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2025/10/11(土) 17:03

誰のための調査か 森記念財団「日本の都市評価特性」とLIFULL「官能都市」比較

投稿者:  牧田司

「日本の都市特性評価DATABOOK 2025」合計スコアトップの大阪市のチャート

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「日本の都市特性評価DATABOOK 2025」23区合計スコアトップの港区のチャート

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 LIFULLの社内シンクタンクLIFULL HOME'S総研が「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」報告書を発刊したことは先に紹介した。モノサシが異なるものを同じ俎上に載せ批評するのは適当ではないことを承知のうえで、ほぼ同時期に発表された森記念財団都市戦略研究所「日本の都市特性評価DATABOOK 2025」とどこが同じで、どこが異なるのか比べてみた。改めて分かったのは〝何のためか、誰のためか〟ということだ。

 まず、「日本の都市特性評価」から。これは、森記念財団都市戦略研究所が2018年から調査・発表しているもので、国内の政令指定都市、都道府県庁所在地、人口17万人以上の136都市と東京23区を対象に、「都市の力を定量・定性データをもとに相対的かつ多角的に分析し、都市の強みや魅力といった都市特性を明らかにすること」が目的となっている。

 調査は、「経済・ビジネス」「研究・開発」「文化・交流」「生活・住居」「環境」「交通・アクセス」の6分野の28指標グループごとに平均値を算出し、合計スコアとしてまとめたもの。配点は2,800点満点(経済・ビジネス600点、研究・開発200点、文化・交流500点、生活・居住700点、環境500点、交通・アクセス300点)。

 調査の結果、23区を除く全国上位10市は、1位大阪市、2位名古屋市、3位福岡市、4位横浜市、5位京都市、6位神戸市、7位仙台市、8位金沢市、9位札幌市、10位つくば市の順。東京23区は1位港区、2位千代田区、3位中央区がベスト3で、最下位は江戸川区。合計スコアは、中央区(1,378.1点)より大阪(1,355.8点)のほうが低い。

 大阪市は、経済・ビジネスと文化・交流の両分野で高い評価を維持。名古屋市は、研究・開発と交通・アクセスで高い評価を獲得した。福岡市は、経済・ビジネスでは2位を維持し、特に「ビジネスの活力」の新規不動産業用建築物供給面積でスコアが上昇した。横浜市は、文化・交流で3位と高評価を得ている。京都市は、文化・交流で昨年に引き続き首位を維持している。

 分野別では、経済・ビジネスは大阪市、研究・開発は名古屋市、文化・交流は京都市、生活・住居は名古屋市、環境は鎌倉市、交通・アクセスは大阪市がそれぞれトップ。アクター別では、シングルは名古屋市、ファミリーは福岡市、シニアは松本市、観光客は大阪市、経営者は大阪市、従業員は大阪市がそれぞれトップ。

 47都道府県庁所在地のワースト3は那覇市(136位)、高知市(134位)、福島市(86位)。那覇市は、分野別スコアで「文化・交流」は15位にランクされたが、「経済・ビジネス」は78位、「交通アクセス」は70位で、「研究・開発」「生活・居住」「環境」は最下位になっている。47都道府県庁所在地より上位は10位つくば市(水戸市は72位)、12位松本市(長野市は17位)、21位浦安市(千葉市は50位)の3市。

 首都圏では、東京都は全国合計スコア25位府中市、26位三鷹市、39位調布市、47位立川市、48位八王子市、73位日野市、75位小平市、107位町田市、108位西東京市。人口17万人未満の武蔵野市などは調査対象外。

 神奈川県トップは全国合計スコア4位の横浜市で、16位鎌倉市、60位藤沢市、109位相模原市、110位横須賀市、111位平塚市、112位茅ヶ崎市、113位大和市となっている。人口14万人の海老名市は調査対象外。

 埼玉県のトップは全国合計スコア32位のさいたま市で、92位川越市、93位熊谷市、94位川口市、95位所沢市、96位春日部市、97位上尾市、98位草加市、99位越谷市の順。人口17万人未満の新座市、久喜市、三郷市などは調査対象外。

 千葉県は、浦安市、千葉市の次は76位に流山市が入り、100位市川市、101位船橋市、102位松戸市、103位習志野市、104位柏市、105位市原市、106位八千代市。人口17万人未満の佐倉市、野田市、木更津市などは調査対象外。

 三県とも5~8市が〝群(塊)〟として連続してランク入りしているのが特徴。他の地域も同じような傾向がみられ、81位の函館市から85位の八戸まで北海道・東北が、116位富士市から120位鈴鹿市までは東海が、121位堺市から130位加古川市までは大阪圏が、131位呉市から136位那覇市までが中国・四国・九州がそれぞれ連なっている。

◇        ◆     ◇

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 「官能都市」の順位は別表の通り。島原氏は「本来の趣旨は都市に優劣をつけて序列化することではない。ランキングは、あくまで、こういう指標で測ればこういう結果になった、というかたちで指標のアイデアにリアリティを与えるものであり、それ以上でもそれ以下でもない。また、すべての都市がセンシュアス・シティを目指すべきだと主張する意図もない」と断っているので、そのつもりで見ていただきたい。

 島原氏は、市街地再開発に対しては辛らつではあるが、致命傷になる、修復が不可能になるような攻撃を加えていない。大手デベロッパーの地道なエリアマネジメント活動などをきちんと評価している。「官能都市」が何よりもいいのは、主語が「私」であり、述語は「キスした」などの動詞であることだ。ただの願望に過ぎない「ナンパしたい」「住みたい」などの助動詞でないことだ。

