千代田区議会が「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」議案を議決し、工事業者と交わした請負契約は地方自治法違反であるから工事を中止し、公金支出を差し止めるよう求めた住民監査請求に関する意見陳述が6月10日行われ、整備エリアに住む請求人の女性(25)が約30分にわたって議決には瑕疵があり、議決は無効と訴えた。監査員の野本俊輔弁護士は「見事な意見陳述。これまで(意見陳述を)何件も担当してきたが素晴らしい」と絶賛した。
この問題については4月21日付で、「神田警察通りの街路樹を守る会」の住民ら20人が工事契約は違法として監査請求を行っている。今回の請求人は一人で、5月16日付で受理された。審査結果はそれぞれ受理された翌日から60日以内に出されることになっている。
以下、今回の意見陳述全文を紹介する。
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本監査請求の趣旨は、樋口高顕千代田区長が2021年10月14日、「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」のために大林道路株式会社との間で締結した工事請負契約が無効な議決に基づく違法な契約であるという点です。
街路樹を伐採しての道路整備工事に関し、千代田区は「千代田区議会で議決された」と主張しています。しかし、議会における議決の判断の基となる議案の説明は正確さを欠くのみならず、虚偽の内容もありました。そのもとに行われた議会の議決は住民の意思を反映したものとは言えず、後述します地方自治法96条1項5号の趣旨に反しており、無効であります。よって、その無効な議決に基づく工事契約は違法であり、樋口高顕千代田区長及び印出井一美環境まちづくり部長は本件の既払金を区に返還すべきです。また、違法な本契約に基づく工事は中止すべきであり、本件の残代金支払いに関する公金支出を差し止めるべきです。監査委員の皆様には、地方自治法242条4項に基づき、区に対し神田警察通りのイチョウ伐採行為の停止勧告を行って頂きたく、本日意見陳述させて頂きます。
(ガイドライン変更の件)
2011年、諸々の更新を経て最終的には2013年に策定された「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」には、「豊かに育った既存のイチョウ並木の保全・活用」との記載があり、当初伐採の計画はありませんでした。しかし、2020年12月、区は計画を一転して伐採方針を決定しました。「附属機関等の設置及び運営並びに会議等の公開に関する基準」、「意見公募手続要綱」、「参画・協働のガイドライン」には、「区民にとって重要な政策決定等の際には、住民へのアンケート、意見交換会、懇談会、パブリックコメント(意見公募)、住民説明会を実施すること」とあります。しかし区はこの計画変更に関し、議会からの指摘で、後述するアンケートを実施したのみで、議事録の公開もパブリックコメントを実施することも一切しませんでした。伐採方針決定の9か月後である2021年9月になってようやく区はガイドラインを修正しました。しかし、その修正は「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」との記載から「など」を削除するといった、一般には容易にわからないような微々たる修正でした。地方自治に詳しい神奈川大の幸田雅治教授の言葉をお借りすれば「子供だまし」のような手法です。その他、HP上に「既存の街路樹を伐採または移植し、ヨウコウザクラを植える」と1行記載したのみで、高齢者が多い町にも関わらず、区の広報誌への掲載や住民に対する説明会の開催等はまったくありませんでした。これについて区は「足らざるものがあった」と述べており、また「ガイドラインを変えるなら、方針を決める前に堂々と説明すべきだ」との区議会議員の指摘に対しても、「プロセスが適切でなかった」と非を認めています。
(沿道整備協議会の件)
多くの住民が街路樹の伐採について知ったのは2021年12月です。印出井部長は「検討にあたっては幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら10年以上にわたって議論してきた」(事実証拠9号)と主張しています。しかし、協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です。町会は区が期待するような機能は果たしておらず、町会長から住民に周知されることもありませんでした。さらに、その協議会の議事録も一切公開されることはありませんでした。つまり伐採は、区や町会長など一部の人のみで決定したものと言わざるを得ず、「幅広く地域の実情に通じる方々にご参画いただきながら」との主張に反しています。
