「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」
LIFULLの社内シンクタンク「LIFULL HOME'S総研」は9月24日、「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」報告書を発刊した。2015年に発刊した第一弾の「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市]」に次ぐもので、第一弾の「センシュアス」(官能性)に加え、「ナラティブ」(物語)の概念を新たな調査項目に加え、「ナラティブ」が「センシュアス」や「ジェネリック」(普遍的魅力)に大きな影響を与えていることを浮き彫りにした。業界関係者必読の報告者だ。
調査は、47都道府県の県庁所在都市や政令指定都市、中核市に居住する20歳~64歳までの男女を対象に、時代の変化を捉える8指標・32項目について設問したもので、有効回収数は167都市の44,472件。
調査の結果、「センシュアス・シティ」総合ランキングは1位が千代田区・中央区、2位が横浜市西区、3位が豊島区、4位が大阪市北区・福島区、5位が横浜市中区、6位が渋谷区、7位が港区、8位が大阪市中央区、9位が福岡市博多区、10位が大阪市天王寺区・浪速区となった。2015年は上位だった武蔵野市、目黒区、金沢市、品川区、静岡市、盛岡市などは順位を下げるか、圏外となった。一方、宮崎市、松本市などの地方都市がランキング入りした。
同総研はセンシュアス度が向上した都市の特徴として、①カフェやレストランが多く、地元産の食材を用いた料理や地場のビールなど、豊かな「食」の経験が維持されること②きれいな青空や夕焼けや小鳥のさえずり、木陰での気持ちよい風など感じられる環境であること③路上での演奏・ライブなど都市の喧騒だけなく、歩くこと自体を楽しめること-なことが分かったとしている。
報告書は、A4版270ページに及ぶもので、同総研所長・島原万丈氏のほか、横浜市立大学都市社会文化研究科准教授・渡會知子氏、一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科教授・清水千弘氏、ディ・プラス橋口理文・吉永奈央子氏、九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門助教・有馬雄祐氏、柏市役所副市長・山田大輔氏、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻講師・吉江俊氏、LIFULL HOME'S PRESS編集部・渋谷雄大氏、東京情報堂代表取締役・中川寛子氏、スピーク共同代表/東京R不動産ディレクター・林厚見氏の論文・寄稿文が掲載されている。
島原氏は「2015年に発表した『Sensuous City[官能都市]』は、『動詞で都市を測る』というユニークな評価方法を提案しました。それから10年。私たちの都市は大きな転換点を迎えています。全国的に広がる市街地再開発は、土地の高度利用を進め、機能性や安全性を高める一方で、街の『らしさ』を希薄にしてきました…『Sensuous City 2025』では、前回から継承する『関係性』と『身体性』のフレームを基盤に、評価指標となるアクティビティ項目を時代に合わせてチューニングしました。さらに今回は、新たに『ナラティブ』という概念を導入して都市がセンシュアスであることの意義について深い分析を試みています。ナラティブとは、人々の経験や記憶、さらには歴史や文化が重なり合って紡がれる都市の『語り』のことです…ナラティブが都市の幸福やシビックプライドを増幅させる――この循環こそが、センシュアス・シティの大きな意義です。本調査が、これからの都市政策やまちづくりの新たな指針を描くための契機となることを願っています」とコメントしている。
報告書は希望する人に無料で進呈される(なくなり次第終了)。希望する人はLIFULL HOME'S総研公式サイト:https://www.homes.co.jp/souken/report/202509/へ。
島原氏
◇ ◆ ◇
「官能」といえば「小説」しか思い浮かばない記者は、取材案内メールに「官能都市」の文言がちりばめられていたので、スルーしようかと思った。どうせ、根拠など全くない、ただ面白おかしく紹介するSBIアルヒ「本当に住みやすい街大賞」(昨年から公表されなくなったが、同社はその功罪を明らかにしていない)か、デベロッパーの影が透けて見える〝住みたい街〟やら〝住みやすい街〟の類だろうと考えたからだ。
まあ、しかし、時間はたっぷりある。同総研副所長・チーフアナリストの中山登志朗氏のような楽しい人が登壇するのだろうから、冷やかしの一つや二つ浴びせかけてやろうと参加することにした。
