新型コロナの感染動向を示す重要な指標とされる「感染経路不明率50%」がなかなかクリアできていない。厚生労働省が発表した8月27日現在の累計感染者は64,652人で、うち過去1週間の経路不明率は前週より2.0ポイント増の54.2%となった。62.5%の東京都をはじめ大阪府(65.1%)、愛知県(62.5%)、沖縄県(68.3%)、群馬県(69.6%)、高知県(66.7%)などが60%を超えている。
不明率が下がらないことについては、これまで何度も書いてきたので繰り返しは避けるが、5月11日に発信した「新型コロナ 感染経路不明者が減らない理由 〝闇社会〟〝二重就業〟も一因」の記事はこれまで44,041件のアクセスがある。「#」の使い方など知らないので、読者の方に〝拡散〟するようお願いしたわけでもないのに、他の不動産の記事より数倍どころか数十倍の多さだ。
その記事の当否はともかく、見えない敵に立ち向かい、感染拡大を防止するには徹底して感染経路を辿ることだと、最初のクラスターとなった屋形船で学んでいるはずだ。
劇的に感染者が減少した人口約1,945万人の米国ニューヨーク州には感染経路をたどる「トレース部隊」があり、「トレーサー」は3,000人もいると報道された。わが国でも、トレース(Trace:追跡)とアビリティ(Ability:能力)を組み合わせた造語「トレーサビリティ(Traceability)」はあらゆる分野で最低限守るべきものとされている。
では、東京都にはニューヨーク州のトレーサーに該当するスタッフはどれくらいいるか聞いたが、都が所管するのは多摩地区と島しょのみで、各区の保健所に聞いてほしいとのことだった。つまり、都は感染経路を辿るスタッフがどれくらいいるか把握していないということだ。
ならば、現場を取材するほかないと、いくつかの区の保健所に取材を申し込んだ。案の定「多忙」を理由に断られた。感染の第一波のときはNHKなどのメディアがひっ迫する現場の模様を報道したが、いまは全くない。
報道されないのは、現場の感染防止体制が改善されたからでないことは容易に想像できる。マンパワーが圧倒的に足りないのは明らかだ。データがそれを示している。
社会保障統計年報によると、平成7年の保健所数・職員総数は845か所・約34,000人だったのが、平成27年のそれは495か所・約28,000人となっている。20年間で保健所数は4割以上、職員数は16.8%減少している。職員の中には医師はもちろん薬剤師、保健師、管理栄養士などが多数を占めているので、感染経路を辿る専門職は1か所に10人か20人くらいではないか。だとすれば、都の体制はニューヨーク州の10分の1程度ということになる。
ITなど情報処理能力不足も露呈した。都は5月11日と21日、それぞれ感染者公表数字を訂正した。11日は保健所からの未報告分111人を追加し、重複分35人を削除し、21日は58人を追加し、重複など11人を削除した。その理由として患者数の急増により業務が増大したため、①患者の入院や退院等の情報を入力するデータベースがない②患者の退院等に関する情報を病院から保健所に連絡する仕組みが整備されていない③発生届についての紙ベースでの管理など、情報管理のしくみにも不備があった-などと報告された。
その後、数字の訂正は行われていないが、経路不明率は一向に改善されていない。専門家の声は政府に届いているのか。せっかくのオープンデータ・リソースも生かされていない。
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