9月14日に行われたマンション管理業協会の記者懇談会で「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に関する質問があった。記者はどのようなやり取りが行われたのか聞き取れなかったのだが、教育・保育現場などを中心にコロナ禍でカスハラが増加傾向にあると聞いているのでハットさせられた。と同時に、同協会が平成25年に発刊した「マンション管理業の失態調査報告書」(代表研究者:大橋弘氏)にマンションフロント業務担当者への過剰要求が取り上げられていたことを思い出した。
同協会から報告書の一部をメールで送っていただいたので紹介する。フロント業務担当者の「やりがい」と「過剰要求」を箇条書きにしたものだ。
◇ ◆ ◇
フロント業務担当者としてのやりがい(集計:2,500人)
・理事会役員に信頼されていると感じる時 87.8%
・上司や同僚にフロントとしての実力を認められた時 55.7%
・理事会役員や居住者等からほめられた時 72.5%
・新たなサービスや建物、設備の改修工事等を提案して受注できた時 48.8%
・理事会と協力して管理上の課題に取り組み円滑に解決した時 65.6%
・理事会で自ら企画立案したことや提案したことが採用された時 49.0%
・理事会役員や自治会役員と企画したイベントが成功した時 29.7%
・アンケートのコメント等で間接的に居住者から褒められた時 45.0%
・理事会役員や居住者から信頼を回復できた時 52.2%
・理事会で適切なアドバイスができた時 56.4%
・管理員等の現場の職員から頼りにされたり褒められたりした時 42.6%
・理事会役員や居住者等との交流を楽しめた時 35.0%
・理事会役員や自治会主催の懇親会等にゲストとして呼ばれた時 21.7%
・管理組合から感謝状等の形で実績を認められた時 21.0%
これまで受けた過剰要求(集計:2,295人)
・長時間(4時間以上)にわたる理事会などへの出席 60.9%
・深夜(夜10時以降)に及ぶ理事会等への出席 55.7%
・頻繁(月2日以上)に開催される理事会などへの出席 47.3%
・深夜・休日に及ぶ理事会役員や居住者等からの頻繁な電話対応 60.1%
・理事会役員から届く頻繁・大量のメールへの対応 47.8%
・理事会役員からの休日や業務時間外の突然の呼び出し 45.1%
・膨大な資料を短時間で作成するような不当な要求 39.4%
・出席する必要のない会合への出席の強要 33.0%
・総会・理事会等における罵声、怒声による威圧 57.4%
・理事会役員や居住者等からのセクハラ 2.2%
・理事会役員や居住者等からの暴力 4.0%
・理事会役員や居住者等からのいやがらせ 16.7%
・業務時間外における共用部分の汚物処理などの清掃作業の要求 29.7%
・騒音問題における音の確認等、契約業務に含まれない立ち合い要求 70.0%
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フロント業務担当者は多くのことに「やりがい」を感じると同時に、理事会役員や居住者などからたくさん「過剰要求」を受けていることが分かる。同報告書のまとめでは、モチベーションの高いフロントほど将来もフロントとして働きたいと考える傾向にあるとし、教育訓練を受けたフロントはモチベーションが高く、全体的に業務範囲が狭いほどモチベーションは高い傾向にあるとし、不当要求を受けたフロントほど、モチベーションが低下する傾向にあると締めくくっている。
どうすれば不当要求は解消されるか。報告書が指摘する教育訓練も必要だろうが、記者は一番必要なのは「マンション標準管理委託契約書」を周知徹底させることだと思う。理事会への出席など契約業務以外の事項を管理組合は管理会社に求めず、管理会社は過剰な、サービス労働に繋がる要求を受けないことだ。
もう一つは、良好なコミュニティを形成するための管理組合の取り組みが不可欠だと思う。風通しをよくすれば、居住者間のトラブルは激減するはずだ。
その意味で、2016年に国土交通省が標準管理規約を改め、コミュニティ条項を削除したのは居住者同士を見えなくし、分断するもので、誤りだったと今でも考えている。どのようなマンションの管理を行うかは、居住者が決めることだ。国が決めることではない。(記事参照)カスハラが増えているとすれば、このコミュニティ条項の削除もその要因の一つではないか。
さらに言えば、管理会社もまたフロント業務担当者が日々行っている仕事がどのようなものかを居住者に伝え、アンタッチャブルとされてきた専有部へのサービスを強化すべきだと思う。記者は5年前、公共職業安定所(ハローワーク)の就職フォローアップ事業の一つ「マンション管理員業務講習会」を取材し、「掃除は科(化)学」「床は朝日新聞、窓ガラスは読売新聞」「ホコリは取るもの、誇りは持つもの」などという講師の話と手際よいスゴ技に目からうろこが落ちたのを鮮明に覚えている。フロント業務担当者はみんなリスペクトすべきプロだ。
最近、第三者管理方式を採用するマンションが増えているが、この方式が居住者間のトラブル防止に役立っているか、カスハラの解消につながっているか、とても興味がある。
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