「HARUMI FLAG」の分譲価格(単価)に関する記事・書き込みがネット上でヒートアップしている。明後日(23日)にはメディア向け説明会が行われるので取材してレポートするが、その前に、記者自身の立ち位置をはっきりしておきたい。
記者は、東京都がデベロッパー11社に「HARUMI FLAG」の用地約13.4haを約130億円で売却した時点で「東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟」(2016/8/4)のWeb記事を書き、その価格の安さ(容積率1種当たり坪8万円)から判断して分譲坪単価は250万円と予想した。
記事を書いた当時は、Web記事は日経新聞のWeb「住宅サーチ」に転載されていたこともあり、ものすごい反響がありアクセスが殺到した。
都民も〝異常な価格の安さ〟に驚いたようで、「譲渡価格は違法・不当であり、損害の回復等必要な措置を講じることを求める」住民監査請求(2017年5月19日付)が提起され、監査委員は手続き、鑑定評価手法、譲渡価格の妥当性など全てにおいて適法・適正に行われたとして住民監査請求を退けた(2017年7月19日付)。
鑑定評価手法については、事業地は選手村として一時使用され、開発期間が長期にわたる特殊要因を考慮した結果、通常の取引事例比較法ではなく、「開発法」による評価手法が用いられ、土地価格は予想される住宅の販売総額・賃貸収入額を契約時点の価格に割り戻し、その額から想定される支出(建築工事費、販売経費など)を差し引いて適正に算定されたとしている。
これを不服とした住民ら「晴海選手村土地投げ売りを正す会」は2017年8月18日、小池百合子東京都知事を被告として、売却妥当額との差額1,200億円を支払うよう不動産会社11社に請求せよという民事訴訟を提起し、現在審理が行われている。
裁判がどうなるかはともかく、監査委員が全て適法・適正と判断を下した以上、これ以上この問題に深入りはしない。以下は監査委員の裁定を是としたうえで、いくつか問題を提起する。
まず分譲価格(単価)について。基本的にはいくらで売るかはデベロッパーの自由裁量であり、買うか買わないかは消費者が決めることだ。われわれ外野がとやかく言う問題でない。
しかし、今回の事業地は都民の財産だ。地価公示の10分の1以下という安値で売買されたのであるから、デベロッパーはそれに見合う適正価格で分譲し、土地値が安い分だけ購入者に還元すべきというのが記者の意見・主張だ。
いったい、1種8万円という値がどれほど安いか。アクセス、規模、開発期間などが「HARUMI FLAG」とよく似ている「幕張ベイパーク」の例を紹介する。
2015年、三井不動産レジデンシャルら民間7社が千葉県企業局から用地約17.5ha(計画戸数約4,500戸)を取得した額は280億円(1坪52.6万円)だった。容積率は300%くらいのはずで、1種当たりだと17.5万円となる。「HARUMI FLAG」の2倍以上だ。
この「幕張」の現在の坪単価は210万円だ。もちろん単純比較はできないが、「HARUMI FLAG」を坪250万円と予想・主張するのは的外れでないと思う。
この予想・主張を〝補強〟する材料もある。都とデベロッパーが交わした敷地譲渡契約には譲渡契約金額の変更に関する次のような条項がある。
「敷地譲渡契約締結後、東京都の事由により事業計画を変更する場合及び特定建築者が応募時に提案した資金計画に比べ著しく収益増となることが明らかとなった場合は、敷地譲渡金額について協議するものとします」
いったい「著しく」とはどの程度なのかについて、都は「『著しく』がどの程度のことを指すか弁護士と相談する」としているが、極めて難しい問題だ。モノサシなどないからだ。
記者は、そのモノサシとしてマンションの売上から原価(土地取得費、建築工事費)を差し引いた粗利益率を考えた。直近の11社のマンション粗利益率は29.8%(2018年12月期)の東京建物が断トツで、他の三井不動産、住友不動産、三菱地所、野村不動産、東急不動産などは20%前後だ。
つまり、東建の粗利益率30%を越えたら「著しく」と考え、その分岐点は坪250万円とはじいた。
ただ、デベロッパーはみんな欲張りで、30%程度の粗利益率では「著しく」とは考えないふしもあり、基本性能・設備仕様レベルが高くなるともっと高くなるか。これは自信がない。
そしてまた、「良心に従い、誠実に鑑定評価等業務を行うとともに、不動産鑑定士の信用を傷つけるような行為をしてはならない」(不動産鑑定士法)不動産鑑定士によって「(公示地価の10分の1以下の)敷地譲渡予定価格は合理的な根拠に基づき算出され、かつ厳正に審査された、適正な価格である」(監査委員)とすれば、「著しく収益増」となる事態にはならないとも考えられる。
仮に「著しく収益増」となる事態が発生したら、それこそ不動産鑑定の鼎の軽重が問われることになる。
従って、「HARUMI FLAG」の坪単価は〝妥当〟とされる可能性が高い-というのが現時点での記者の考えだ。
監査委員は「本件事業の今後の実施に際しては、重要な決定に当たり、専門家の意見を十分に聞く等の内部牽制体制を強化することや、意思決定過程及び決定内容についてきめ細やかな対外説明を行うことなどにより、これまで以上に透明性の確保に努められたい」と意見を述べている。
この意見を汲み、当事者からきちんとした説明がされることを願うのみだ。