年頭所感 「また、行きたい」施設展開 オリックス・ホテルマネ・似内隆晃社長
似内社長
新年あけましておめでとうございます。
昨年は引き続き、ウィズコロナでの困難な状況下、安心・安全を第一にハード・ソフト両面での感染対策を行いながら、観光需要の回復を見据えてお客さまを受け入れる準備を整えてまいりました。昨秋の全国旅行支援の実施や、政府による水際対策緩和により、観光業界にもようやく明るい兆しが見えてまいりましたが、本年は回復の手ごたえを十分に感じ取れる1年となることを期待しています。
そのような中、当社では「日本の新しい魅力、地域ならではの体験」を創出することにさらに力をいれたいと考えております。当社運営の旅館、ホテル、研修施設などでは、オリックス水族館(株)とコラボレーションした客室や地元の店舗との連携、伝統工芸の体験プランなどさまざまな地域の魅力を感じられる体験プランをご提供し、現在も全国各地で、自治体や地元企業さまとのプロジェクトを進行中です。こうした地域の人々を巻き込んだ取り組みを全国の施設などで順次進めていくことで、「訪れるお客さま」「地域」「当社施設」にとっての好循環を作り、日本の観光を盛り上げていきたいと考えています。
昨年10月には、福岡市の「天神エリア」に新しいホテルブランド「CROSS Life(クロスライフ)」を二軒同時に開業しました。地域とより深くつながり、ホテルを通じて魅力を発信することで、訪れる方々にとってサードプレイスとなるようなホテルを目指したいと考えています。
本年1月下旬には、25年までの全面開業を目指してリニューアル中の「別府温泉杉乃井ホテル」で二棟目の新館「宙館」が開業します。また、静岡県熱海に当社のフラッグシップ旅館ブランド「佳ら久」の二軒目となる「熱海・伊豆山佳ら久」を開発中です。どのカテゴリーの施設にご滞在いただいても、お客さまに心地よさを提供し、「また、行きたい」と思っていただける施設展開をしてまいります。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
年頭所感 日本一の供給企業として環境性能追求 大京・深谷敏成社長
深谷社長
新年あけましておめでとうございます。
昨年は、継続するコロナ禍に加え、不安定な世界情勢に伴うエネルギー価格の上昇、建築資材の高騰などにより、不動産業界は、難しい課題に直面しました。
今年も不確実性の高い状況が続くと考えていますが、今まで以上に立地と商品企画にこだわったものづくりができる力を組織として強化することで、お客さまのニーズに応える付加価値の高い住宅を提供していきたいと思っております。
サステナビリティ推進においては、一昨年、オリックスグループの不動産事業部門として「サステナビリティ推進方針」を設定し、「脱炭素化」「環境配慮」「安全・安心・快適性」「地域共生」をテーマに積極的に取り組みを進めてまいりました。分譲マンション開発事業では、引き続き、原則「ZEH-M Oriented」以上の省エネ基準を満たす仕様で開発を推進するほか、昨年より新たに「マンションギャラリーや建設現場の再エネ化」、「マンション全駐車区画のEV充電対応」、「室内の快適性向上に向けた大学との共同研究」など、取り組みを加速しています。
日本で一番多くのマンションを供給してきた企業として、開発・管理・流通のノウハウを生かし、環境性能の追求を続けてまいります。同時に、地域の活力向上を通じて、サステナブルな社会の実現に貢献したいと思っています。
また、「DX」のテーマでは、業務プロセスの見直しと生産性向上に向けた取り組みを始めています。「サステナビリティ」と「DX」は事業の品質向上につながるチャンスとなりますので、これらを確実に推進することにより、お客さまの満足度向上はもちろん、長く皆さまに愛されるライオンズブランドを築いてまいります。
皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとって実り多い一年となりますよう、心より祈念申し上げます。