(アンケートの件)
前述のとおり、区は伐採方針を決定するにあたり、2019年12月に「神田警察通りの整備に関するアンケート」を実施しています。しかし、このアンケートにも多くの瑕疵が見受けられます。まず、沿道住民でもアンケートを受け取っていない家庭が多数存在すること。現に私は、神田警察通り二期区間からわずか30秒程の所に住んでいます。家族は戦前からこの地に住み、店を営んでおりました。しかし、そのようなアンケートは見たこともありません。二点目に、アンケートの回答率がわずか14.5%であるという点です。この数字を民意とするには明らかに不十分です。わざわざ年末の忙しい時期にアンケートを実施したようですが、この回答率を見て、違う時期にやり直すなど回答率を上げる方法はいくらでもあったはずです。次に設問が伐採肯定へ誘導するような内容である点です。アンケートの問8を例に取ると、「神田警察通りの街路樹について、どのように考えますか」との設問に対し、用意された選択肢は①「今のままでいい」、②「植替えを含め課題解決してほしい」、③「どちらとも言えない」の3つでした。最も回答者が多いと予想される「課題解決してほしい」の選択肢にわざわざ「植替えを含め」というワードを絡めており、植替えが容認されているような印象を与えます。これは例えば「保存したまま課題解決してほしい」と「植替えて課題解決してほしい」といった選択肢に分けるべきです。さらにこのアンケートが実施されたのは2019年12月ですが、一年前の2018年12月に開催された第14回沿道協議会において、須貝基盤整備計画担当課長は「二期区間の計画案では、現状の街路樹を現在の位置に残すことはできない」と発言しています。つまり、この時点で区は伐採を決めており、その後実施された本アンケートは伐採ありきで実施されていたことを示しています。以上の理由から、本アンケートは極めて妥当性を欠くものであったと言えます。
(専門家の意見を聞いたという件)
さらに、区は区議会からの申し入れを受け、街路樹の専門家4名に聞き取りを行いました。その4名の意見をまとめた文書を作成し、2020年12月25日の企画総務委員会で配布しました。しかし、その資料において、4名の専門家の実名が伏せられた上、イチョウの保存を優先すべきとした藤井千葉大学名誉教授の意見が、本人の確認を経ないまま異なる要約をされて、伐採に賛成する意見のように記載されていました。これに関しては、藤井教授から「聞き取りを元に区が作成した書面を事前に確認できず、自分の意見が正確に伝わらなかった」との訴えが上がっています。この事実における問題点は主に3点、まずこのような聞き取りを区議会からの申し入れを受けて初めて行ったこと、次に区の考えにあった意見を恣意的に選択し、施策の根拠づけとして利用したこと、そして政策決定に関わるようなケースでは、どの専門家がどのような発言をしたのか行政は公表する責任があるにも関わらず、専門家の実名を伏せて記載したことです。
(96条の趣旨について)
地方自治法96条1項5号の趣旨は、契約の締結が住民の代表である議員の意思に基づき適正に行われることを担保することにあります。平成16年6月1日最高裁第3小法廷判決によれば、議会の議決を経ない契約は違法とされています。つまり、住民の意思に基づく議決が必要であるとしているのです。これまで述べてきたとおり、本件の工事契約の締結に関する議決にあたり、区は「参画・協働のガイドライン」や「道路整備方針」において自ら定めた住民合意の手続きをも無視し、虚偽ないし不正確な説明を繰り返し行ってきました。そして議会はこれらの事実に反する説明に基づき議決を行いました。議決を経ない契約も、議員が議案に賛成するか反対するかを判断する前提となる事実関係について虚偽ないし不正確な説明がなされた議決を経た契約も、議決の前提となる根拠を欠く点においては同様です。したがって、後者の議決は形式的には存在していたとしても、前述の地方自治法96条1項5号の趣旨を類推適用するならば、当該契約も無効となるべきです。
(判例について)
広島地裁の判例(昭和46年5月20日)ですが、ごみ・し尿処理場の建設工事の差し止めを求めた仮処分について、地方自治体として地元側の意見を十分聴取したかや、補償措置や公害監視体制についても話し合ったのかなどを考慮して、地裁は差し止めを肯定しました。その広島地裁判決に照らしても、イチョウの保存を求める地元住民の声を聞かず、伐採を求める側の声のみを取り上げる行為は自治体としてあるまじき姿です。
(設計変更のガイドラインについて)
