トヨタ自動車とパナソニックの住宅事業の統合が決まった。トヨタ自動車が進めるモビリティサービスへの取り組みとパナソニックが進める「くらし」のアップデートへの取り組みを融合させつつ、街全体での新たな価値の創出を目指すもので、新しい合弁会社プライム ライフ テクノロジーズを2020年1月7日(予定)に設立。社長にはパナソニック専務執行役員・北野亮氏が就任する。
合弁会社は、両社の連結の範囲外となる見込みで、傘下のトヨタホーム、ミサワホーム、パナソニックホームズの3ブランドは残す。3ブランドの戸建住宅供給戸数は約1万7千戸に上り、国内住宅業界でトップクラスの地位を獲得する。ミサワホームは上場廃止となる。
◇ ◆ ◇
事業統合により合弁会社の売上高は7,972億円(2018年3月期)、住宅供給戸数は約1万7千戸となり、戸数では供給トップの積水ハウスの11,636戸(2019年1月期)を上回る。
しかし、戸数だけを比較するのはほとんど意味がない。戸数だけで言えば飯田グループホールディングスは44,275戸(2018年3月期)で積水ハウスの約4倍もあるが、売上高は1兆3,353億円で、積水の2兆1,603億円にはるかに及ばない。
積水ハウスは、全体としてパイが縮小気味の戸建住宅を住宅関連事業で補い、拡大するという長期戦略が奏功している。売上高構成は戸建住宅より賃貸住宅、フィービジネスのほうが多く、国際事業やリフォームも大きな伸びを見せており、競争が激しい分譲ママンションや都市開発事業は抑制気味だ。
売上高で積水ハウスを大きく上回る大和ハウス工業も、全体の売上高に占める戸建住宅は10%強に過ぎず、賃貸住宅、商業施設、事業施設が成長ドライバーとなっている。多角化も進めており、その他の事業セグメントも約14%に上っており、戸建て住宅を上回っている。
他のハウスメーカーも同様に、それぞれの特色を生かした事業展開で地歩を築いている。
もちろん、両社の住宅事業統合も量的拡大だけが目的ではなく、「今後の成長の柱となる街づくり事業の展開を機動的に実施できる体制を整える」(ニュース・リリース)ことにある。
しかし、この分野でも同業のハウスメーカーやデベロッパーと肩を並べるのは容易なことではないと考える。別掲に示したように、ここ数年間に見学した3社の分譲戸建ては優れてはいたが、街づくりの実績では他社にかなわない。(パナソニックのスピーカ付きダウンライトは最高に素晴らしいが)
個人的には、潤沢な資金力を生かし、再開発などの街づくりで大手の一角に食い込めば面白い展開になるとみているのだが、この事業分野もまた大手デベロッパーの独壇場となっており、ハウスメーカーでは旭化成ホームズがマンション建て替え事業で健闘しているくらいだ。当面は〝ぶら下がり〟として共同事業に参画するしかないのではないか。
分譲マンション事業の強化も難しい。大手デベロッパーの寡占化が一層進み、もはや付け入るスキはない。〝すき間〟を埋めるしかないのではないか。不動産流通事業はほとんどゼロに等しいのもワンストップで顧客のニーズに応える際にネックとなる。
その一方で、可能性を秘めるのは海外事業ではないか。これまたわが国のハウスメーカー、デベロッパーがこぞって進出しており競争は激化するのが必至だが、世界の〝トヨタ〟〝パナソニック〟のブランド力をもってすれば、互角以上に戦えるのではないか。わが国のハウスメーカーやデベロッパーを知らなくとも〝トヨタ〟〝パナソニック〟を知らない外国の人はいないはずだ。圧倒的優位に立てるのではないか。
このように見ると、戸建て事業の量的拡大は難しく、現段階では街づくりのノウハウも他社と比較して特段優れていると思えない。その弱点を補うためにはデベロッパーと手を組むしかないと考える。三井物産が合弁会社に名乗りを上げていることからも分かるように、今回の両者の事業統合はデベロッパーを含めた業界再編の序章に過ぎないのではないか。〝嫁〟にはなりたくないだろうが、新会社と手を組みたいデベロッパーは数社はあるはずだ。
ミサワホーム・トヨタホーム 小学館女性誌とコラボした「セブンデイズヴィラ」(2016/11/4)
現段階でスマートシティ№1団地 ミサワホーム「エムスマートシティ熊谷」(2014/12/24)