年頭所感 「社員のキャリア自律×ベクトルの一致」 積水ハウス・仲井嘉浩社長
仲井社長
新年、あけましておめでとうございます。
昨年は、新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ侵攻、資材価格高騰、物価高など社会情勢が目まぐるしく変化した年でした。非常に難局ではありましたが、無事に乗り越えることができ、2022年度は、過去最高の業績と第5次中期経営計画の3ヵ年合計も当初計画を上回る予定です。
現在、日本の住宅ストックは、耐震性や断熱性が低いといった住宅の質の部分で、まだまだ多くの課題を抱えており、国も良質な住宅ストックの形成に本格的に舵を切り始めました。当社グループは今まで黙々と住宅に関する技術研究を重ねてきました。先人たちが築き上げた最高の品質と技術と顧客基盤をベースにし、グループ全体でストックの価値向上に努め、さらに、新しいソフト・サービスを加えることにより、安定成長に繋げていきます。
また、海外においては工業化住宅といったビジネスモデルはありません。今世界が積水ハウスの住宅に関する技術やマーケットインの商品づくりに注目しており、海外戸建て1万戸を供給するビジョンを実現したいと考えています。
成長のためのドライバーは人財価値の向上です。その価値は、「社員のキャリア自律×ベクトルの一致」で計ることができると考えています。これは “かけ算”なので、どんなに自律した優秀な個人であっても、一人だけ違う方向を向いて仕事をしているなど、組織がめざすベクトルと合っていなければ、組織にとっての人財価値は、“ゼロ”にしかなりません。
「ベクトルの一致」のキーパーソンはリーダーです。会社のビジョンや組織・事業の戦略を、伝道師として伝え、波及させていくインテグリティの高いリーダーの存在が不可欠です。
「キャリア自律」とは、各々の社員が積水ハウスグループという資源を利用しながら、自らのキャリアを一つひとつ形成していくことです。社員一人ひとりが、環境変化に適応しながら主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組むことを期待しています。
そして、これからも合言葉として大事にしていきたいのは、「イノベーション&コミュニケーション」です。イノベーションとは、お客様に幸せという価値を提供することだと考えています。そのためには活発なコミュニケーションが必要です。いろいろなアイデアをもとにコミュニケーションをとることで、新たな展開が生まれ、お客様が幸せになり、会社が成長し、社員が素晴らしいキャリアを形成していくと確信しています。
最後に、当社グループを取り巻く社会環境は今まで以上に激しく、かつ労働力不足の時代が到来します。この環境変化に適応するために「DX」は必要不可欠ですが、同時に、相反するようですが、美しいものは美しいと感じることができる「感性」も忘れてはならないと思います。先人たちが培った「信頼」と「技術」に、「DX」と「感性」を加えることでNEXT 積水ハウスを構築していきます。
年頭所感 「ともに、その先の未来へ。」三井不動産リアルティ・遠藤靖社長
年頭にあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
昨年、当社は新生三井不動産リアルティ誕生から10周年と節目の年を迎えました。新型コロナウイルス感染症の影響を受けながらも堅調なマーケットに支えられ、各事業の業績は概ね順調に進捗し、2022年3月期には過去最高益、また全国売買仲介取扱件数36年連続No1を達成しました。
日本の景気の現状は、新型コロナウイルス感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで持ち直していますが、今後様々なリスク要因により、今後の日本経済を巡る不確実性はきわめて高いと考えています。