区が制定した「工事請負契約における設計変更手続ガイドライン」および「工事請負契約における設計変更手続マニュアル」によれば、設計図書に定められた着手時期に請負者の責によらず施工できない場合、地元調整等請負者の責によらないトラブルが生じた場合には、区は約款第19条に基づき工事を一時中止とすることになっています。着工予定日であった4月25日以来、連夜多数の住民がイチョウに寄り添い、4月27日未明に伐採された2本を除いて請負者である大林道路が伐採に取り掛かれないという事態は、まさに前述ガイドラインおよびマニュアルに記載の「請負者の責によらない地元調整が必要なトラブル」にほかならず、この点に照らしても区は二期区間のイチョウ伐採を中止しなければなりません。
(話し合いについて)
一期区間はイチョウを残しての整備となりましたが、歩道は十分広く、根上がりも解消されて、素晴らしい仕上がりとなりました。私たちは当然二期も同様にイチョウを残しての整備が行われるものと信じて疑いませんでした。一期でできたことがなぜ二期ではできないのか、論理的な説明は一切ありません。伐採を知って以降、私たちは幾多もの要望書や陳情を出し続けていますが、すべて棄却されています。今年4月に伐採推進派と反対派住民数名での話し合いが一度だけ設けられましたが、このときも推進派が「これ以上の話し合いは平行線である」として一方的に話し合いを打ち切り、退席しました。そして、区はその後の話し合いを打ち切りました。それ以降、私たちが話し合いを求めても拒否され続けています。区長や区職員に説明を求めても、「議会で議決されたことであり今更変えられない」の一点張りで私たちが納得できる説明は一切頂けていません。区長に手紙を書いた住民もいますが、区長は一度も現場に足を運んではくださいません。現場を見に来てほしいとの声に対しては、区長もまた「行ったところで議決されたものは変わらない」と仰いました。「議会で議決された」と仰いますが、私たちが伐採について知らされたのは議決された後ですから、それまで伐採に反対することもできなかったのです。私たちにとっては「今更」でも何でもありません。
(イチョウの価値について)
「イチョウは落ち葉の問題がある、根上がりする、銀杏が落ちる」などと言われます。しかし、根上がりと落ち葉の問題はイチョウ同様に桜にもあります。また桜は毛虫の他、ブルーベリーのような黒い実を落とします。通行人がそれを踏み、実際に地面が非常に汚れているところもあります。私たちは決して桜を否定したいのではなく、イチョウの抱える問題は他の街路樹でも同様にあるということをご理解頂きたいのです。桜を植えることによって賑わいのあるまちづくりを行いたいとの趣旨は伺いました。しかし、イチョウは東京都のシンボルでもあります。靖国神社、神宮外苑などにもイチョウ並木があり、まちの賑わいの元になっています。これらの景観は一朝一夕に作られたものではなく、歴史を感じられるものです。そのようなイチョウは「歴史・学術ゾーンにある」神田警察通りにふさわしく、また一期区間との景観の連続性を保つこともできます。
(幅員2mの件)
区はイチョウの木を伐採する理由として、イチョウの木があると2mの幅員が取れないことを主張しています。しかし、2mの幅員が必要であるという主張の論拠は不十分です。道路構造令には確かに幅員2mとの記載があります。一方、「当該道路の歩行者の交通の状況を考慮して定めるものとする」ともあります。国土交通省に確認したところ、「自治体がその状況により柔軟に対応できる」との回答を得ました。実際に一期区間でも2mの幅員を確保できていない部分があります。このことこそが2mが必須ではないことを証明しています。昼間人口の多い千代田区とは言え、渋谷のスクランブル交差点のような交通量があるわけでもありません。特に神田警察通りの周辺は、人通りが少なく、落ち着いた場所です。ここまでの反対を押し切って、必須ではない2mを必ずしも確保する必要性はありません。また、須貝課長はテレビの取材に対し、パーキングメーターの設置を理由に、イチョウがあると幅員が取れないと仰いました。しかし図面を見ると、パーキングメーターが現在のイチョウの木と被る箇所はごくわずかです。さらに、二期区間はおよそ250mです。歩道の両側を合わせると500mで、その500mの歩道に今回議論になっているイチョウの木32本を並べたとします。区の作成した資料(第17回神田警察通り沿道整備推進協議会(資料2)神田警察通り沿道地域のまちづくり)によると、イチョウの直径は周りに設けるマスも含め1本あたり90cmですので、32本に90cmをかけると2,880cmです。つまり、イチョウの木があるために2mの幅員が確保できないのは、500mのうちのわずか5.8%に値する約29mです。その全体のわずか5.8%の区間のために、健康なイチョウが伐採されようとしているのです。伐採を正当化する理由が全て論拠不十分であり、私たちは納得できません。
(車椅子の方の件)
