フージャースホールディングスの2021年3月期業績予想は、売上高80,000百万円(前期比6.1%減)、営業利益4,200百万円(同37.2%減)、経常利益3,500万円(同36.5%減)、純利益2,400百万円(同766.5%増)で、新型コロナの影響を受けたCCRC事業、不動産投資事業、不動産関連サービス事業などがそのまま数値に反映されそうだが、主力事業であるマンション、戸建て、シニア向けなどの不動産分譲事業が堅調に推移している。第3四半期決算によると、今期引き渡し戸数1,632戸のうち契約済みは1,560戸となっており、進捗率は95.6%に達している。
同社取締役で、分譲事業を担当するフージャースコーポレーション社長・小川栄一氏と同社営業推進部長・友野珠江氏に話を聞いた。テーマは「街の資源と接続」だ。
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-御社のマンションは、自社開発第一号の「デュオ南浦和サザンヒルズ」(2000年分譲)をはじめ、結構これまで見学しております。第一号では収納に工夫を凝らし、ドアノブを壁面まで後退さていたのを見て、リクルートコスモスのいいところを引き継いでいるなと思ったものです。
小川 そうですか。第一号は創業から6年目。マンション販売代理で知見を貯め、廣岡が覚悟を決めて自社開発事業を始めたそうです。他との差別化を図るため、モノづくりや女性目線という特徴をアピールしました。これはきちんとこれからも伝えていかないといけない。
友野 いまあちこちで『女性活躍』と言われておりますが、当社は男女差別などもともとなくフラット。それが当たり前の風土が脈々と引き継がれています。
-その後、御社のマンションは結構見ているんですが、一昨年のシニア向け「デュオセーヌ豊田」の竣工見学会は別にして、2017年分譲のつくはEX柏たなか駅圏の「トレジャーランドプロジェクト(デュオヒルズ・ザ・グラン)」(253戸)を取材し、友野さんにもインタビューして以来、一つも見学していません。
取材したとき、友野さんは「3年間で売る」と仰ったが、わたしは最低5年かかると予想していまして、やはり3年では売れず、友野さんは責任を取らされて異動になったのではないかと、それを聞くのが怖かったんです。ところが御社は昨年12月、分譲事業が極めて好調に推移していると発表し、「柏たなか」もとっくの前に売れたと聞きまして、もう嬉しくなって。それじゃということで、この前は「デュオアベニューつくば吾妻」も観てきました。素晴らしい戸建て住宅地でした。それにしても、苦戦必至の「柏たなか」をよくぞ早期完売されました。女性活躍は、友野さんにインタビューしたときの記事を添付します。全てのデベロッパーの社員に読んでいただきたい。
マンション企画、女性活躍の核心を語る フージャースコーポ・友野珠江部長(2017/4/10)
小川 「柏たなか」は営業がよく頑張って売ったと思います。駅周辺に何もなかったですからね。最初は苦労しました。その後、ぽつぽつと居酒屋などが出来てきて売れましたが…。
「柏たなか」の経験と反省を踏まえて考えたのは、「街の資源と接続」と「強いコンセプトによる差別化」でした。
そのきっかけになったのが、現在分譲中の「デュオヒルズつくばセンチュリー」(229戸)です。土地を買ったとき、タカラレーベンさんが駅から6分の「レーベンつくばCORIS」(330戸)を分譲することになっていました。うちは駅から11分。普通の売り方では勝てない、どうやって販売するか、相当悩みました。
ちょうど敷地の隣につくば市内で一番人気がない、地域の人が〝砂利公園〟と呼ぶ、誰も利用しない水が溜まり、樹木がうっそうと茂った公園があったんです。
-公園隣接マンションはよく売れますが…。
小川 ええ。パークサイドマンションとか。しかし、ここはそうではなかった。これを何とかしようと考えたのです。芝生を張り、樹木を剪定してマウンドと滑り台を造ろうと。市の公園管理課に「公園をいじらしていただきたい」と交渉しました。最初は「何を言っているんですか」と。門前払いでした。
ところが、市の中心市街地の活性化や街づくりなど総合的な企画を考えている部門の方が取り合ってくれたんです。費用も民間が負担してくれるならいいではないかと。ただし、デベロッパーは開発に際して木を伐採してしまうという背景があって、樹木の伐採を一切行わないという条件と共に賛同を得られました。契約書には「市の所有物に芝生を付着することを許可する」と書かれていました。そここまで漕ぎつけるのに1年かかりました。
そして、樹木伐採がだめだから、樹木医の力を借りて樹木剪定を行い、芝生を張り、明るい緑の公園が出来上がったんです。公園利用者のターゲットを小さい子どもを抱えるファミリーに絞り込み、キャッチボールなどをする大きな子どもは他の公園で遊んでくれるように滑り台などにも工夫を凝らしました。こうして行政とマンション居住者、地域の人たちのWin-Winの関係を実現しました。
