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2022/07/07(木) 22:15

間伐材・端材を積極活用 三菱地所ホーム 新オフィス/七夕に愛と死と街路樹を考える

投稿者:  牧田司

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カフェ空間「Ground」

 三菱地所ホームは7月7日、本社を国際赤坂ビルから新宿イーストサイドスクエアに移転したのに伴う、様々な機能を実装した新オフィス「TOKYO BASE」をメディアに公開した。

 新オフィスは、三菱地所グループとしては初めてABW(Activity Based Working)を採用し、座席は固定席から自由に選択できるフリーアドレスに変更。全ての社員のパフォーマンスを最大化する「MJH10のワークポイント」を設けた。

 また、カフェ空間や執務エリアに社員が休息するリチャージスペースを設け、構造材を産出する取引先から提供を受けたスギ、ヒノキ、カラマツの間伐材の原木を設置している。

 社会課題への関心・具体的な取り組みを促進できる機能として、国産材、端材を活用したカフェ空間「Ground」、原木5本と人工芝を施し、自然音をハイレゾ音源で再生する音響効果による仮想の外部空間「Mori」、執務エリアと「Ground」を仕切る全面ガラスウォールを採用している。

 さらに、オフィス内でカラマツの苗木を育てる「(仮称)苗木の循環プロジェクト構想」をスタートさせた。

 新本社は、都営大江戸線・東京メトロ副都心線東新宿駅に直結する新宿イーストサイドスクエア7階の延べ床面積571坪(1,890㎡)。デザイン企画は三菱地所ホーム。設計監理はイトーキ。施工はイトーキ、三菱地所ホーム。

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カフェ空間「Ground」受付カウンター

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スギの原木

◇        ◆     ◇

 この日(7月7日)、小生は糖尿病の定期検診があり、取材時間には間に合わなかったが、リリースをコピペしたくなかったので、少しは見せてくれるだろうと若松河田駅近くの病院から隣駅・東新宿駅にある同社新オフィスに電車で駆けつけた。

 受付カウンターなどいたるところに木を活用した空間が演出されているのを眺めていたら、広報担当の女性から声を掛けられ、「皆さん、このように願いごとを書かれています。『糖尿が治りますように』とでも書いて下さい」と勧められた。

 七夕といえば中学生のころだ。お金持ちの娘の彼女と貧乏百姓の息子の自分が結ばれるはずがないと思いながらも、満天に広がる天の川の星空を見上げながらはらはらと落涙したものだ。

 そんな甘くて切ない遠い思い出を呼び覚ませてくれた彼女の勧めを無粋に断るわけにもいかず、治るはずもないのに「糖尿が治りますように」と短冊に書いた。

 笹の葉には、「仮想通貨が値上がりしますように」「プードルを飼いたい」「楽しい旅行がしたい」「娘と仲良くしたい」などと、夢も希望も愛の欠片もない我欲に満ちた言葉が書き連ねられていた。書いたのはメディアの方か社員の方か知らないが、七夕はもはや死語だ。東京の空から星が消えてからどれくらい経つのか。

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「Mori」

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「Mori」に設置されているプロダクト

◇        ◆     ◇

 彦星と織姫の続き。皆さんは西田佐知子さんの「アカシヤの雨がやむとき」をご存じか。60年安保と同じ1960年にリリースされた歌謡曲で、当時の世相を反映した曲として大ヒットした。70年安保の世代の小生ではあるが、この曲はよく歌った。

 なぜ、こんなことを書くのかというと、先日、三菱地所が新国際ビルに設けた「有楽町SLIT PARK(スリット パーク)」を取材したとき、近くの道路の街路樹にアカシヤ(ニセアカシア)が植えられており、そこからこの曲と清岡卓行の1970年の芥川賞受賞作「アカシヤの大連」を思い出した。太平洋戦争前後の青春期に過ごした中国・大連を舞台に描いた私小説だ。その小説の一部を紹介する。

 「五月の半ばを過ぎた頃、南山麓の歩道のあちこちに沢山植えられている並木のアカシヤは、一斉に花を開いた。すると、町全体に、あの悩ましく甘美な匂い、あの、純潔のうちに疼く欲望のような、あるいは、逸楽のうちに回想させる清らかな夢のような、どこかしら寂しげな匂いが、いっぱいに溢れたのであった。