その他、区は幅員2mの根拠として「車椅子がすれ違うことができないから」と主張しています。しかし、車椅子利用者の方は「仮にすれ違うことがあっても暗黙の了解で譲り合う」と仰っています。また、「自分たちは他の人よりも地面に近いため、夏の暑さを感じやすく、街路樹はオアシスのような存在であり、日陰を求めて走っている」、「大きな街路樹は非常に安心感が持てるから残してほしい」とまで仰い、陳情も出されています。実際の車椅子利用者が「幅員よりも緑陰が必要だ」と仰っているのです。しかし区は、車椅子利用者やベビーカーのためのバリアフリーを謳っているにも関わらず、そういった生の声さえも無視してきました。
(緑陰と路面温度の件)
緑陰と路面温度の関係性については、前述の藤井教授の著書に「街路樹の木陰では路面温度が約20度も低くなる」とあります。実際に一期区間である共立前と二期区間において、太陽の当たる部分と、緑陰により日陰となっている部分の路面温度を比較したデータがありますので、追加資料2の最後のページをご参照頂ければと思います。気温が31度とまだそこまで高くない日でも、地面の材質によって最大で16.2度の差が観測されました。どの場所、どの材質の路面で計測するかで差は生じますが、最低でも10度温度を下げる効果が期待できます。またさらに暑くなる真夏には、緑陰の効果もより大きくなると予想され、ヒートアイランド現象の抑止にも効果があると言われています。一方のヨウコウザクラは小ぶりで、かつ上に向かって箒状に伸びることもあり、イチョウの木と比較すると緑陰の効果を期待できません。
毎晩木守りをしている中でUber Eatsの方に声をかけられた住民がいました。そのUber Eatsの方はいつも自転車で配送をしていて、「自分は遠回りをしてでも木陰を求めて走っている。是非ともイチョウの木を残すべく頑張って頂きたい」と応援してくださいました。私たちは、暑い日は木陰を探して歩くことが当たり前になっていて、日々緑陰の恩恵を受けていることなど意識していないと思います。実際、私もそうでした。しかし、車椅子の方々や配送業などの仕事をされている方々にとっては死活問題であり、大きな街路樹の存在が非常に重要なのだと痛感しました。ベビーカーに乗る赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちはそういった声を上げることができません。だからこそ車椅子利用者の生の声は本件において重要な勘案要素であり、私たちがそういった声を無視してはいけないと思います。
(イチョウは区の大切な財産である件)
イチョウは区の貴重な財産です。区は、神田警察通りのイチョウの文化価値、保存の可否、保存する場合と伐採してヨウコウザクラ等別の樹種に植替える場合との経費の比較、景観や緑陰形成や防災に寄与する程度の比較等について十分調査せず、実現可能な保存案があるか否かも十分検討しないままイチョウを伐採しようとしています。このような状況は、区長として負っている区の財産の管理方法や効率的な運用方法として適切さを欠いていると言わざるを得ず、地方財政法8条に定める財産の管理及び運用の趣旨にも反しています。
(地方自治法242条4項について)
また、地方自治法242条4項には、「当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長、その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続きが終了するまでの間、当該行為を停止すべきことを勧告することができる」とあります。
(まとめ)
イチョウの伐採は区に生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要はなく、また伐採の中止によって人の生命又は身体に対する重大な危害が発生、その他公共の福祉を著しく阻害する恐れがないことは明らかです。それどころか、高齢者を含む住民が、雨の日も寒い日も1日も欠かさず夜を徹して外で座り込みをするといった異常な状態が1ヶ月半続いており、「伐採を中止しないこと」が人の生命又は身体に対する重大な危害を発生させる恐れがあります。家の中で冷房をつけていても熱中症の危険性が訴えられる今日において、これからやってくる暑い日々に空調設備のない外で座り続けることの危険性は明白です。私たちが勝手にやっていることと言われればそれまでですが、そうせざるを得ない状況を作り出しているのは千代田区であることをご理解頂きたいと思います。
また、4月27日の深夜、大林道路の職員は私たちの目の前で無残にもイチョウを切り落としました。私たちはその間、区職員と警察に囲まれ、木に近づくことができませんでした。あの日の光景がトラウマとなり、一ヶ月以上が経った今でも工事車両を見ると手が震えます。伐採の瞬間の動画を見れば、胸が締め付けられ苦しくなります。工事をするはずのない日中でさえ、バイクの音がチェーンソーの音に聞こえ、現場に行って木の無事を確認せずにはいられません。もちろん仕事にも支障をきたしています。先ほど述べた、夏の暑さを感じやすい車椅子利用者の方の意見も然り、「イチョウを伐採しないことによる危険性」だけでなく、「イチョウを伐採することによる危険性」も考慮すべきです。