そうした中、「ともに、その先の未来へ。」をコーポレートステートメントに掲げ、お客さまに提供するサービスにより成り立つ当社にとって、お客さま満足度の向上は恒常的な課題であります。
本年は、お客さまへより質の高いサービスを提供することに全社一丸となって取り組み、「三井のリハウス」「三井のリパーク」「カレコ・カーシェアリングクラブ」を今まで以上に信頼されるブランドに育てていく所存です。
最後になりましたが、本年も皆さまの一層のご理解とご支援をお願い申し上げるとともに、本年が皆さまにとって実り多い一年となりますよう心よりお祈り申し上げます。
年頭所感 予測できない時代だからこそ「正射必中」 ポラスグループ・中内晃次郎代表
中内代表
2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、3年が経とうとしています。
新型コロナウイルスはパンデミックを引き起こし、感染防止を目的とした人流抑制策等により、世界経済が停滞するなど現在も大きな影響を受けています。2023年1月現在、収束に向かいつつあるとの説もありますが、国内では第8波といわれる状況になっており、未だにマスクが手放せない状態です。
この間、我々の仕事の環境は大きく変わりました。感染防止対策の一環として、ウェブ会議、テレワーク、お客様とのリモート商談や、展示場やモデルルームへのご来場は事前予約が多くなりました。
住宅の市況においても、外出の自粛や在宅ワーク等の影響により、住まいに対する関心が高まり、住宅購入の需要が顕在化した時期でもありました。
新型コロナウイルスの蔓延やこれに起因する、物流の混乱、資材等の不足や高騰、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化など、予測のできないことが起きています。
弓道の考え方に「正射必中(せいしゃひっちゅう)」という言葉があります。これは、的を狙うに際して、的に中てることばかりに意識を置くのではなく、正しい手続きを踏み、そのことに意識を集中していけば、結果として必ず的に中てることができるという考え方です。
当社には経営理念や経営基本方針があります。それらから外れた業務の進め方は、我々の仕事の進め方ではありません。予測のできない時代だからこそ「正射必中」で、絶えず経営理念や経営基本方針に照らし合わせながら、仕事に取り組んでまいります。
年頭所感 3つの言葉「将来の夢」「旅」「遵」 大和ハウス工業・芳井敬一社長
芳井社長
昨年は、新型コロナウイルス感染症対策とともに社会経済活動が再開し、日本経済における回復の兆しが見えた年となりました。当社では、第7次中期経営計画の初年度となる2023年3月期の第2四半期決算において売上高が過去最高を更新する結果となり、グループ社員全員の底力を実感する一年となりました。心から感謝しています。
一方で昨年から続く資材価格の高止まりをはじめ、エネルギーの供給不安や日銀の金融緩和修正など、国内外には先行き不透明な要素も混在しています。このような2023年の年頭にあたり、皆さんにお伝えしたいことが三点あります。
一つ目は、“将来の夢”です。昨年5月、企業のあるべき姿として、大和ハウスグループのパーパスである“将来の夢”―「生きる歓びを、未来の景色に。」を策定しました。これは「2055年に私たちが創り出したい社会」と「大和ハウスグループの果たすべき役割」を示しています。当社は創業以来3,000万人以上のお客さまと出会ってきましたが、このお客さまとともに生きる歓びを分かち合える世界を実現できるよう、しっかり理解し、自ら実践してください。
二つ目は、「旅」です。私は時間を見つけては、自分で全てを手配して一人旅に出かけていますが、旅での経験は新たな発見や気づき、そして出会いを与えてくれます。当社グループにおいても第7次中期経営計画という5年間の旅路が始まりました。各事業本部や事業所、そして皆さん個人が目標をたて、その達成に向けて努力されていますが、そのなかで経験する様々な出来事は、必ず自分たちの成長へとつながります。この経験を糧として日々業務に邁進してください。
