
2026年の住宅・不動産業界団体と各社の年頭所感を一通り読んだ。現状認識について各団体はどのように見ているか、いくつか紹介する。同じ世界に身を置くのだから、似たようなものになるのは当然だが、立ち位置によって微妙に異なるのが読み取れる。
不動産理事長・吉田淳一氏 日本経済は全体としては堅調に推移しており、「失われた30年」における「デフレ・コストカット型経済」から、ようやく脱却したように思います。しかしながら、物価上昇と賃上げのバランスにおいて、国民の景気回復の実感はまだまだ乏しいというのが現実ではないでしょうか。ウクライナ危機等に端を発した「コストプッシュ型の物価上昇」から、経済成長と所得増加を伴う「健全な物価上昇」の社会へ移行しなければなりません
全国宅地建物取引業協会連合会会長・坂本久氏 昨年の不動産市場は、金利情勢や資材価格、地価の高騰などにより、消費者の住宅取得が難しさを増す一年となりました
不動産流通経営協会理事長・遠藤靖氏 わが国の景気は、米国の通商政策による影響が一部産業を中心にみられるものの、緩やかに回復しております。今後、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果が緩やかな回復を支えることを強く期待しております
全国住宅産業協会会長・肥田幸春氏 昨年を振り返りますと、賃上げの動きが広がりを見せた一方で、物価上昇の影響は家計や企業経営に重くのしかかり、実感としての景気回復には力強さを欠く一年でありました。加えて、金利動向への関心の高まりや先行き不透明感は、消費者心理に慎重さをもたらし、住宅取得を含む大きな意思決定に影響を与えたといえます
住宅生産団体連合会会長・仲井嘉浩氏 住宅市場に目を向けますと、持家着工は7か月連続で対前年比減となり総戸数の年率換算値は80万戸程度の低水準であり、厳しい状況が続いています
プレハブ建築協会会長・芳井敬一氏 住まいを取り巻く環境は大きく変わってきています。少子高齢化、単身化の進行などのニーズの変化があるなか、生産年齢人口減少や労働環境への対応による人手不足、建設資材の価格上昇など、建築費における供給側の課題に加え、金利の上昇などお客さまの負担の課題もあります」「着工戸数は、依然として厳しい状況にあります
日本ツーバイフォー建築協会会長・野島秀敏氏 最近の住宅を巡る動きを見ますと、資材・人件費の高止まり、円安などの環境が続く中、住宅市場は継続的に厳しい事業環境が続いている
日本木造住宅産業協会会長・市川晃氏 国内住宅市場は、人口減少等による新築需要の低迷、資材価格や人件費の上昇、住宅ローン金利の引き上げ傾向など、厳しい状況が続いています
一方、各社の年頭所感はそれぞれ目指す方向性が示されておりとても面白い。弊紙に寄せられたものと40社以上の年頭所感を発表した「Re.Port」から主だったものを以下に紹介する。(順不同)
三井不動産代表取締役社長・植田俊氏 当社グループ約2.6万人の社員一丸となり「OneTeam」の精神で、時代の変化は当社グループが付加価値創出力という強みを発揮できる
三菱地所執行役社長・中島篤氏 我々が歩みを緩めることはない。2026年は三菱地所グループの強みを再定義する年であり、長期経営計画2030の達成に向けて邁進する。三菱地所グループは、高い専門性と実行力を基盤に、不動産との多様な関わりを通じて、まちの価値を持続的に高めていく
住友不動産代表取締役社長・仁島浩順氏 東京都心とインド・ムンバイでのプライム資産開発で更なる強固な事業基盤を築き、開発分譲型事業ではマンション分譲事業に並ぶ二本目の柱として収益物件分譲事業を育てる
東京建物代表取締役社長執行役員・小澤克人氏 当社は創立130周年を迎える。先人のたゆまぬ努力と、それを大切に引継ぎ、今を支える人々の情熱が、今日の当社を築き上げてきたことに感謝しつつ、この歴史と伝統を胸に、未来への新たな一歩を踏み出す年にしたい
野村不動産ホールディングス代表取締役社長グループCEO・新井聡氏 野村不動産グループはグループビジョンで謳っている「幸せと豊かさの最大化」を目指し、既存の枠組みにとらわれず新たな価値創造に今年さらに挑戦していきます
東急不動産ホールディングス代表取締役社長 ・西川弘典氏 今年も当社の特色の一つである「環境経営」を推進し、成長領域で当社の強みを発揮できる3つの重点テーマに取り組むことで、強固で独自性のある事業ポートフォリオを構築し、更なる成長を遂げていく
長谷工コーポレーション代表取締役社長・熊野聡氏 恒例の今年のキーワードは、「人」。漢字一文字としました
森ビル代表取締役社長・辻慎吾氏 世界も日本も変化の激しい時代だが、「都市の本質」「人間の本質」はどんな時代になっても変わることはない。企業が成長し続ける良の方法は、その会社にしかない、絶対的な強みを持つことだ
西武ホールディングス代表取締役社長・後藤高志氏 グループシナジーをさらに強化し、働き甲斐のある職場環境の実現に向けて、一人ひとりの「最高の処遇」へ挑戦していく1年にします