私は千代田区に生まれ育ち、これまで神田っ子として自分の故郷に誇りを持って生きてきました。神田祭は二年に一度の楽しみであり、生き甲斐でした。しかし、伐採に反対することは同時に、伐採を推進する町会長が治める町会を脱退しなくてはいけないことを意味していました。もちろん神田祭に出ることも許されません。神田っ子にとって神田祭は本当に大切な行事であり、それに出られない、自分の町会の神輿を担げないということを受け入れるには相当な覚悟が必要でした。そもそも町会云々、祭云々以前に、伐採推進派である町会長たちはご近所として私が生まれる何十年も前から家族ぐるみで付き合いのある方たちで、私のことはもちろん赤ん坊の時から知っているような方たちです。私も親のように慕っていたので、このような形で縁を切らざるを得なかったことを非常に残念に思います。これも千代田区が生んだ地域の分断です。千代田区環境まちづくり部は、環境とまちを壊しただけでなく、私たち住民の関係性も、心も全てを壊しました。これ以上大切な故郷を壊されるのは許せません。どうか私たちの声を聴いて頂けないでしょうか。私は一人になっても最後まで闘う覚悟です。
◇ ◆ ◇
みなさん、いかがか。陳述文は約8,200字、話したのは30分間だから、1分間で約270字。〝話すのは1分に300字〟という理想に近い長さだ。読んでいただければ、なぜ野本弁護士が絶賛されたか分かるはずだ。議決が地方自治法に違反するのか適法なのかはともかく、意見陳述は論旨にずれが全くなく、自らの言葉で語りかけたのが野本弁護士を感動させたのだろう。
記者も同じだ。今回の問題で意見陳述を傍聴するのは、1つ目の住民監査請求の陳述があった5月16日に続き2度目だ。前回では、代理人弁護士のほか6名の方が陳述された。今回は女性の方のみだった。この方には5月8日の夜にもお会いし、話を聞き、その後、メールでやり取りをしているのだが、25歳というのは初めて知った。
〝大丈夫か〟と正直思った。聴くのは百戦錬磨の奸智に長けた(失礼)弁護士や区議の3人だ。揚げ足を取ることなど朝飯前ではないかと心配しながら、女性を真横から見つめる位置に陣取った。彼女は背筋をまっすぐ伸ばし両足をきちんと揃え、用意した原稿を読みながら話し出した。緊張しているのか、言語は明瞭だが声は小さかった(記者はやや耳が遠くなってはいるが)。
ところが、どうだ。「議会の議決の判断となる議案は正確さを欠き、虚偽の内容もあり、地方自治法96条1項5号違反で、議決は違法。よって工事は中止し、公金支出を差し止めるべき」と真正面から切り込み、次々と十数項目の〝瑕疵〟をよどみなく指摘したではないか。
そして、「私は一人になっても最後まで戦う覚悟です」と締めくくったのには、グサリと肺腑をえぐられたような気がした。お前は〝街路樹の味方〟などと公言するのに、何かにつけ逃げているばかりではないかと。と同時に、ジョン・グリシャムの法廷小説を読んでいるような錯覚にとらわれ、大げさに言えば21世紀のジャンヌ・ダルクかローザ・ルクセンブルグではないかと。
後で聞いて、彼女はそんな闘士でないことも分かった。小さいころは「人前に出るのが嫌い」だったそうで、法律を勉強したことはなく、陳述中はずっと足が震えていたと話した(決してそうは見えなかったが)。陳述文は何度も予行演習を行い、その都度悔しくて泣いたという。傍で聞いた母親もまたもらい泣きしたそうだ。
緑陰と路面温度について語った場面にははっとさせられた。もちろん記者も、真夏の炎天下の土やコンクリの地表温度は50~60度に達し、日陰や芝生面は30度台にとどまっているのはよく知っている。しかし、ベビーカーの赤ちゃんや、裸足で歩く動物たちにまで思いを馳せることなどなかった。何と心優しい方か。樋口千代田区長はいかがか。胸を突かれるではないか。
女性はまた、上意下達の「行政下請け」機関と化している町内会組織の実態を「協議会は町会長等特定少数の、それも男性のみから構成される会です」とチクリ(痛烈か)と皮肉る。これだけでも「協議会」が役割・機能を果たしていないことを明らかにしている。
イチョウが口を聞けたら、きっと次のように話すはずだ。「道路の附属物としてぞんざいに扱われ、都合が悪いと『枯損木』として殺処分されようとしている神田警察通りの私たちだけでなく、千代田区の約5千本の街路樹、更には都内の約101万本、全国の約14,770万本の道路緑化樹木に希望の光と風を送り込むことになりました。感謝申し上げる」と。
樋口区長と区職員の方には論語の「過ちて改めざる、之を過ちと謂う」の意味を考えていただきたい。そして、街路樹担当の全ての関係者には、この意見陳述文をバイブルにしていただきたい。これを読めば街路樹を含む道路整備事業は一変するはずだ。だから全文を紹介した。
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