千代田区の神田警察通りⅡ期道路整備計画の議会議決は無効であるとする住民監査請求が先に棄却された千代田区住民は8月8日、道路工事を議決した議会決議は区の職員の虚偽答弁によるものであり、街路樹伐採は区の財産を毀損し、一連の行為は行政の裁量権を逸脱するものであるとして、千代田区を相手取って工事の中止などを求める住民訴訟を東京地裁に提起した。同様の訴訟は今回で3件目。
原告の住民は今年5月16日、千代田区議会が「神田警察通り二期自転車通行環境整備工事」議案を議決し、工事業者と交わした請負契約は地方自治法違反であるから工事を中止し、公金支出を差し止めるよう求めた住民監査請求を行っていた。これに対し、住民監査委員会は7月14日、議決の違法を基礎づけるような瑕疵は存在せず、議決に基づき締結された工事契約は、違法な契約の締結であるとはいえなとして、住民の訴えを棄却した。
今回の提訴について、原告女性は「伐採に反対するのは、自分の故郷を守りたいからです。区は『つなぐまち神田』として、『まち』『緑』『歴史』『文化』『人』のつながりを通して、まちの個性と魅力を価値へとつなげるまちづくりを目指すとガイドラインにも記載しています。しかし、環境まちづくり部は、住民の意に反して神田警察通りのイチョウを伐採することで『まち』『緑』『歴史』『文化』『人』を壊しただけでなく、私たち住民の関係性も心も全てを壊しました。街に『賑わい』があれば、地域の分断はどうでも良いのでしょうか。『人中心のまちづくり』を謳っていながら、なぜ地元住民の反対を押し切ってまでイチョウの生命を奪うのでしょうか。私たちは道路拡張工事に反対しているのではなく、一期区間のようにイチョウを残して道路整備をしてほしいだけです。なぜその方法を模索しないのでしょうか。私たち住民の決意も虚しく2本の伐採が強行され、依然伐採中止の決断がなされず毎夜の木守りを余儀なくされていること、住民間の溝が深まり続けていくこと、住民の意思が反映されないまちづくりが行われること、その全てに終止符を打つべく今回住民訴訟の提訴に踏み切った次第です」とコメントを寄せている。
同様の訴訟は他にもあり、地元住民ら10人は5月6日、街路樹伐採工事は違法として、樋口高顕区長を相手取り、工事代金の支払いの中止などを求める国家賠償請求訴訟を東京地裁に提起している。第1回の公判が7月12日に行われた。
もう一つは、7月11日、区民20人が工事費の支出差し止めなどを区長に求める住民訴訟を東京地裁に起こしている。
今後は、国家賠償請求訴訟については単独で、7月11日の住民訴訟と今回の住民訴訟を一つとして公判される模様だ。
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今年7月11日に行われた千代田区議会の企画総務委員会の議事録(未定稿)を読んだ。神田警察通り道路整備に関する早期実施、設計変更を求める陳情について論議するのが主なテーマだが、イチョウ並木の伐採に反対する関係者の神経を逆なでし、挑発するかのような区の部課長の発言が目立った。
「本会議でもご答弁申し上げたとおり…道路の附属物である街路樹の存在が『やむを得ない場合』には該当しないものと認識してございます」(須貝基盤整備計画担当課長)「樹木は、街路樹は道路附属物でございますので、先ほど課長から答弁申し上げたとおり、道路附属物として更新することが可能ですので、それをしていくということが基本だというふうに考えています」(印出井環境まちづくり部長)などと、約1時間の論議の中で6回、念仏のように「街路樹は道路の附属物」と語った。
街路樹が「道路の附属物」というのは法律用語ではあるが、伐採してしまえば元に戻らない、代替えができない性格を帯びている。今回、是非が問われているⅡ期工事のイチョウ30本は樹齢60年の成長段階にある樹木だ。これまで何度も書いてきたので繰り返さないが、更新が予定されているヨウコウザクラと比較してその効用・価値は全く異なる。
イチョウを伐採することは、企画総務委員会と本会議で多数決によって議決はされているが、議決に瑕疵があったことは企画総務委員会の委員長自身が認めている。
また、議事録では一方では「原則」を貫き、他方では「原則」を無視し、さらにまた、関係者の「声」をそのまま取り入れ、学識経験者の「声」は聞き置くだけとするなど一貫性・公平性に欠く発言を部課長は繰り返した。
記者は先日、三菱地所などが推進する社会実験「Marunouchi Street Park」(MSP)を取材した。素晴らしい取り組みだ。このオープニングセレモニーに出席した樋口高顕千代田区長は「Marunouchi Street Parkなどの先駆的な事例を参考にさせていただき…わが国だけでなく、世界に誇れるウォーカブルな街づくりを進める」と挨拶した。
国土交通省が令和4年3月1日にまとめた「多様なニーズに応える道路 ガイドライン(案)」でも、合意形成及び事業推進のためには、「『つかう側』の住民・事業者と『つくる側』の行政等が一体となった協働体制を早い段階から構築することが重要である。構想段階では地域住民や関係する事業者等に対し、まちづくりの将来ビジョン又は道路の将来像の実現に向けた基本方針を発信して、取組みへの理解を得ることが重要である」としている。
今回の区の担当部課長の答弁は、大丸有の街づくりと整合しないのは明らかだし、国の方針に背馳する。〝苦渋の判断〟でもって工事着手を決断した区長と議会の多数派の権力におもねる、卑屈で狡猾な小役人根性を露呈したと言ったら失礼か。民主主義は所詮数の暴力か。
戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり
(ジョージ・オーウェル「一九八四年」)
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今回の一連の住民訴訟に接し、記者は五月雨式に住民が行政を訴えるのもいいが、いっそのこと街路樹を原告にして集団訴訟を起こしてはどうかと思う。
過去にそのような事例がないわけではない。1995年、原告を特別天然記念物の「アマミノクロウサギ」とする訴訟がある。裁判は負けたが、生物多様性を重視する意義は認められた。その後、同様の裁判は各地で提起された。米国では街路樹の様々な価値を定量化するモノサシも一般化しているようだ。
雨にも負けず
風にも負けず
雪にも夏の暑さにも負けぬ
丈夫なからだをもち
慾はなく
決して怒らず
いつも静かに笑っている
…
全国の街路樹と、街路樹をこよなく愛す皆さん、団結せよ!
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