三菱地所レジデンス取締役社長・宮島正治氏 「ザ・パークハウス」のコアバリューは「一生ものに、住む。」。一生ものに相応しい安全・安心や資産性を約束するとともに、価格に見合う価値の追求を続ける。お客様の暮らしに寄り添い、満足度の高い体験を提供することで、選ばれ続ける企業を目指していく
東急リバブル代表取締役社長・小林俊一氏 今までの常識は、もしかすると明日には非常識なものになってしまうかもしれません…当社では、AIの活用による業務効率化と並行して、「変化への感度」と「プロとしての徹底した専門性」を高めていく考えです
三菱地所リアルエステートサービス代表取締役社長執行役員・清水秀一氏 今年、私たちが目指すべきは、「結果(最高益の更新)とプロセスの高次元での融合」です
大和ハウス工業代表取締役社長・大友浩嗣氏 企業の持続的成長は、現状維持を選んだ瞬間に停滞します
積水ハウス代表取締役兼CEO社長執行役員・仲井嘉浩氏 当社のビジョンである「積水ハウスのテクノロジーをデファクトスタンダードにする」ための基盤整備を、この第7次中計で実施したいと考えています
積水化学工業住宅カンパニープレジデント・吉田匡秀氏 当社は、自然体で自分らしい暮らしが未来まで続く住まいを目指し、「Life Sustainable 鉄の家は、つよくて、やさしい。」を新たなブランドメッセージと定めました
トヨタホーム代表取締役社長・西村祐氏 今後、「住まいのことならトヨタホーム」とお話しいただけるよう、地域に愛される「町いちばんの住宅会社」を目指して努力を重ねてまいります
ミサワホーム代表取締役社長執行役員・作尾徹也氏 従来のビジネスモデルは岐路に立たされています。この環境を乗り越えるには、改善や改革と異なり、既存の仕組みを根本からつくり変える「変革」が不可欠と考えています
三井ホーム代表取締役社長・野島秀敏氏 「高品質な木造建築の提供を通して、時を経るほどに美しい、持続可能なすまいとくらしを世界に広げていく」ことを使命と考え、環境負荷の低減と災害に強い木造建築の開発に取り組んでまいります
ポラスグループ代表・中内晃次郎氏 国内外の情勢が目まぐるしく変化し、予測が難しい不透明な状況が続くことが予想されていますが、そんな時こそ、現状をしっかり見据え、失敗を恐れずに試行錯誤し、果敢に挑戦する姿勢こそが大切と考えています
大東建託代表取締役社長執行役員CEO・竹内啓氏 大東建託グループの総合力をより一層結集し、コア事業の深化とグループの特長を活かした新規事業の開拓を追求し、更なる飛躍と成長に邁進していきます
クリアル代表取締役社長執行役員CEO・横田大造氏 「不動産投資を変え、社会を変える。」 これは、当社グループが掲げるミッションであり、我々の揺るぎない信念です。かつてはごく一部の人だけのものであった不動産投資を、誰もが手軽にアクセスできることで、安定した資産運用を当たり前のものにする
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「苛政の時代」「バブル期には家は買えた」アンビシャス・安倍社長
上段で各業界団体・各社の年頭所感を紹介したが、記者がもっとも驚いたのは、2026年1月5日付「週刊住宅タイムズ」新年号で、アンビシャス・安倍徹夫社長(81)が同紙のインタビューに答え、現在の社会経済状況を「苛政の時代」と喝破したことだ。安倍氏は、バブル期と現在の不動産市場について次のように語っている。( )内は記者。
「(1989年12月に就任した)三重野日銀総裁の政策転換(金融引き締めと大蔵省の不動産融資の総量規制)で、大手の銀行、証券会社、不動産会社が破綻した。急ブレーキで市場が一気に冷えた。当時は全国津々浦々がバブルだったが、今は大都市の都心とその周辺に限定され、局所的なもの。円安の影響で物価が上昇し、実質賃金が落ち込み、取引価格が天井を超えて売り圧力が強くなっているところもある。日銀の政策転換で大きく流れが変わるとすれば、どのように規制をかけていくのか非常に難しい課題だと思う」とし、現在の市場を「孔子の言葉で『苛政は虎よりも猛し』とあるが…(略※)…60年近くマンション事業に取り組んできたが『持てる人と持てない人の差』が、これほどの格差は過去に経験がない」
安倍氏はまた「かつてのバブル期でも家は買えた」と話しているが、その具体的記述はないので、バブル期の市場について少し補足する。
〝地価は上がる〟という土地神話を全国民が妄信していた昭和61年(1986年)、〝民活第一号〟マンション「西戸山タワーホウムズ」(576戸)が分譲された。パンフレットは有料だったが、真夏のさなか、販売事務所の周りはとぐろのように人が渦を描き、来場者は約6万人に、申し込み倍率は44.2倍に達した。
