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2022/07/01(金) 17:18

街路樹伐採やめて 住民の監査請求棄却 千代田区監査委員 区のアリバイ作り追認

投稿者:  牧田司

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枯損木撤去作業(6月28日撮影、東京駅近くの大名小路で)

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完全に枯れていることが分かる

 千代田区監査委員は6月17日、千代田区長が大林道路と交わした「神田警察通りII期自転車通行環境整備工事」の請負契約は違法又は不当な契約であり、千代田区長に対し街路樹を伐採、撤去することなく工事を行うことを勧告するよう求めた住民20人による住民監査請求に対して、請求を棄却すると通知、公表した。

 請求は4月21日付で提起されたもので、監査委員は代表監査委員(識見委員:税理士・印東大祐氏)、 監査委員(識見委員:弁護士・野本俊輔氏)、監査委員(議員選出:河合良郎氏)から構成されている。

 同種の住民監査請求はもう一つ5月16日に行われており、2か月後の7月15日までに通知、公表されることになっている。

◇        ◆     ◇

 イチョウをバッサリ切り倒すのと同じように、一刀両断に監査請求を棄却した監査結果に、街路樹の味方である小生は唖然とするほかなかった。

 唯一納得できたのは、監査請求者が道路整備工事契約の締結が都市計画法第2条の趣旨に反すると主張したことについて、監査委員が「都市計画法第2条は都市計画の基本理念を定めるものであり、本件工事契約の締結は都市計画と直接の関係がない」と退けたことだけだった。住民監査請求制度は憲法や法律の理念について論じる場ではないような気がする。

 さらに、「II期工事区間において歩道を有効幅員2メートル以上にすることは区が当然に遵守すべきものである」と監査委員が述べているのは分からないではない。

 しかし。区のバリアフリー法に基づく道路整備や都市施設・特定都市施設のユニバーサルデザイン化の取り組みは「遵守すべき」という割には進んでいない。「東京都福祉のまちづくり条例」で原則とされている「セミフラット形式」は平成30年3月時点で、道路幅員11m以上の区道約49㎞のうち整備されている歩道は約11km、約23%にとどまっており、保水性舗装として整備された歩道は約14km、約28%に過ぎない。

 神田警察通りに面した税務署、学校などを目視した限りでは都市施設のユニバーサルデザイン化も進んでいるとは思えない。

 イチョウを伐採してまで歩道を拡張すべきというのは合理的な考えではない。多少の不便さはあっても、それは受忍責任というものだ。都合のいい時だけ車椅子利用者、障がい者、子ども、ベビーカーを持ち出すのはご都合主義といっては失礼か。

 また、東京都福祉のまちづくり条例施設整備マニュアルには「沿道の利用状況や道路の交通量等により、歩道の有効幅員2.0m以上を確保することが困難な場合には、少なくとも歩道の有効幅員として1.5mを確保する。この場合、要所に2.0m以上の有効幅員を部分的に確保し、車椅子使用者同士のすれ違いを実現できるようにする」とあるではないか。

 ひどい裁定だと感じたのは、「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」に当初盛り込まれていた「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」の「など」を削除したのを、監査委員は「部分的な変更」とさらりとかわしたことだ。「部分的な変更」ではないことは弁護士であるお二人の識見委員の方が一番よくご存じのはずだ。

 法律や公文書に使われる「など」は、あれやこれやを例示する副助詞ではなく、その逆だ。脱法行為を排除するため縛りをかけているものが多い。例えば、調整区域内で建築できる都市計画法第34条第1号(店舗等)では、「業種一覧表」に数十種の業種を例示している自治体もあり、コンビニの営業時間を定めている事例もあるほどだ。

 最大の論点である道路整備工事に瑕疵があると監査請求者が主張していることに対し、監査委員が下した「工事契約に錯誤による瑕疵があったとはいえない」という判断も納得できない。

 監査結果では「契約書に添付された種別内訳書の『種別・細別・内訳』欄には、『枯損木』との記載があるが、これは東京都積算基準(道路編)の施工単価を適用したことからその施工単価名称(枯損木伐採工)を引用したものである。また、同じ契約書に添付された図面には『枯損木』とではなく『高木』と記載されており、本件街路樹が『枯損木』ではないという点については、本件工事契約の発注者である区と請負者である大林道路とが共通認識に立っていたものであって、本件工事契約に錯誤による瑕疵があったとはいえない」としている。 

 確かに、区も工事を請け負った大林道路にも錯誤はなかったと思う。双方とも「枯損木」でないことを知りながら、道路の「附属物」である街路樹を処分するために体裁を整えたということだ。これは「錯誤」ではなく「確信犯」だ。

 問題の本質はここにある。CO2を垂れ流す鉄やコンクリ、その他ケミカル製品ならともかく、街路樹は生き物だ。生活環境保全機能、大気浄化機能、緑陰形成機能、交通安全機能、防災機能はもとより都市のポテンシャルなど街路樹には計り知れない価値がある。それを人間の都合で簡単に死刑・殺処分をしていいのかという問題だ。