ところが、豈図らんや。予想した発表会とは全然異なった。島原氏は同社のシンボルカラーのオレンジで身を固めて登場するのかと思ったら、濃紺のスーツだった。
報告書は前段で紹介した通りだ。「官能」の本来的な意味である「五感で感じる」をモノサシにして都市を評価したものだ。島原氏は第1章で「雑多さや猥雑さ、いかがわしさ、夜など、政治的な〝正しさ〟で武装した資本とアカデミックな工学が重視してこなかった、あるいは意図的に排除した、人間が生きる場所であるところの都市の本音を救出する意図もあった」と、発刊した理由を述べていように、官製の報告書では絶対ない、主人公である居住者の生の声であふれかえっている。〝路上でキスした〟〝素敵な人に見とれた〟〝地元産の食材や郷土料理を楽しんだ〟〝木陰で気持ちよい風に吹かれた〟などだ。総合ランキング1位の「東京都千代田区・中央区」だって容赦しない。ウォーカブルの指標では3位になった理由として、「『道端でくつろぐ猫を見かけた』の144位が足を引っ張った」ことを挙げている(記者は千代田区、中央区はウォーカブルな街づくりのトップランナーだと思っている。ネコを見かけないのがマイナス要素になるとは…)。
嬉しくなる指標項目もある。「グラングリーン大阪」の街づくりの評価が高いのもそうだが、都市のリトリートでトップは「日野市、多摩市、稲城市」となっていることだ。「木陰で気持ちよい風に吹かれた」のが評価ポイントだという。わが多摩市が素晴らしい街であることをこれまで何度も記事にしてきたが、居住者も同じ考えのようだ。一方で「江東区」がこの指標で2位となっており、「公園や水辺で緑や水に直接ふれた」というのがその理由なのは解せない。江東区は多摩市と対照的に住居系用途地域が極端に少なく、工業系ばかりで緑が少なすぎると思っているのだが…だからこそ住民は少ない公園や水辺を評価していると理解することにした。
参考までに、記者は街のポテンシャルを測るモノサシを紹介すると、①大勢の人が集まり、おいしてものが食べられるホテルがあること②なんでも揃うデパートがあること③歴史・文化施設があること-この3つが基準で、最近はやや軌道修正し、タバコが吸えるドトールとせんべろが可能な日高屋があることを追加した。これにマクドナルドを加えた〝御三家〟が不動産進出の決め手になることを同業の記者から教わった。
各氏の論文を一つひとつ紹介する余裕はないが、島原氏は序章で「もしこの10年間に国内で出版された都市論の中から最も重要な10冊を選べと言われたら、吉江俊氏の『<迂回する経済>の都市論』(2024年)は、その筆頭に上げたい画期的な一冊」と綴っている。「<迂回する経済>の都市論」を早速ネットで購入した。
林氏の寄稿「みんながデベロッパーになる時代」は現在の街づくりに警鐘を鳴らしている。「デベロッパーは意味的には終わった」の言葉には肺腑をえぐられた。
ただ、報告書に注文・疑問もある。記者は、調査範囲をもっと広げ約260ある人口10万人以上にしたらどうかと質問したら、島原氏は「広げたいのだが、コストがかかるので…」と話した。ならば、先日発表された積水ハウスの「男性育休白書」と連携したらどうか。素晴らしいものになるはずだ。疑問点は、先の「日野市、多摩市、稲城市」は似ているようで似ていない。「豊島区」は風俗も所在する池袋もあれば、戸建て住宅街もある。他の区市もそうだろう。広域・狭域の視点も必要ではないか。
-読みだしたら止まらない。書き出したら止まらない。もうやめる。とにかく面白い。業界関係者必読の書だ。
◇ ◆ ◇
報告書で興味深いことを発見した。経歴だ。島原氏は「1989年リクルート入社」で、LIFULL HOME'S総研所長に就任したのは2013年とある。1989年といえばリクルート事件が発覚した翌年だ。所長に就任した2年後に「官能都市」を発刊したことになる。
島原氏のほかにもリクルート出身の執筆者は3人いる。林氏は、リクルート創業者の江副浩正が立ち上げたデベロッパー・スペースデザインに在籍していた。清水氏は2000年11月に リクルート住宅総合研究所主任研究員に就任している。橋口氏もリクルート入社とある。
なぜ、このようなことを書くかといえば、記者にとってリクルートは特別な存在だからだ。リクルート事件では数回にわたって特集記事を書いた。コスモスイニシアは創業時からずっと取材してきた。〝デベロッパーの頭脳〟と呼んでいいほど商品企画が優れている。それは、江副の「自ら機会をつくり、機会によって自らを変えよ」という起業家精神がずっと引き継がれているからだと思う。「官能」と「都市」を結びつけ、さらにまたナラティブ(語り)を付加した島原氏もまた創業時のDNAを受け継いでいるに違いない。
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