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2021/05/08(土) 15:43

「志茂」「多摩センター」は〝割安〟か 東京カンテイ「2020年 マンションPER」

投稿者:  牧田司

 東京カンテイが5月6日発表した「2020年 マンションPER」(首都圏版)について記者なりの感想を紹介する。

 「PER」とは、株の世界ではよく用いられる、株価が1株当たり利益の何倍まで買われているかを示す株価収益率(Price Earnings Ratio)のことで、それを新築マンションに当てはめ、マンション価格が同じ駅圏のマンション賃料の何年分に該当するかを求めた数値だ。

 レポートによると、2020年に分譲されたマンションの平均価格は7,743万円(70㎡換算=坪単価365万円)で、分譲マンションの平均賃料256,601円(同=坪賃料12,097円)の24.69(対象駅圏155駅)と高い水準を示した。首都圏平均よりマンションPERが高い駅圏は83駅に達しており、逆にPERが低い比較的割安であることを示す駅圏は周辺3県に点在する程度としている。

 もっともPERが高かったのは「学芸大学」の36.00。マンション価格は12,402万円(坪単価585万円)、マンション賃料は287,113円(坪賃料13,535円)だった。以下、「成城学園前」「飯田橋」「自由が丘」「荻窪」「外苑前」「参宮橋」「代々木上原」「神谷町」「東池袋」の順で「割高な駅」としている。

 一方で、もっともPERの低かったのは「志茂」の16.96で、マンション価格は5,181万円(坪単価244万円)、マンション賃料は254,616円(坪賃料12,003円)。以下、「八王子」「三郷中央」「稲毛海岸」「有明テニスの森」「国分寺」「相模大野」「戸塚」「千葉」「八千代緑が丘」の順で「割安な駅」となっている。

◇       ◆     ◇

 東京カンテイの調査能力には脱帽するほかない。分譲マンションの賃料も把握しているので、このようなレポートが出せる。「割高な駅」「割安な駅」は思い当たる物件もあり、なるほどと思う。

 実は記者も、もうずいぶん昔だが、分譲マンションの坪単価を駅圏ごとに定点観測したことがある。供給物件の多寡、駅からの距離、ターゲットなどによって変動するのは難点だが、おおよその相場を把握することができ、空白区などは〝穴場〟と考えていたものだ。

 ただ、マンションは基本的には投資商品ではないので、賃料と比較してPERをはじき出すようなことは考えも及ばなかったし、分譲マンションを賃貸に回した場合いくらの賃料になるかなど調べようもなかった。

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 「割高な駅」については、23区では軒並み坪単価は300万円以上となっているので高い数値を示すのは当然だ。ただ、同一駅圏の物件を比較し、「割高」「割安」とするのは比較的容易だが、駅圏そのものを「割高な駅」「割安な駅」とするのはいかがなものか。アルヒの「住みやすい街大賞」に「川口」が選ばれているのと同様だ。何を重視するかで街の評価は一変するはずで、「割高」「割安」を評価するのは投資家であり、ユーザーだ。価格は、物件数が多ければ平準化されるが、少ない場合はその物件特性がそのまま反映されることになり、賃料は面積が広くなるほど坪賃料は低くなるので、単純比較もできないのではないか。

 例えば、レポートでもっとも「割安な駅」とされている南北線「志茂」。駅周辺の1丁目や、赤羽駅に近い2丁目などはまずまずの住宅街を形成しているが、全体として道路は狭く、木密地域が多いエリアだ。4丁目、5丁目は工業系エリアで生活利便施設も乏しい。

 レポートの対象になっているのは、工場跡地の三菱地所他「オイコス赤羽志茂」や道路沿いの物件だろう。坪単価は230~270万円くらいか。安いといえば安いが、周辺の住環境はいいとは言えず、北本通りは交通量が多く騒音も相当だ。小生は評価を保留する。

 2018年~2019年の2年間もっともPERが低かった、わが京王相模原線「京王多摩センター」についても触れざるを得ない。

 PERは15.96だったので「志茂」より低い。「徒歩15分の大規模マンショの影響から価格の割安感が実態よりも過剰に示されている状況が依然として続いている」とレポートにはある。