三つ目は、私の今年の一文字「遵」です。改めて襟を正す一年にしたいと思います。当社では近年、コン プライアンス強化に努めており、皆さんにも様々な取り組みを実施いただいていますが、まだ不十分な点も見 受けられます。ルールの遵守なくして企業の成長はありません。法令や会社の規則はもちろん、お客さまとの 約束など、あらゆる決めごとを遵守してください。
最後に、当社を取り巻く事業環境は変化を続けており、年々そのスピードを増しています。しかし、当社において変わらないものは創業の原点である「社会の役に立つ事業の展開」です。この創業者精神を行動の規範とし、皆さんのさらなる飛躍の一年となることを期待しています。
野村不動産HD 新社長に副社長の新井聡氏、沓掛英二社長は会長へ
野村不動産ホールディングスは12月14日、新しい代表取締役社長兼社長執行役員グループCEOに取締役副社長兼副社長執行役員の新井聡氏が、会長には代表取締役社長兼社長執行役員グループCEO・沓掛英二氏が2023年4月1日付でそれぞれ就任すると発表した。現会長の永松昌一氏は4月1日付で、野村不動産顧問に就任する予定。
新井氏は、1965年6月3日生、愛知県出身。1988年3月、東京大学経済学部、同年4月、野村證券(現野村ホールディングス)入社。2011年4月、同社執行役員、2014年4月、同社常務執行役員、2017年4月、野村ホールディングス執行役員・野村證券執行役兼専務執行役員、2019年4月、野村證券代表取締役兼副社長執行役員、2022年4月、野村不動産ホールディングス顧問・野村不動産取締役(現職)、2022年6月、野村不動産ホールディングス取締役副社長兼副社長執行役員(現職)。
「産業デベロッパー目指し、日々妄想」植田俊・三井不動産次期社長
植田氏(左)と菰田氏(東京ミッドタウン日比谷で)
三井不動産は12月9日、社長交代人事を発表し、同日、次期の代表取締役社長 社長執行役員社長に就任する同社取締役専務執行役員・植田俊(うえだ たかし)氏と、代表取締役会長に就任する同社代表取締役社長 社長執行役員・菰田正信氏が出席して、社長交代に関する記者会見を行った。両氏からはとても興味深い話・エピソードが飛び出した。
会見の冒頭、菰田社長は2011年6月に社長に就任してから12年弱(退任時では11年9か月)を振り返り、「就任時は東日本大震災の直後で、リーマンショックの傷がいえない時だったが、これまで若干実績を積み上げてきた」と語った。
具体的には、「イノベーション2017」で①街づくりの進化②スマートシティの実現③グローバル化の戦略課題にスピード感を持って推進した結果、6年間で営業利益は6倍、純利益は2倍という高い目標を達成したことなどを話した。
2018年に策定した「ビジョン2025」では、①持続可能社会の実現②デジタルイノベーション③グローバルカンパニーの進化-などを掲げ、コロナ禍で経常利益は1,000億円近い減益(2021年3月期)となったが、3年が経過し、コロナの収束が見通せるようになり、今期の営業利益は過去最高の3,000億円を達成できる見通しが立ったと述べた。
社長交代ついては、「『ビジョン2025』達成の道筋が見えたことから、その先は次世代のリーダーにバトンタッチするのがふさわしい」と決断。「後任の植田専務は私の右腕として、業績向上に大きく貢献した立役者」と紹介。「人物、見識、能力はもちろん社内外の人望も厚く、リーダーシップを発揮して新時代を切り開いてくれると確信している」と称え、「植田専務は相手の立場に立ってものごとをよく考える。『妄想』の言葉に象徴されるように、既成概念にとらわれない自由な発想で、新たな三井不動産を切り開いてほしい」とエールを送った。