 夕ぐれどき、彼はいつものように独りで町を散歩しながら、その匂いを、ほとんど全身で吸った。時には、一握りのその花房を取って、一つ一つの小さな花を噛みしめながら、淡い蜜の喜びを味わった…そして彼は、この町こそやはり自分の本当のふるさとなのだと、思考を通じてではなく、肉体を通じてしみじみと感じたのであった」

 「彼女の出現は、急激に、彼の心の奥底に眠っている何かを揺さぶり起こしたようであった…あの不定形な女のイメージが、しだいに輪郭をはっきりさせてきて、まさしく彼女の面影と一致するようになってきたのであった。…それは、彼にとって、生まれて何回目に経験する、大連のアカシヤの花盛りの時節であっただろう。彼は、アカシヤの花が、彼の予感の世界においてずっと以前から象徴してきたものは、彼女という存在であったのだと思うようになっていた」

 「『彼女と一緒なら、生きて行ける』という思いが、彼の胸をふくらませ、それは、やがて、魅惑の死をときどきはまったく忘れさせるようになっていた」

 清岡がこの小説を書いたのは、「アカシヤの雨がやむとき」から9年後の1969年、愛妻(小説に登場する「彼女」、とても美人だったとか)を亡くした47歳のときだった。そして、彼女との別れに踏ん切りがついたのか、その翌年に再婚した。

◇        ◆     ◇

 アカシヤの並木と「彼女」を重ね合わせた何と美しい詩的な小説であることか。記者はいま、千代田区の神田警察通り道路整備事業で街路樹のイチョウが伐採されることに対する批判記事を書いているのだが、25歳の女性が住民監査請求を行い、その陳述を監査弁護士が絶賛した。その一部を紹介する。

 「4月27日の深夜、大林道路の職員は私たちの目の前で無残にもイチョウを切り落としました。私たちはその間、区職員と警察に囲まれ、木に近づくことができませんでした。あの日の光景がトラウマとなり、一ヶ月以上が経った今でも工事車両を見ると手が震えます。伐採の瞬間の動画を見れば、胸が締め付けられ苦しくなります。工事をするはずのない日中でさえ、バイクの音がチェーンソーの音に聞こえ、現場に行って木の無事を確認せずにはいられません。もちろん仕事にも支障をきたしています。先ほど述べた、夏の暑さを感じやすい車椅子利用者の方の意見も然り、『イチョウを伐採しないことによる危険性』だけでなく、『イチョウを伐採することによる危険性』も考慮すべきです。

 私は千代田区に生まれ育ち、これまで神田っ子として自分の故郷に誇りを持って生きてきました。神田祭は二年に一度の楽しみであり、生き甲斐でした。しかし、伐採に反対することは同時に、伐採を推進する町会長が治める町会を脱退しなくてはいけないことを意味していました。もちろん神田祭に出ることも許されません。神田っ子にとって神田祭は本当に大切な行事であり、それに出られない、自分の町会の神輿を担げないということを受け入れるには相当な覚悟が必要でした。そもそも町会云々、祭云々以前に、伐採推進派である町会長たちはご近所として私が生まれる何十年も前から家族ぐるみで付き合いのある方たちで、私のことはもちろん赤ん坊の時から知っているような方たちです。私も親のように慕っていたので、このような形で縁を切らざるを得なかったことを非常に残念に思います。これも千代田区が生んだ地域の分断です。千代田区環境まちづくり部は、環境とまちを壊しただけでなく、私たち住民の関係性も、心も全てを壊しました。これ以上大切な故郷を壊されるのは許せません。どうか私たちの声を聴いて頂けないでしょうか。私は一人になっても最後まで闘う覚悟です」

 長々と引用したが、アカシヤもイチョウも同じだ。雨にも風にも負けず、車が撒き散らす排気ガスや騒音、高層ビルによる日陰などに屈せず、まっすぐに伸び、老若男女、金持ちも貧乏人も賢者も愚者も別け隔てなく樹陰を降り注いでいる。人間の数倍は生きられる。そんな伸び盛りの街路樹を「枯損木」などと勝手に決めつけ、死刑宣告をし、処分しようとしている。そんなことが許されていいのか。

 七夕の今日、皆さんも考えていただきたい。同社が目指す「『TOKYO BASE』を起点に地域とつながり再造林や森林保全の大切さを社会に浸透させていく試み」に通じるものがあるのではないか。

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