 島原氏は終章で次のように記している。

 「自分にとっての意味によって語られる物語のことを『ナラティブ』と呼び、『昔々あるところに』で始まるようなストーリーの物語とは区別される。私たちが自分で住んでいる都市について誰かに語るとき、そこで語られるのは、よほど特殊なシチュエ―ションでない限り、緯度経度や面積や人口やGDPなど客観的なデータではなく、自分自身のナラティブである。だから自分が住んでいる都市に対して大して語る言葉がないとすれば、それは自分が住む都市が、自分にとってあまり意味化していないことを表している」

 そして、またナラティブ度順位の高い横浜市中区、千代田区・中央区、文京区、横浜市西区、目黒区、港区、松本氏、函館市、世田谷区、武蔵野市などを紹介し、「下関市(都市特性評価133位=記者注、以下同じ)、那覇市(同136位)、高知市(同134位)、長崎市(同43位)、奈良市(同18位)、山口市(66位)、川越市(同92位)などもナラティブ>センシュアスギャップが大きい」としている。

 島原氏が絶賛している吉江俊氏の「<迂回する経済>の都市論」(学芸出版社)を買って読んでいる途中だ。記者のような素人を対象にしていないのだろうが、全体の骨組みを補強する役割を果たす金物(参考文献の古典・論文)が多すぎる(ハワードの田園都市構想は分かるが、「都市と農村の結婚」「農工両全」はありえないことは過去の歴史が証明していると思う)。ただ、「『何か大切なことが書いてある気がする。手元に置いておこう』と思ってくれる人がもしいたならば、私の試みは半分、実現したようなものだ」(序章)と述べられている、その一人だ。著作で紹介されている「下北線路街」もこの前見学・取材してきた。機会があったら記事にしたい。

◇      ◆     ◇

 以下は、双方を比較して思いつくままに記すものだ。

 「都市特性評価」上位のつくば市(10位)、浜松市(15位)、鎌倉市(16位)、奈良市(18位)、豊田市(26位)、浦安市(21)、府中市(25位)、三鷹市(26位)、豊橋市(29位)、盛岡市(30位)、松山市(33位)八王子市(48位)などは「官能都市」の106位までに入っていない。これはなぜか。

 逆に、「都市特性評価」136位まで入っていないのに、「官能都市」106位までにランクインしているのは武蔵野市(39位)、狛江市(調布市とともに46位)、日野市・多摩市・稲城市(1括りで94位)、国立市・国分寺市・小金井市(1括りで95位)。人口17万人未満の武蔵野市を敢えて入れ、複数市を1括りにしているのはある程度理解できる(記者は調布市、三鷹市、日野市、多摩市に居住経験があるが、住宅選好で重視したのは子育て環境と緑環境)。ただ、調布市と立川市が入っているのに三鷹市と八王子市が入っていないのは解せない。また、〝住みたい街ランキング〟などで上位にランクされるつくば市、浦安市、鎌倉市などが106位以下なのはどうしてか。

 「都市特性評価」の配点にも疑問を挟まざるを得ない。2,800点満点で「環境」の配分は500点。比率は17.9%だ。記者が重視する「都市地域緑被率」は全体で87項目のうちの1つに過ぎないこれは少な過ぎないか。環境は何よりも重視すべき指標ではないか。お金持ちは緑被率の高い区に住んでいるという研究論文はあるが、お金を出せば環境を買えるということか。

 また、「生活・住居」では、23区はほぼ地価水準・マンション価格水準の高い順にランクされているが、これは何を意味するか。23区内のマンション価格は、どんなに駅から遠いところでも坪単価は300万円をくだらない。利便性の高いところは500万円以上だ。早晩、都心の一等地は坪3,000~5,000万円になると記者は見ている。一般的な給与所得層は住めなくなる。「住宅の広さ」「住宅コストの低さ」を重視したら、庶民にとっては最悪の点数どころかマイナスだ。調査は、地価が高く、居住水準が低いほど高い評価となっていることが分かる。

 全ての調査・ランキングに言えることだが、何のためか、誰のためかを考えることが必要だ。積水ハウス「男性育休白書」では、「男性の家事・育児力全国ランキング2025」は2年連続して沖縄県がトップだ。

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 長谷工総研の「CRI」10月号からエッセイスト・広瀬裕子氏の巻頭エッセイが紹介されている。「官能都市」報告書のセンシュアス、ナラティブに通じるものがあると思うので、以下の通り「『住む』は『生きる』」から少し引用する。

 「毎朝、目覚めた時に漂う静けさ、帰宅して窓を開けた時の風景、駅に降り立った時の香り、近隣から流れてくる音。

 条件やそれに伴う事項は、金銭的な余裕があれば、いくらでも選択できます。でも、条件に掲載されていない多くのことや五感が、『生きる』ことを形作っていきます。

 不動産情報で条件が合い内見したけれど『ここではない』となることが度々ありますが、それは、条件には挙げられていない本質的なことが『そこではない』と感じるからだと思います。

…『住む』は、すべての『生きる』とつながっている-。あの家の、あの季節の、あの場所だから、気づいたことです。大切なことは、情報として発進されること以外、日々のなかで展開することがほとんどです」

所得の多い人は緑被率の高い地域に住むその差100万円立正大・榎本氏の論文(2025/9/28)

「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」発刊 LIFULL HOME'S(2025/9/25)

夫の育児・家事の満足度高いのは佐賀、沖縄、山梨、三重積水ハ「男性育休白書」(2025/9/22)


 

 

 

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