今後の国内外の市場・展開については、「政治経済の動向、地政学的なリスク、気候変動など先行き不透明感は極めて高いが、私も植田新社長とともに社業の発展に全力を尽くしていく」と語った。
印象に残っている事業としては、米国ハドソンヤードでの2つのプロジェクトを「常識を覆して」成功に導いたことと、菰田氏も10年以上かかわった「柏の葉」のスマートシティの街づくりプロジェクトをあげた。
辛かったことについては、「人を集め、街を創るのが仕事のわれわれにとって、コロナ禍で〝人を集めるな〟と言われたのは辛かった」と率直に語った。
記者は、これまでの菰田氏の実績、同社の業績の推移などから、やり残したことなど一つもないだろうと質問したら、菰田氏は「そんなことはない。たくさんある」とし、日本橋川の再生が2040年になっていることをあげた。(小生はかつて、岩沙会長が「わたしの生きている間に再生してほしい」と語ったのを忘れない。あと20年後だ)
◇ ◆ ◇
菰田氏の挨拶を受けて、植田次期社長は「社長の命を受け、その使命の重大さと責任の重さに身が引き締まる思い。本日は、わたしがどんな人間であるか、どんな思いを持っているかお話ししたい」と切り出し、次のように語った。
「わたしが歩んできたビル事業の職歴からして、さぞかし皆さんは、三井不動産の保守本流を歩いてきた男だろうと思われるかもしれないが、実際は、来春で丸40年の会社人生を迎える中で、日本橋本社勤務は2009年からの10数年のみ。それまでの長い間は支店や出向などを繰り返し、外からの目線で三井不動産という興味深い企業グループを見つめてきた。
最初の配属先は、今では百数十人の規模になっている横浜支店だが、当時の横浜事業課はわずか4人のスタートだった。今では清算されて存在しない、6年半勤務した三井不動産ファイナンス時代では、バブル崩壊後の不良債権処理に取り組んできた。毎日が砂を噛むような厳しい仕事だった。10年以上勤務した三井不動産投資顧問は金融危機の直後で、リートなどの証券化ビジネスを立ち上げた。
これらの勤務を通じ、今ではなかなか経験ではないディープで濃厚・濃密な会社人生を送ってきた。その時々で多くの社内外の方々に助けられながらやりぬいてきた自負がある」と振り返った。
どのような考え方をしているかについては、「大切にしているのは『妄想』『構想』『実現』という言葉。一人ひとりの突拍子もない妄想に大義があれば仲間が集まり構想になり、実現につながるという、この三段論法を自己実現に向けて常に心がけている」と語った。
不動産業のあり方については、「わたしの経験からして、確かにビル、商業施設などハードな建物をつくり、街づくりを行う意味では不動産デベロッパーだが、これらの事業を通じて産業競争力を強くし、発展させるプラットフォーマーであることを考えると、産業デベロッパーではないかと考えている。つまり、不動産や街づくりなどは手段であって、当社の本質は産業デベロッパーでありプラットフォーマーである」と述べた。
さらに、同社のこれまでの事業を紹介し「わたしがライフワークとしているライフサイエンスをはじめ、日本橋には宇宙、スタートアップ企業、アカデミアが集まり、新たなビジネスが生まれている。今後も取り組みを強化し、産業デベロッパーとして企業や社会、それを構成する人々の発展と成長に貢献していく」と述べ、「当社の羅針盤である『ビジョン2025』の次なる発展形をどこかでお話ししたい。産業デベロッパーとしての『妄想』『構想』『実現』にご期待頂きたい」と締めくくった。
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記者は、植田氏から「日々妄想」「産業デベロッパー」「よそ者、馬鹿者になれる」「日本橋をライフサイエンスの聖地にする」「おせっかいな大家」などのフレーズがポンポン飛び出したのに驚きはしたが、同時になるほどとも思った。
