奥村氏(奥村建築再生設計事務所ホームページから)
本日(6月5日)、奥村建築再生設計事務所代表・奥村誠一氏から次のようなメールを頂いた。ご本人の了解を頂いたので紹介する。
奥村氏は今年3月31日付で、20年間所属していた前職である青木茂建築工房を退職し、4月1日に奥村誠一建築再生設計事務所を創業した。
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私が何かことを始めようとすると、いつも壁が立ちはだかります。
私が建築家になることを夢見て大学に入学した1994年の直前にバブルが弾け、2000年に社会人になった時から日本は失われた20年が始まり、東京に来た2011年に東日本大震災が起こったために引越しが遅れ、2020年に起業するとコロナ禍により未曽有の状況で非常事態宣言が発出されました。
これまでも、これらの壁にぶつかりながら、もがきながらも一つ一つクリアしてきたと思っています。難しい局面はチャンスでもあるとも思っています。
今回の非常事態宣言の解除に基づき東京都はステップ2を発表し、当社もいよいよ本格始動となります。
私の人生の大きなターニングポイントは建築家である青木茂先生の門戸を叩いたところにあり、建築の再生を設計する魅力に気づかされました。
建築の再生を設計することで少しでも社会の役に立つことが魅力であり、楽しさであり、その社会的意義は大きいと考えます。
このような思いを込めて、建築の再生を設計する事務所として、社名を奥村誠一建築再生設計事務所と命名いたしました。
これまでたくさんの人に出会い、多くの人の助けを受け、今の私があります。
みなさまとの出会いがなければ、今の私はないと考えています。
今後も、微力ながら、環境循環型社会に向けて、社会貢献ができればと考えています。
また、今年度は,東京大学で教鞭をとる機会を与えていただいており、建築の再生を設計することについての魅力について、学生さんにも伝えることができればと考えております。
これらの学術的な活動や社会活動を通じて、建築再生の一般化を目指していく所存です。
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奥村氏が退職し、事務所を設立することは青木茂先生ご自身からメールで知らされていた。
青木先生は「2000年に我が社に入社しました奥村誠一君が、3月31日をもって退職し独立することになりました。
20年間心身ともに私を助けてくれ、事務所の運営や作品造と献身的な仕事をしていただきました。
私の初期、つまりリファイニング建築の初期から今日まで、技術確立の柱として支えていただきました。
リファイニング建築の作品では八女多世代交流館の設計アシスタントから、彼が最後に担当した、協働会館まで一貫してリファイニング建築の顔となる仕事を担当してくれました。
その間に一級建築士を取得、そしてアトリエ事務所としてはなかなか取得が難しいと思いましたが、首都大学東京に社会人で博士課程に進学して、角田誠教授の指導をいただきながら博士の学位も取得いたしました。
彼の努力への敬意をするとともに、独立後は、もちろん私の事務所の手伝いもしてもらいますが、リファニング建築の技術は今後社会に必要とされていると思いますので、ウィングを広げなければなりません。
そのような意味でも彼の独立は大変良い機会ではないかと思います。
ただ新型コロナの真っ最中ですし、建築界も油断のできない時期に入っております。皆様方のご協力が必要と考えています。
是非応援とご支援の方よろしくお願いいたします」と綴っている。
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奥村氏に初めてお会いしたのはいつだったか思い出せないのだが、おそらく記者が驚愕した7年前の「千駄ヶ谷のリファイニング建築」現場見学会あたりからではないかと思う。「リファイニング建築」の魅力に取りつかれた記者はその後現在まで約20回記事にしている。(「RBAタイムズ」にアクセスし、「青木茂」で検索していただくと全ての記事が読めるはずなので、興味のある方はそちらも参照していただきたい)
この間、ずっと考えていたのは青木先生の後継者のことだった。
青木先生は2014年に都庁で行われた「首都大学東京 リーディングプロジェクト最終成果報告会」で、リファイニング技術の伝承、雇用の促進、耐震診断のデータベース化、現行法との矛盾の解消、教育の重視性などを強調された。そして2018年3月に首都大学東京特任教授を退官されたときも「リファイニング建築はマニュアルや指針はまだ日本にはない。調査・企画・再生設計・工事監理の一連の流れと、金融機関との資金調達の枠組みは構築できた。優秀なスタッフも育っており次の世代へつなげたい」と語った。
今年72歳の青木先生はまだまだお元気そうで、いまネットで調べたら椙山女学園大学客員教授、大連理工大学客員教授、日本文理大学客員教授、韓国モグォン大学特任教授などを務められているので、リファイニング建築は若い建築家に引き継がれるのだろうが、奥村氏の独立はその第一歩になるのだろう。
厳しい船出だが、青木先生の持論は、「意匠も外観は30年で見直し、内観も5~10年ごとに手を入れるべき」という「30×4=120年ターム」説だ。今年は戦後の復興期からほぼ60年、バブル崩壊からちょうど30年目だ。新型コロナはこれまでの社会経済のあり方を根底的に覆し、新しい体制に移行することを促している。いわば第三段階の入り口だ。「建築の再生を設計する事務所」としてまたとない機会ではないか。新しい風を吹かせていただきたい。
奥村建築再生設計事務所のホームページは次の通り。www.kenchikusaisei.com
リファイニング建築の考案者 首都大学東京特任教授・青木茂氏が退官へ 記念講演会(2018/2/13)
全てが腑に落ちる 首都大学東京「リーディングプロジェクト最終成果報告会」(2014/3/19)
千駄ヶ谷のリファイニング建築に見学者300人(2013/11/12)