どこかのテレビは昨日、東京都23区の分譲マンションの平均価格が1億円を超えたと報じていた。バラエティ番組であれ報道番組であれ、記者はこの種の報道を見たり聞いたりするとうんざりする。ものにもよるが、「平均値」は落とし穴が隠されており、実態を正確に測るモノサシにはならないからだ。
例えば、プロ野球選手の年俸。日本プロ野球選手会は毎年、支配下登録選手の年俸を公表しており、昨年は716人の平均年俸は4,713万円、中央値(358番目)は1,800万円と発表した。
平均年俸と中央値にこれほどの差が出るのは、約100人と言われる1億円プレーヤーが平均値を高めているためだ。年俸200~300万円台の育成選手(今年は242名)を含めれば数値の乖離ははもっと大きくなる。(記者は、独立リーグを含めてプロ野球選手の最低年俸は大卒初任給の約360万円以上にすべきだと思っている。わがRBAの選手もプロ並みの700人はいるが、平均年収は700万円はあるはずで、某チームのエースは数千万円だとみている)
似たような例では課税標準額がある。富裕層が飛びぬけて多い東京都港区の令和3年度の納税者一人当たり所得割額は約61万円だが、課税標準額が1億円超の納税者1,250人(全体の0.9%)の一人当たりの所得割額は約225万円だ。
マンションの平均価格も同様だ。元データとなっている不動産経済研究所は、東京23区の供給量11,909戸(シェア44.3%)のうち「三田ガーデンヒルズ」を筆頭とする億ションは4,174戸(首都圏全体に占める割合15.4%、23区に占める割合35.0%)で、これが平均価格を押し上げたとし、首都圏平均は8,101万円、神奈川県は6,069万円、埼玉県は4,870万円、千葉県は4,786万円と発表している。
つまり、値の幅が大きいものの平均値をとっても意味をなさないということだ。マンションの指標で重要なのは専有面積と坪単価だ。単身者向け市場は存在せず、共働きも少数派だったバブル前と市場は変わってはいるが、坪単価がどんどん上昇し、一方で専有面積圧縮が続く今のマンション市場を注視する必要がある。記者は、Wリビングを提案したコスモスイニシア「イニシアクラウド渋谷笹塚」や、長谷工コーポレーションが開発した「Be-Fit」は専有面積圧縮に対応するプランとして注目している。田の字型プランから脱却すべきだ。
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価格動向もそうだが、今後の住宅着工動向に注視する必要がある。令和5年度の持家は前年度比11.5%減の219,622戸となり、月別では28か月減少しているが、これは今後も継続するのか、関係者の間で〝適地がない〟が口癖になっているマンションは郊外部の着工が増えるのか、いわゆるパワービルダーによる〝価格ありき〟の分譲戸建てはどうなるかだ。
貸家が平成30年度から令和2年度まで減少したのは、明らかにレオパレス21の違法建築問題と金融機関の融資審査の厳格化によるものと思われる。その後は持ち直し傾向にあり、今後もしばらくは世帯数の増加が続きそうで、スクラップ&ビルドを繰り返しながら堅調な市場を形成するのではないかとみられる。
問題は持家だ。減少率は2年連続して2ケタ台。建て替え需要は一定程度見込めるが、利便性を重視した高齢者世帯のマンションへの住み替え、新規需要層の所有から利用への意識の変化、今後需要が顕在化するZ世代の〝モノからコトへ〟志向などの懸念材料もある。漸減傾向に歯止めをかけられるか。
分譲住宅はどうか。全国的には漸減しているものの、マンションと戸建ての合計では2年連続して持家を上回った。マンションは、札幌、仙台、広島、福岡などを中心とする地方圏での着工が目立つ。デベロッパーの供給意欲も高く、地方中核都市での着工は増加しそうだ。
首都圏では、23区内では坪単価は400万円を超えつつある。平均的な勤労世帯の取得限界を超えている。大手デベロッパーによる再開発などによる富裕層向けは一段と活況を呈するとみられるが、広さを確保したいファミリー層向けの郊外が増えるかどうか。
いま一つ読めないのが分譲戸建てだ。コロナ禍での予想外の人気は一巡し、供給トップの飯田グループの2024年3月期の決算はどの程度の着地をみるのか。結果いかんでは〝価格ありき〟の商品企画の見直しが迫られそうだ。
しかし、その一方で三井不動産レジデンシャル、野村不動産などの大手デベロッパー、ハウスメーカーの高額戸建ては伸びる可能性が高いとみている。
興味深いのは、埼玉県と千葉県の分譲住宅の着工戸数だ。マンションはあざなえる縄のように絡み合って推移しているが、分譲戸建ては埼玉県が千葉県を毎年4~5千戸上回り、令和4年、5年は神奈川県をも上回った。記者は、埼玉県を本拠にし、圧倒的なブランド力を持つポラスの数値の反映だと思う。同社は今後、都内西部エリアでのマンション供給を増やすとしている。〝ピアキッチン〟が目玉だ。台風の目になる可能性を秘めているとみた。
令和5年度の住宅着工前年度比7%減の80万戸 2年連続減少持家、貸家、分譲とも減る(2024/4/30)