まず「妄想」。妄想とは、「広辞苑」(岩波書店)によれば「①〔仏〕(モウゾウとも)みだりなおもい。正しくない想念。徒然草『所願皆-なり』②〔心〕根拠のない主観的な想像や信念。統合失調症などの病的原因によって起こり、事実の経験や論理によっても容易に訂正されることがない。『誇大-』『被害-』『関係-』-・しょう【妄想症】パラノイアに同じ」(広辞苑)とある。
また、「日本国語大辞典」(小学館)には「(-する)ありえないことを、みだりに想像すること。みだらな考えにふけること。また、そのような想像。空想。夢想」とある。
記者もそうだが、読者の方も植田氏の「妄想」を辞書通り受け取ってはいないはずだが、普通ではなさそうなことは分かる。「日本橋をライフサイエンスの聖地にする」という植田氏のビジョンを聞いたとき、菰田社長は「これは大風呂敷ではないか」と疑ったというエピソードを明かしたことからもそのことがうかがい知れる。
つまり、植田氏の妄想とは、常識的な考えからするとありえない空想、絵空事ではあるが、その常識的な考えが間違っていると仮定したら、妄想こそが事実・現実となる。
記者は、この植田氏の話を聞きながらもう20年くらい前、同社の幹部が〝みだり〟に「不動産はソリューションビジネス」と語っていたのを思い出した。つまり、不動産業は課題解決業だと。今流でいえば社会課題解決業だ。
植田氏が「日々妄想」と語ったのは、この考え方と通底する。絶えず不動産業の現実を凝視し、疑ってかかる姿勢を貫いていると理解できる。そのヒントは、前段で紹介した植田氏の発言の中にある。
約40年の職歴の中で、30年弱は外から、そして、その後の十年余は内から三井不動産の事業を見続けてきたということだ。双方から世界を眺めることで、内外に抱えている課題=妄想をたくましくし、構想として練り上げ、実現してきた。この三段論法の正しさを証明して見せたということだろう。菰田社長は植田氏の発想の豊かさ、交渉能力の高さ、粘り強さを絶賛した。
同じようなことを写真家の今森光彦氏が先の積水ハウスのフォーラムで話した。今森氏は写真を撮るときは被写体と距離を置き、冷静な目で俯瞰し、同時に被写体の中に入り込むようにして、中から見える世界を写し取り、自然と人間の関係性を明らかにするのだと。
「産業デベロッパー」という文言は、植田氏が初めて用いたのではないか。一般的には大手デベロッパー=総合デベロッパーとして理解されている。しかし、劇的に変化、多様化する経済・社会では、従来の発想では課題を解決することは難しいと植田氏は強く感じているのではないか。「産業界に入り込まないとじり貧の一途」とも語った。
〝よそ者、馬鹿者〟〝おせっかいな大家〟として産業界にイノベーションを巻き起こす姿勢を植田氏は示した。BtoCはもちろんBtoBへの事業展開が加速度的に進むのではないか。
「日本橋をライフサイエンスの聖地にする」-この「聖地」にはさすがに驚いたのだが、同社が2019年5月に行った「賃貸ラボ&オフィス」事業開始に伴う記者会見で、当時、同社常務執行役員だった植田氏は「この種の事業は欧米ではけた違いの規模で行われているが、わが国には市場そのものがない。具体的な事業規模は現段階で申し上げられないが、マーケットメークし、当社の6番目の新しい事業に育てたい。『コミュニティ』の構築、『場』の整備、『資金』の提供を3本柱とし、わが国がライフサイエンス産業における世界に冠たるアジアナンバーワンの地位を確立することに貢献する」と話している。(植田氏には、当時書いた、小生の妄想でもある「新木場」をライフサイエンス拠点にできないかと質問したかったのだが、その機会はなかった)
意外だったのは、苦い思い出を記者団から質問された植田氏の答えだった。「辛いことはすぐ忘れる」と前置きしながら、三井不動産投資顧問に出向していたときの2001年9月17日、防衛庁檜町庁舎跡地を1,800億円で同社など6社が落札した舞台裏を明かした。
