昨日(2月19日)は、スタイルアクトの調査による首都圏分譲戸建て市場に関する記事を書いた。住宅着工戸数を上回る戸数が新規発売され、着工戸数を1万戸以上も上回る戸数が成約したなどとする吃驚仰天の記事なのだが、その真偽のほどを確認する材料を記者は持たない。
新型コロナの影響で時間はあるのに分譲戸建ての取材が激減し、どうなっているのかさっぱりわからない記者に、万里の長城のような〝ビッグデータ〟を持ち出されたらぐうの音も出ない。
だが、しかし、各社が発表する決算数値などから市場動向の一端を捉えることはできる。以下、ガリバー企業の飯田グループホールディングスをはじめ供給2位グループのオープンハウス、ケイアイスター不動産、ポラス、さらにはこれら各社とは一線を画す三井不動産、野村不動産の分譲戸建ての動向について書く。スタイルアクトのレポートが事実なら記者は大恥を〝書く〟ことになるが…。
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まず、分譲戸建て市場の30%を占めるガリバー企業・飯田グループホールディングスから。
飯田グループ6社の2020年3月期の戸建事業の売上高は1兆2,159億円で、売上棟数は45,773戸だ。2020年度の分譲戸建ての着工戸数は146,154戸なので、同社のシェアは30.8%にも達する。今期も業績を伸ばしており、土地仕入れ原価、建築費の上昇を価格に転嫁できており、売上高、棟数、利益とも上昇し、課題だった在庫数も減らしている。
同社の最大の強みは47都道府県のうち営業拠点の空白県は鳥取、島根、長崎県のみ(前期は高知、大分、宮崎に進出)という全国展開力と他社を圧倒する価格の安さだ。
価格の安さでは、同社の1戸当たり全国平均価格は2020年3月期で2,650万円だ。エリア別は公表されていないが、首都圏でも3,000~3,500万円くらいではないかと記者は予想する。
どれだけ安いか。仮に建物を30坪としたら飯田グループは坪117万円だ。マンションならどうか。首都圏のどんな山奥でも坪150万円以下は絶無だろうから20坪でも3,000万円、30坪だと4,500万円だ。飯田グループにかなわないことが素人でもわかる。
しかし、一口に分譲戸建てといっても他の商品と同様ピンとキリがある。飯田グループと対極に位置するのが三井不動産(三井不動産レジデンシャル)だ。
同社の2020年3月期の売上戸数は481戸で、1戸当たり価格は6,785万円だ。これには地方物件も含まれるはずで、首都圏に限れば7,000万円を突破するのではないか。つまり、飯田と三井の首都圏戸建て価格は1:2ほどの差がある。
これほど差があるのに、三井不動産は売れていないわけではない。その逆だ。同社は2015年3月期、過去最多の916戸を計上したが、その時の1戸当たり価格は5,425万円だった。その後、戸数を減らしているが、1戸当たりの価格は6年間の間に1,360万円も上昇している。戸数をほぼ半減させながら、売上高は496億円から328億円へと34%減にとどまっている。ここが機を見るに敏な同社のすごいところだ。競争力の強い利益率の高い都心部に注力しているのは間違いない。
それでも売れ行きは好調だ。2020年3月期末では58戸だった完成在庫は2020年12月末で36戸しかない。(飯田グループの2020年3月期末の完成在庫は10,104戸)
他社はどうか。〝東京に、家を持とう〟〝オペンホウセ〟をキャッチフレーズに別表のように驚異的な伸びを見せるオープンハウスは、2021年9月期を初年度とする中期経営計画の中で「行こうぜ1兆!2023」を打ち出し、2023年9月期のグループ売上高1兆円を目標にすると発表した。
大手デベロッパーでも売上1兆円以上は数えるほどしかないのに、1997年創業の、人間でいえばまだ20歳を少し超えたばかりの企業がそれを眼前に掲げるまでに成長したのに驚くほかない。
記者は2012年、荒井正昭社長にインタビューしたことがある。その時、荒井社長は将来の目標について「夢は1兆円といいたいところだが、売上は2,000~3,000億円ぐらいには伸ばしたい。飯田一男さんを見習いたい。不動産会社を興した人で、いまも伸ばしているのは飯田さんとこぐらい。最近、お会いした」と話した。