昭和57年(1982年)11月に分譲された「広尾ガーデンヒルズ」第1期187戸は坪単価252万円(最多価格帯7,300万円台)だったが、最高209倍、平均40.8倍で即日完売した。その後、昭和60年(1985年)の最終期63戸(最多価格帯16,000万円台)の坪単価は420万円)となり、3年間で67%値上がりした。「広尾」は〝マンション転がし〟の代表格で、平成2年(1990年)には瞬間的に坪単価は2,000万円を突破した。最終分譲からの5年間で約10倍という異常ぶりだった。
東京都住宅供給公社が平成元年(1989年)に分譲した戸建て「多摩ニュータウン南大沢四季の丘」(45戸)の平均競争倍率は270倍に達した。この競争倍率はいまだに破られていない。
バブル絶頂期の平成2年(1990年)の7月には、首都圏で約4,400戸のマンションが供給された。高額物件では坪単価1,200万円の「パレ神楽坂」9戸(4億円台)、坪単価744万円の「藤和代沢ホームズ」8戸(1億5,000万円台)、坪単価478万円の「グランフォルム菊名」11戸(2億円台)などがある。一方、郊外物件では坪単価212万円の「ライオンズマンション若葉台第2」30戸(4,200万円台)、坪単価175万円の「ネオハイツ深谷」1期50戸(3,800万円台)など坪単価が200万円台の物件も全114物件のうち4割近くを占め、ファミリータイプでグロスが4,000万円台以下も相当数に上っていた。
分譲戸建ても、都内や神奈川県の物件は軒並み1億円を超えたが、都心からの距離・駅からの距離を考えなければ「鳩山ニュータウン」「蓮田グリーンタウン」「牛久みどり野」「昭苑台」などの大規模ニュータウンは5,000万円台で購入できた。安倍氏が「かつてのバブル期でも家は買えた」ことが分かる。
もう一つ、投資用マンションもそうだが、首都圏近郊で年間数千戸から1万戸くらい供給されたリゾートマンションもバブル期を象徴する事象だった(安倍氏が当時務めていた大京東京支店はほとんど手掛けていなかったはずだが)。平成2年完成の熱海のリブラン「別邸桜乃庄」(25戸)の坪単価は550万円くらいだった。伊東の三武「ウェルネスの森」は全300戸の大型で、価格は全てが1億2,000万円だった(このマンションはバブル崩壊で工事が中断したが、施工の大成建設が完成させ、一部はホテルとして利用されている)。
現在はどうか。これは皆さんもご存じだろうから詳細は省くが、マンションデベロッパーはバブル期の数百社から十分の一に激減、大手デベロッパー(系)の寡占状態に拍車が掛っている。都心からの距離・駅圏=資産性を喧伝するデベロッパーの戦略が奏功し、山手線内は坪単価1,000万円以上、23区内は坪500万円以上が相場となっている。安倍氏の「郊外のマンションはつい最近まで70㎡で3,000万円~4,000万円だったものが、今は7,000万円、8,000万円となり、一般の人達ではとても手が出ない価格になっている」言葉通りだ。(住宅ローンの面積要件の緩和は賛成だが、敷地面積が60㎡未満の「狭小住宅」は課題も多い。広めに誘導する対策も必要)
安倍氏が「60年近くマンション事業に取り組んできたが、〝持てる人と持てない人の差〟がこれほどまでに拡大したのは過去に経験がない」と話した所得格差はどうか。
記者は毎年、東京都港区の段階別課税状況を調べているのだが、課税標準額が1億円以上の高額納税者は平成28年度(2016年度)の957人(全納税者に占める割合は0.7%)から、令和7年度(2025年度)は1,677人(同1.1%)に大幅に増加。この層の収める所得割額は9年前の約163億円(全体の24.2%)から令和7年度は約334億円(全体の30.3%)と2倍に膨れ上がっている。また、課税標準額が3,000万円以上の納税者の全体に占める割合は平成28年度の3.0%から令和7年度には8.8%へ5.8ポイント増加しており、いわゆるパワーカップルも激増していることがうかがえる。
ボリュームゾーンの所得が400~500万円台で課税標準額が200~300万円台の層は9年前の約32,561人(全納税者の24.3%)から令和7年度は3,6146人(同23.4%)となっている。この数値からも〝富める者はより富み、貧しき者はさらに貧しく〟を読み取ることができる。
安倍氏が言う「苛政」-「虎」はわが国には棲息しておらず、レッドリストになっているようだから、敢えて言えば「熊」か。熊から逃れて東京に移住しようにも「家」は買えないし家賃も高い。記者は、都心3区などが制度化している「付置住宅」をさらに拡充し、一定規模以上のビルやマンションを建設する場合、容積率を緩和してもいいから低所得者用の住宅などを確保すべきだと思う。誰も利用しない公園などが適地になるのではないか。
※苛政 重税。[礼記]婦人の墓に哭する者ありて哀し。~曰く、昔者吾が舅、虎に死し、吾が夫又死す。今吾が子も又死せりと。夫子曰く、何爲すれぞ去らざるやと。曰く、苛政無ければなりと。夫子曰く、小子之れを識せ。苛政は虎よりも猛しと。(大辞林)
興味津々「週刊住宅」の記事アンビシャス安倍社長・RIA土屋社長・田舎暮らし(2022/4/5)