「当時は、金融危機が収束しておらず、お金を集めるのが大変な時期で、何とかタイムリミット直前の6月に2,200億円のファンドを組成することができた。落札日は娘の誕生日なのでよく覚えているのだが、その1週間前には日本ビルファンドの上場(記者は当日初値で株を買った。そこそこ儲かった)があり、大変な9月だった。しかし、ふたを開けたら2番札の入札価格が1,200億円とかなり差があったことから、高値で入札したのではないかと文句も言われた。そのとき仲間で話し合ったのは、僕らいつか『プロジェクトX』に出ようと。テーマは決まっていて『金のないのに入札に臨んだ男たち』。結果としていいプロジェクトになった」
小生は、この落札が決まる半年前、「落札価格は1,850億円」と予想した全10段の記事を書いた。それがほぼ的中して快哉を叫んだのを思い出す(外れたら袋叩きにあっていたか)。資金集めの担当者が苦労していたことなど初めて聞いた。そんなに厳しかったのか。記者の仕事も取材先の中に潜り込まないといけないということか。
三井不動産 植田俊(たかし)専務が社長に 菰田社長は会長へ 岩沙会長は相談役へ(2022/12/9)
様々な目線でかつてない試み実現 東大・藤田誠卓越教授 「三井リンクラボ柏の葉1」(2022/6/22)
住宅不可の151ha〝処女地〟新木場にライフサイエンス拠点 三井不の新事業(2019/6/1)
三井不動産 植田俊(たかし)専務が社長に 菰田社長は会長へ 岩沙会長は相談役へ
植田氏(左)と菰田氏(東京ミッドタウン日比谷で)
三井不動産は12月9日、社長交代、代表取締役の異動について発表。2023年4月1日付で取締役専務執行役員・植田俊(うえだ たかし)氏が代表取締役社長 社長執行役員に、代表取締役社長 社長執行役員・菰田正信氏が代表取締役会長に、代表取締役会長・岩沙弘道氏が取締役にそれぞれ就任する。
岩沙氏は、2023年6月開催予定の株主総会で取締役を退任し、同社相談役に就任する予定。
植田氏は1961年2月生まれ。1983年4月、三井不動産入社。横浜支店事業課、三井不動産ファイナンス、三井投資顧問などを経て、2011年4月、執行役員ビルディング本部副本部長、2015年4月、常務執行役員 ビルディング本部副本部長、2020年6月、取締役 常務執行役員 ビルディング本部長、2021年4月、取締役 専務執行役員(現任)。
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同社は同日、植田氏と菰田氏が出席して、社長交代に関する記者会見を約1時間にわたって行った。両氏からはとても興味深い話・エピソードが飛び出した。詳細は明日以降に紹介します。
富裕層向け、地方展開、JRとの連携に注目 野村不HD 住宅事業ミーティング
「住宅事業スモールミーティング」(新宿野村ビルで)
野村不動産ホールディングスは11月30日、メディア向け「住宅事業スモールミーティング」を実施し、野村不動産取締役兼専務執行役員 住宅事業本部長・中村治彦氏と同社常務執行役員 住宅事業副本部長・吉村哲己氏が最近の住宅市場や同社の事業などについて約1時間半にわたり説明した。
全般的なマンション市場については、民間調査機関のデータを示しながら好調に推移していると話した。野村不動産HDの2023年3月期第2四半期決算でも、分譲住宅の契約戸数は2,446戸(前年同期比+400戸)となり、計上予定売上高2,800億円程度(前期は2,840億円)に対する契約進捗率は93.8%と好調に推移していることを裏付けた。
同社の顧客動向では、首都圏マンション購入者の平均年齢が38.8歳に対し、同社は41.7歳で、世帯年収1,200万円超の世帯が増加傾向にあるとし、とくに「1億円超などの高予算顧客」が増えているとした。1~1.5億円の購入者は、会社員で5割、30・40代で6割、共働きは4割となっており、高額住戸が多い同社2物件でみると7割が駐車場を希望しない「堅実層」が目立つという。
顧客ニーズの傾向では、テレワークの二極化により、「エリア」「駅距離」「広さ」などの趣向性が多様化しているという。
