なぜそうなかは誰にもわからない」「食事のときには…『莫談国事』…政治の論議をするなということであろう」とある。「莫」は「甚だしい」という意味で、記者が大好きなノーベル賞作家の莫言「豊乳肥臀」(平凡社)はものすごく面白い。
肝心の「TRAN.SCENDER® HÔTEL Yokohama」について。記者は、〝中国風〟を売りにするのであれば、デザインは工夫の余地はあるが、素晴らしいホテルだと思う。なにが素晴らしいか。広さと価格だ。最大で8人が泊まれる50㎡の客室ルームチャージは2万円から(1人当たり2,500円)、従前は倉庫だった1~3階の卓球台付き137㎡は6万円から(同7,500円)だ。いずれも地下の巨大なミストサウナが利用できる。一般的なアパートメントホテルならこの2~3倍はする。
そしてまた、記者は、いつものように分譲マンションに置き換えた。横浜中華街の繁華な一等地に住もうとするニーズがあるかどうかは詳細な分析は必要だが、坪単価700万円として10坪で7,000万円なら飛ぶように売れると思う。
ただ、横浜中華街の課題も多いと思う。聘珍楼が破綻したことが象徴しているように、もう北京ダックやらフカヒレ、ツバメの巣を目的に訪れる客はいないのではないか。おいしさだけだったら都心のホテルにたくさんある。中国がどこにも負けないのは、3,000年の歴史と文化を感じさせる料理でいえば田舎料理だし、建具・食器類では掛け軸、図画、景徳鎮、青磁器、七宝焼き…だ。先に、工夫の余地があると書いたのはこの点だ。
同業のメディアの方に一言。今回に限ったことではないが、最初の記者発表会に参加していたのは30人くらいだと思うが、ホテル見学はその3分の1もなかった。ものを見ない記者は記者じゃない。

ラウンジ

137㎡の客室

ミストサウナ

提供された朝食セット

華僑総会パレード



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