 ましてや、神田警察通りのイチョウは樹齢約60年(1964年の東京オリンピック時に植えられたという人がいる)だ。人間に例えれば育ち盛りの少年少女だ。しかも、人間と違ってこの先数十年は成長し続ける。100年だって200年だって生きるかもしれない。畏怖すべき存在だ。今伐採してしまったら取り返しがつかない。代替えはきかない。

 昨年、93歳で亡くなった生態学者の宮脇昭氏は「木を植えることは命を守ることだ」と語った。その伝でいえば、街路樹伐採は人間の命を奪うこと同じではないか。その是非を今回の問題は投げかけている。人を殺していいのかと。

 今回の監査結果は、平成23年に区が発表した〝伐採ありき〟の「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」のシナリオを完結させるために下請け・補助機関化した町内会組織を操り、アリバイ作りに奔走してきたことを監査委員はコピペするように追認したとしか思えない。

 監査委員に求められる「(倫理規範)監査委員は、高潔な人格を維持し、誠実に、かつ、本基準に則ってその職務を遂行するものとする」(千代田区監査基準第4条)「(独立性、公正不偏の態度及び正当な注意)監査委員は、独立的かつ客観的な立場で公正不偏の態度を保持し、正当な注意を払ってその職務を遂行するものとする」(第5条)文言がむなしく響く。

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Screenshot 2022-06-12 at 13-25-58 神田警察通り沿道まちづくり整備構想 - kandakeisatsudoriendomachizukuri-koso.pdf.png

 前段でシナリオと書いた。「ガイドライン」にはイチョウからサクラに植え変えるイメージ図が描かれている。1つ目のイメージ図では、左に葉っぱを落とした冬期のイチョウを配し、右に満開のサクラを図示している。もう一つは歩行空間のイメージ図だ。樹高はイチョウよりサクラのほうが高く、樹形も桜のほうが美しく描かれているのが分かる。協議会でこの図が度々使用されたのは容易に想像できる。町内会関係者に催眠術のようにものすごいバイアスがかかったはずだ。(サクラはだめだとは思っていないが、格が異なる。格でいえば常緑樹のクスノキだし、値段の安いシラカシなどもいい)

 そして、このシナリオは、区と当初から業務委託契約を結んでいた街づくりのプロであるUR都市機構が深く関わっているのではないかと仮説をたてた。次のような質問を行った。そのURから以下の回答があった。(質問⇒回答)

1)どのような立場か(報酬も含めて具体的にお聞きします)⇒「神田警察通り沿道まちづくり整備構想」の実現に向けた、神田警察通り沿道整備推進協議会等の運営支援業務を、千代田区から受託しているものです。(区によると委託契約は平成23年度からで、令和3年度の受託費は約300万円)

2)区の道路整備計画を推進する側に立たれているのか⇒千代田区から受託した協議会運営支援業務として実施しております。

3)司会役を務めることのメリットはなにか⇒千代田区から受託した協議会運営支援業務として実施しております。

4)工事強行に対する住民の抗議活動をどう思われるか⇒工事に関しては、多様な意見があることを承知しており、千代田区において適切に対応されるものと思料します。

5)企業市民として声を出すべきだと思いますが、いかがか⇒多様な意見があることを承知しており、千代田区において適切に対応されるものと思料します。

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 住民監査請求の現場取材を5月8日夜に行い、近くのホテルに一泊し、さらにその後2回取材した(ホテル一泊)。住民監査請求の陳述を傍聴するのは初めてだった。

 今回の取材を通じて、2012年5月に「街路樹が泣いている ~街路樹と街を考える~」の記事を書いて以来継続して取材してきたことに間違いはなかったことを改めて感じた。

 そもそも街路樹に注目するきっかけはもう30年以上も昔だ。涌井史郎氏が自ら立ち上げた造園会社・石勝エクステリアの社長をされていたときだ。涌井氏は「私は『木の名前と虫の名前と鳥の名前を覚えると、一歩歩くたびに人生三倍楽しくなる』と子どもに話しているんですよ」と語った。

 一歩歩くごとに人生が三倍も楽しくなるのなら実践しない手はないと、街を歩くときはいつも街路樹を眺めてきた。

 そして、この1週間の間に、涌井氏の考えに通底する千葉大学名誉教授・小林秀樹氏の「複合の視点」と、東京大学卓越教授・藤田誠氏の「様々な目線」がいかに大事かを学んだ。三井不動産と三菱地所のエリアマネジメントの取り組みにも感激した。

 最後に、小坂井敏晶氏著「人が人を裁くということ」(岩波新書)の「あとがき」の一部を紹介する。

 「どんなに正しい決定であっても、それに異論を唱える市民は必ずいる…どんな秩序であっても、反対する人間が常に社会に存在しなければならない。正しい世界とは全体主義に他ならないからだ」

 「国際化の恩恵は、有益な情報の入手などではなく、慣れ親しんだ世界観を見直す契機が与えられることだと私は思う。真の国際化とは、異質な生き方への包容力を高め、世界の多様性を受け留めることではないか。正しいことは、どこにもない。この事実が受け入れられるとき、個性を活かす世界が生まれてくる」

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