住宅購入マインドは、首都圏の7割が取得に前向きであるとしながら、エリアによっては支払い余力に差が出始めており、注視が必要とした。環境配慮型住宅への意識は8割が持っているが、予算オーバーでも購入する層は約6%にとどまっていると説明した。
今後の展開については、全国で年間4,000~5,000戸供給を継続し、住まいの総合サイトの開設、販売センターの拠点化を進める。来年1月には新宿に販売センターを開設する。
今後の住宅市場動向では、価格動向、建築費動向、金利動向、住宅ローン控除の改正、コロナによるニーズの変化、ライフスタイルの多様化に注目しており、富裕層が増加していることから高額物件専門の部署を設けたことを明らかにした。
脱炭素の取り組みでは、ZEH仕様の「プラウド向ヶ丘遊園」、低炭素住宅認定の「浦安市日の出四丁目Ⅱ計画」などを来年に分譲する。
◇ ◆ ◇
歳をとったせいか、コロナの影響か、どうも最近の小生の記事はキレがなく、冗長・冗漫に流れると自覚しているのだが、その舌の根も乾かぬうちにその愚痴から。
同社のマンションや分譲戸建ては「コープ野村」の時代を含めて40年以上、年間少なくとも10物件は見学してきたのだが、今年は5物件くらいしか見ていない。旧聞のマクロデータを示されたって〝そうなの〟と頷くほかなかった。
やはり〝プラウド〟は他社とどこがどう違うのかをもっと話してほしかった。全館空調「床快Full」と樹脂サッシを採用した「亀戸」は市場を激変させたように、同社のマンションは絶えず市場をリードしてきた。同社もまたメディア向け見学会を頻繁に行ってきたではないか。
まあ、愚痴はこれくらいにして、記者は高額物件専門の部署を新設したことに注目している。野村総研のデータによると、2019年の純金融資産保有額1億円以上5億円未満の世帯は124万世帯で、全体の2.30%を占め、純金融資産保有額5億円の世帯は8.7万世帯で、全体の0.16%となっている。数字は年々上昇している。
2020年以降のデータは示されなかったが、記者は毎年、東京都港区の課税標準額が1億円以上の納税者の推移を調べており、今年度は前年度比241人、23.9%増の1,250人となり、この層の所得割額総額も前年度比65.8%増の約280億円となり、高額納税者数、所得割額とも過去最多だった2020年水準を大幅に更新した。アッパーミドル層も漸増している。
同社は具体的にどの程度の層をターゲットにしているか明らかにしなかったが、記者は坪単価にして1,000万円以上、30坪として3億円以上を視野に入れているのではないかと想像する。高額マンション市場では、同社は三井不動産レジデンシャルや三菱地所レジデンスの後塵を拝している。沓掛英二社長は地団太を踏んでいるのではないか。
もう一つ注目しているのは地方展開だ。同社はこれまで東京圏、関西圏、中部圏を中心に展開してきたが、最近は首都圏に近い政令指定都市や中核都市での供給を増やしており、今期計上予定戸数4,300戸のうち地方は800戸を予定している。同業他社も地方での攻勢を強めているが、同社としては〝プラウド〟のプライドが許さないはずだ。地方でもトップブランドを目指すとみた。
ミーティングで質問することを一つ忘れた。マンションだけでなくオフィス事業などでJR各社とのJVを増やしていることだ。JR各社も鉄道事業が伸び悩むのは間違いなく、今後は社有地の活用や駅ビル再開発など加速させるためにはデベロッパーとの連携は欠かせないはずだ。同社とJR各社の動向に注目したい。
億万長者の人数&所得割額が激増 過去最多 アッパーミドルも漸増 東京都港区(2022/11/26)
天井高2700ミリ 全戸ワイドスパンに高い評価 野村不・JR東日本都市開発「目黒」(2022/7/24)
単価の安さに驚愕 立地よく設備仕様レベル高い 駅圏最大級の野村不他「金沢」287戸(2022/7/30)
街のポテンシャル 劇的に変えた 野村不の商業施設「KAMEIDO CLOCK」4月28日開業(2022/4/26)