東京都に新型コロナ緊急事態宣言が発令されてから6日間が経過する。効果が表れるのはこれからだろうが、感染者は7月16日現在、27日連続して前の週の同じ曜日を上回り、この3日間は1,000人を突破した。ワクチン接種の効果で高齢者の感染は激減しているが、これまでの20~40代に加え20歳未満や50歳以上の感染者の増加が目立つ。何とか感染を抑制する資料にならないかと、都のオープンデータから感染者の職業分布を調べた。
別表・グラフは、7月16日現在の東京都の新型コロナ感染者186,698人の職業分布を示したものだ。
都が感染者の職業を公表するようになったのは昨年の10月1日からで、1週間ごとに更新しているため、昨年9月30日までの25,637人と、今年7月12日以降の5,945人の合計31,582人の職業欄は記載がないはずだが、オープンデータでは記載のないのは30,797となった。(なぜかは分からない。データは自動的に計算してくれるはずなのに…)
また、職業欄には少数ではあるが歌手、マスコミ、ホテルマン、舞台関係、建築士などもあり、これらの職業を数値から除外した結果、集計できたのは186,690人となり、記載がない30,797人を除いた155,893人のデータをもとに以下に概観することを最初に断っておきたい。
このうち、もっとも多いのは職業欄が「-」の人で73,847人、比率は実に47.4%に達する。これは感染者に答えられない事情があるのか、それともショック状態に陥り答えられない状態にあったのか、経路不明比率が6割近いことと関連があるのかどうかなど数字からはわからない。
職業が記載されている人のうちでもっとも多いのは32,164人の「会社員」で、判明している人に占める比率は20.6%となっている。以下、無職8,871人(比率5.7%)、学生8,385人(同5.4%)、その他4,511人(2.9%)、自営業3,376人(同2.2%)、施設職員2,787人(同1.8%)、接客業2,690人(同1.7%)の順。
この結果を皆さんはどう読み解かれるか。記者は異議を唱えたくないが、姿かたちが見えない強敵のコロナと戦うにはあまりにも漠としており、感染源をたどったり、何らかの傾向を探ったりして対策を練る武器にはなりえていないと思う。
感染者の半分近くの人の職業が分からないというのもさることながら、以前にも書いたように、「パート」「アルバイト」は雇用関係を示すもので職業ではない。「その他」も約4,500人いるが、これは感染者が高熱にうなされ、ろれつが回らず聞き取り不能の結果なのか、それとも厚労省の職業分類や総務省の産業分類にも当てはまらない反社会的な団体・活動をしている人なのか。昨年5月に「新型コロナ 感染経路不明者が減らない理由 〝闇社会〟〝二重就業〟も一因」の記事を書いたら、約6.7万件(関連記事を含めると約7万件)のアクセスが殺到したが、それと関連があるのかと考えると、なんだか怖い。
データには首をかしげたくなるものもたくさんある。幼児には20~50代の女性が10人、小学生には20代以上が13人、学生には10歳未満が123人、主婦には男性が3人、教員には10歳未満が1人、無職には10歳未満が297人、施設職員には10歳未満が5人、会社員には10歳未満が2人それぞれ含まれる。
これは、故意か過失か判然としないが、聞き取り調査票に記入する担当者やデータをチェックする人はどうしてこのような単純なミスを見逃すのか。現場の混乱ぶりを表すものであれば、単純なミスとして片づけられない問題が孕んでいるように思う。
この前、日本看護協会出版会編集部編「新型コロナウイルス ナースたちの現場レポート」の感想文を書いた際、以下のようにレポートを引用した。
「『何かあったら、あなたが責任をとってくれるんですか』と返され…問答となってしまい、終わりが見えなかった。なかには1時間近くこのようなやり取りが続いたこともあった。…次第に私は、この業務が相談者の役に立っているのか疑問に感じるようになった。電話は途切れることなく鳴り続けていた。1つの相談が終わり受話器を置くと、息つく暇もなく眼前の電話が鳴る。数をこなし、たらい回しを続けているだけの機械のように思えてくる」(坂井志織氏)
「(電話相談は)1週間に1~2回順番が回ってきたが、連続36時間対応することもあった。事情があって事実を話したくない方などの調査に2時間以上要することもあった」(東口三容子氏)
「(積極的疫学調査は)感染症対策として最も重要だ。濃厚接触者と感染源の特定とハイリスク者の追跡により、感染拡大を最小限に抑えることになる。…(患者の発生は)公表は、住民の感染予防の注意喚起が目的だが、個人や店舗を特定し攻撃するようなクレーム、SNSへの投稿、噂の流布など、患者の人権に配慮のない言動は後を絶たない」(竹林千佳氏)
都のデータとこれら現場の声を照らし合わせると、もう一度、積極的疫学調査のあり方を見直すべきではないか。せっかくの都のオープンデータは生かされていないし、都民に届いていないといったら失礼か。
コロナは年齢も性別も貴賎も美醜も賢愚も区別なく襲うのだから職業などどうでもいいと考え、聞き取りを適当に済ますことはすでにして敗北主義だ。わずかな手がかりでも感染源に迫るのが科学者の立場のはずだ。
都の7月16日現在の累積感染者186,698人のうち感染経路不明者は108,566人で、不明比率は58.2%に達しており、6月以降の46日間で不明比率が60%を切ったのはわずか10日間しかない。具体的な科学的根拠を示さず、「経路不明の大半は飲食関係」の一点張りで、酒類の販売中止と営業自粛を求めるだけでは関係者の怒りを買うのもよくわかる。
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