 「徒歩15分の大規模マンション」はタカラレーベン「レーベン多摩センターBeaut」(240戸)だ。坪単価は170万円くらいだった。2018年に完成し、2020年春ころまでに完売している。

 物件を観ていない(取材を申し込んだが断られた)ので何とも言えないが、住環境は申し分ない。この物件の南側に、今から15年前に分譲された駅徒歩10分の扶桑レクセル「レクセル多摩センターマークレジデンス」(159戸)が建っている。記者は当時「驚きの〝旧価格〟」という見出し記事を書いた。

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 読者の皆さんは、この京王多摩センター駅圏のPERをどう思われるか。やはり株式相場でよく用いられている、同じ業種の銘柄と比較して割安を示す〝割り負け〟を借りれば、信じられないほど割り負けしていると記者は思う。タカラレーベンの物件は、多摩市ではなく八王子市が所在地で、駅から遠く坂が相当きついのでこのような単価になっているのだが、そうした特殊要因を考慮しても安すぎる。これまでも何度も書いたが、デベロッパーは多摩センターの魅力をきちんと伝えきれていないと八つ当たりしたくなる。

 多摩センターの魅力は、何といっても街並みが美しいことだ。駅から徒歩20分圏は完全歩者分離になっており、子どもが交通事故に遭う確率はほとんどゼロだ。緑のネットワークは隣駅の永山駅までつながっている。こんな街は全国どこを探しても見当たらないはずだ。

 街のポテンシャルを計る重要な指標と考える「ホテル・百貨店(大型商業施設)・文化の香り」も揃っている。

 駅を降りてから「パルテノン多摩」(現在は改装中)までの約400mの舗道はレンガタイル敷で、幅員は50mもある。舗道の両サイドにはクスノキの巨木が数十本植えられており、アダプト制度による恵泉女学園大学などの花壇が目を楽しませてくれる。その先には多摩中央公園、多摩市立グリーンライブセンターがあり、その緑量の多さに圧倒されるはずだ。特定外来種のオオキンケイギクが大繁殖しているのは気掛かりだが、絶滅危惧種のキンラン、ギンランも季節になると可憐な花を咲かせる。駅前の京王プラザホテルの和食「あしび」は安くておいしく、多摩市限定販売の日本酒「原峰のいずみ」も飲める。

 名誉か不名誉なのかわからないが、こんなわが多摩センターは2020年の「マンションPER」から消えた。昨年は駅から徒歩4分の山田建設「ミオカステーロ多摩センター」(26戸)が分譲されている。坪単価は260万円くらいのはずだ。そこで、東京カンテイに試算してもらった。

 同社市場調査部主任研究員・高橋雅之氏は「ミオカステーロ多摩センター」について、「まだ登録されていないため、精緻な数値は算出できませんが、当該駅の同じ駅勢圏での賃料相場は概ね18.5万円/70㎡ですので、マンションPERはだいたい23.85くらいとなります。今の価格高騰局面が始まる以前の2013年当時のマンションPERは20~22程度で、それに比べればだいぶ割高感が増してきてはいますが、2020年の首都圏での平均値(24.69)を下回っていますし、東京都下でも22以上や24以上を示す駅は珍しくなくなってきていますので、今の市況の下では賃料見合いで妥当な価格かと思われます」と答えてくれた。

 なるほど。しかし、多摩センター駅圏にはもうマンションの開発余地などほとんどない。「割安な駅」「割高な駅」にはランクされないはずだ。

 ついでに京王線の割り負けについてもう一つ。多摩ニュータウンと街づくりがよく似ている港北ニュータウンの積水ハウスのZEHマンション「センター北」(45戸)は坪単価334万円で人気になっている。一方で、免震でZEHの東京建物他「ブリリアタワー聖蹟桜ヶ丘 ブルーミングレジデンス」(520戸)は人気にはなっているが、坪単価は270万円だ。新宿から15分の調布でさえ坪単価は300万円台の半ばが壁になっている。

 皆さんはポテンシャルの違いと一笑に付すかもしれないが、どうしてこれほどの差がつくのか、記者はさっぱりわからない。これから書く、西新井駅から徒歩14分で、坪単価210万円の大和地所レジデンス「ヴェレーナシティ西新井」(118戸)は、分譲開始5か月で約半分が売れている。

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