「飯田一男さん」を知らない人は多いだろうから少し書く。記事も添付したので読んでいただきたい。
飯田一男氏は、飯田グループの核をなす一建設の創業者で、荒井社長と会ったその翌年の2013年12月に亡くなられた。その1か月前には飯田グループホールディングスが設立され、グループ会社の合計売上高は9,075億円だった。
飯田氏には年に1、2度うかがい、「数字だけは教えるが、オレのことや会社のことについて記事にするな。写真はもちろんメモも取るな」「ただで話すのだから新聞購読料をただにしろ」という条件つきで取材し、1時間も2時間も話し込んだ。当時の本社屋は駅から遠く、プレハブ造りでエアコンなどなく、コンクリ床にストーブが1つしかなかった。
荒井社長と飯田氏がどのような話をしたか知らないが、荒井社長はその時から売上1兆円を夢に描いたのは間違いない。荒井氏ほど時代を読む能力の高い人を記者はしらない。
同社の2020年9月期の分譲戸建て計上戸数は2,804戸で、ポラス、アイダ設計、ケイアイスター不動産などを一挙に抜き去った。注目すべきは1戸当たり平均価格が前期比140万円減の4,160万円に抑制できたことだ。比率にすれば3.4%だがこれは大きい。
同じように業績が急伸しているケイアイスター不動産はどうか。同社は2月9日、2021年3月期通期業績予想を上方修正。売上高1,480億円(前期比22.6%増)、経常利益116億円(同83.6%増)、当期利益70億円(同95.3%増)と全段階で過去最高を予想。期末配当も前回予想の44円から95円へ増配すると発表した。
ものすごい数字だ。記者はこの会社が急成長したのは、ポラス出身の専務取締役・瀧口裕一氏と取締役第二分譲事業部長・浅見匡紀氏の功績が大きいと思っている。オープンハウス荒井社長にインタビューした翌年の2013年、瀧口氏にインタビューしている。瀧口氏は2008年1月、同社に請われて入社。いきなり常務取締役に就任した。浅見氏は瀧口氏より2か月後の2008年4月に入社している。お二人の記事も添付したので読んでいただきたい。
同社には大変失礼だが、瀧口氏を最初に取材したときは、本社屋は高崎線の本庄、しかもバス便で、地元や群馬県、栃木県が営業エリアだったので、ポラス商圏では戦えず、せいぜい埼玉県の北西部から群馬県、栃木県のビルダーにとどまるのだろうと思った。とんでもない見込み違い誤算だった。
同社は2015年に東証2部、翌年に東証1部に指定替えとなり、東京本社を設置したあたりから業績が急伸した。2016年は43店舗だったのを今期末には121店舗に拡大する。この間、ローコストの商品開発、FC展開などを矢継ぎ早に打ち出し、M&Aも進めた。現在のグループ販売棟数は4,457棟に達するというではないか。
オープンハウス、ケイアイスターの後発の急襲を受け、売上戸数では瞬く間に抜かれたポラスはどうか。
グループ代表の中内晃次郎氏の本心は分からないが、唯我独尊我が道を行くではないかと思う。上場する気などまったくなく、越谷にある本社から車でスピーディーに駆けつけられる埼玉県・千葉県・東京都の一部エリアのみを商圏とする方針に変わりはないはずだ。
同社の2021年3月期業績予想は、売上高2,300億円(前期比1.9%増)、経常利益170億円(同10.4%増)、純利益47億円(同7.4%増)と過去最高を目指すが、関係者からは〝絶好調〟の声も聞かれる。業績予想を上回る可能性が高いと見た。
デベロッパーでは、野村不動産が2018年に初めて三井不動産を上回る607戸(三井は501戸)を計上したが、その後はやや頭打ちだ。最近は準都心・郊外の大規模から三井不の独壇場だった都心部への攻勢を強めている。
この二強に割って入るデベロッパーはないのか注目しているのだが、いまのところその気配はない。
分譲戸建て市場は、好況と逆行するように首都圏着工戸数は2019年の63,360戸から2020年は54,340戸へと14.2%も減少しており、用地争奪戦が激化していることを裏付けている。これが質の低下につながらないことを願うほかない。
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