国土交通省は3月17日、移住や観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な関わりを持つ「関係人口」に関する実態調査の結果をまとめ発表した。
調査結果から国交省は、全国の18歳以上の居住者約10,615万人のうち推計で三大都市圏居住者の18.4%(約861万人)、その他地域居住者の16.3%(約966万人)を合わせ約1,827万人の人が特定の地域を訪問しており、そのうちの約34%の628万人(三大都市圏約301万人、その他地域約327万人)が、関係先の地域の産業の創出、ボランティア活動、まちおこしの企画などに参画する直接寄与型と規定。さらに、直接寄与型の5~6%の人は関わっている農山漁村部の自然環境に魅力を感じており、移住希望が強いことが判明したとしている。
調査は昨年9月、インターネットアンケート方式で行われたもので、有効回答数は18歳以上の全国に居住する148,831人から回答があった。アンケート調査結果は60ページ以上にわたる長文だが、同省ホームページに公開されている。
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記者は、いま国が進めようとしている二地域居住には興味がないし、田舎暮らしに懐疑的なのだが、インターネットとはいえ18歳以上の人口の0.1%に当たる約15万人から回答を得たのに驚き、その結果から約1,800万余の人を「関係人口」と規定し、移住希望者が多いという結論に導いた大胆さに驚嘆した。
いうまでもなく、驚いたのは回答者の多さだ。調査は国交省が直接国民に呼びかけたものではなく、調査会社が委託を受けて行ったものだそうだが、新型コロナ感染者は若者中心に再び三度増加傾向を示しており、国や行政は〝若者の心に響く〟情報発信に苦慮しているというのに、よくも15万人の回答を集めたものだ。回答者には何か特典でも与えたのか、心臓をぐっとわしづかみする惹句でもってひき付けたのか。
(ネットで調べたらアンケートモニター数が1,000万人超の調査会社もあるようだ。各社のモニターを合計すると国民の数を上回るのではないか。つまり、記者のような全く興味がない人も相当数いるはずだから、複数の調査会社のモニターになっている人がかなりいるということだ。インターネットによる調査は、従来型の無作為抽出、訪問面接法と比較して結果に差異が生じ、モニターの属性が高学歴、専門技術職が多く技能・労務職が少ない、正社員が少なく非正規従業員が多いとか、心理的特性の違いにより調査対象の実態を正確に反映していないとかの問題も指摘されている。モニターになっている人を対象としたアンケートをやってほしい。どのような結果となるか)
驚嘆したのは、推計ではあるが、首都圏都市部からその他地域に関わりを持つ関係人口(訪問系)直接寄与型の推計97万人の64%=約62万人が関係先に「移住したい地域である」と回答していることだ。しかも、移住先は「農山漁村部」(67%)や「市街地部(市街地内農林地等)」(67%)「市街地部(住宅地)」(67%)が平均値の64%を上回っているのには心臓が飛び出すほどの衝撃を受けた。
記者は、貧しい三重の農村で生まれ育った。曲がりなりにも〝美しい心〟の持ち主になれたのは故郷の美しい自然にあると思うのだが、公共バスはほとんど途絶え、コンビニもなく車なしでは生きられない田舎暮らしなどは絶望的だ。
「農山漁村部」に移住してもいいと考える人はどのような人なのか。クマに襲われたり、家庭菜園をシカやイノシシに食い荒らされたり、あるいはまたヤマヒルに股間をかまれ、汲み取り式便所に充満したメタンガスが爆発してお尻を焼かれ、酔っぱらって電子柵に触れたとたんに絶命することもありうることを覚悟しているのだろうか。近所づきあいをしないと相手にされなくなるのも分かっているのだろうか。
海の怖さは言わずもがなだ。津波は最たるものだが、皆さんはクラゲに刺されたことはないだろうか、ウニを踏んづけたことはないだろうか。激痛が走る。触っても食べてもいけない魚もたくさんいる。波にさらわれても助けてくれそうな人などどこにもいない。
まあ、しかし、時代は変わった。記者が上京した50年くらい前は、3代が江戸っ子という生粋の東京人は10人に1人いたかどうかだが、いまは東京生まれの東京育ちの人は約5割らしい。過酷な自然条件に負けない強靭な体と精神と、移住に失敗しても帰る家があり、生活再建ができるお金持ちはどんどん地方移住していただきたい。
調査結果を読んだ読者からは、「『ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会』の委員の方々はみんな田舎暮らし推進派? 」との感想が届いた。なるほど、アンケートの読み方の基本だ。
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