さらに、子どもが遊ぶのを見守り、休憩するための大人のカフェが必要だと、マンションの1階に市内で指折りの「パン工房クーロンヌ」さんを誘致しました。カフェでコーヒーを飲み、おいしいパンを食べながら、また在宅のパソコンも使える緑の空間を造ろうというストーリーを描きました。駅から11分ではあるが、ファミリーが住む価値をつくり出そうと考えました。
マンション敷地と公園の垣根、フェンスもありません。デッキでつながっています。
また、地域の方たちやNPOとも連携して公園の維持管理もみんなでやろうという現在進行形のingの仕掛けも考えています。芝生の管理を行う芝育チームもその一つで、そのためのユニフォームもつりました。
-なるほど。わたしもつくば市のマンションを取材したとき、人っ子一人いない公園を観ています。利用されない公園はつくば市に限らずたくさんあります。行政は管理することを最優先にして、美しい公園にしようという考えはまったくないように見えます。
「デュオヒルズつくばセンチュリー」に隣接する公園
小川 これから広島の標高70mの比治山に隣接する「デュオヒルズ比治山レジデンス」(110戸)を分譲するんですが、コンセプトは「比治山と暮らそう」です。
この山は〝広島の守り神〟と呼ばれておりまして、現在は広島市現代美術館があり桜の名所にもなっている比治山公園になっています。
これもingなんですが、地域不動産会社や地域NPOと一緒になって公園の維持活動を行おうと考えています。
もう一つ。郊外部のプロジェクトで桜並木と川をコンセプトに組み込んで、休日は子どもとサイクリングしよう、自転車に乗ろうと、エントランスや共用施設に工夫を凝らしています。
つくばの公園も広島の比治山も、郊外部の川もマンションの外ですが、この外にある街の資源とマンションの商品企画を接続して絡め合わせれば、そこにしかない価値を造れるんではないかと。これを今後全面展開しようと考えています。「柏たなか」の反省とはこれです。「柏たなか」は〝街が変わる〟をプロモーションに掲げましたが、街はなかなか変わってくれなかった。
暗中模索で始め、もがいてもがいて積み上げてできた「つくば」を経験し、一山超えたような気がしています。
-思い出しました。東京都には民設公園制度があり、東京建物と西武不動産が東村山市の萩山でその制度を利用した第1号マンションを10年以上前に建設しました。しかし、その後、この制度は全然使われていません。公園とマンションなど民有地との間のフェンスをなくした例というのは非常に珍しいケースだと思います。公園に柵が張り巡らされ、檻の中で子ども遊んでいるような現場も見ました。渋谷区はメディアが報道のために公園の写真を撮るのも許可が必要です。
都の民設公園第1号「萩山 四季の森公園」開園祭り(2009/10/5)
公園を所有するマンション 東建・西武「Brillia L-Sio 萩山」(2008/5/26)
「デュオヒルズつくばセンチュリー」に隣接する公園
「デュオヒルズつくばセンチュリー」に隣接する公園のデッキ
友野 街と接続することを可能にしたことは、デベロッパーの概念を変え、境界を広げることにつながるのではないかと。商品企画も仕入れも建築も一体となって取り組んでいこうと考えています。
小川 マンションの広告も、建物や間取りではなく、公園や山や川などとつながった生活シーンが連想できるようなものにできないかと。
-広告? 広告といえば、飯田グループホールディングスの「好立地」というタイトルの企業広告には、わたしか住む多摩センターの多摩中央公園が何のクレジットもキャプションもなく紹介されています。市役所に聞いたんです。どうして中央公園の写真を使わせるのかと。答えは、お金を出せば商業目的に使用できるというものでした。さっき話しましたが、渋谷区はかなり厳しいのに多摩市は簡単。バラバラです。ひどいもんです。
小川 友野 …
-ぜひ、やってください。〝当社は公園の維持管理に関わっています〟などのクレジットを付ければ可能じゃないですか。
友野 デベロッパー各社は建物を大きく見せるとか、特定の季節感だけを強調したり、押しつけがましい広告がいまだに多いですが、人間の目線でこうした暮らしをしたいとか、自分がその中にいるような気持ちになれるシーンを伝えられないかと。共感力ですね。土地に敬意を払わないものは社会的な支持を得られなくなると思っています。これが課題ですね。
-御社は売上的には分譲事業が5割くらいですが、今後はどう考えているのですか。
小川 財閥系でもパワービルダーでもない当社の未来について廣岡と話し合ったんです。廣岡は学生のころ、森ビルのアークヒルズをみて感動し、そのような再開発を夢見たそうです。当社も現在の財政力なら大規模再開発を1つくらいできるかもしれないが、それって楽しいだろうかと。楽しくないんじゃないかと。アークヒルズと比べれば小規模かもしれないが、マンションをつくって、周辺の街の価値を少しでも向上させる、そのほうが俺らに向いているのではないかと。住宅をつくり街の価値を向上させることはSDGsにも結果的につながっていく。われわれの会社の立ち位置はここにあるんではないかと。
いま新中計を策定中ですが、当社グループが目指している次のステージは本業回帰ではないかと考えています。これまでの5年間は、マンションは縮小産業だから次は何だとホテル、スポーツ、海外、生活関連事業などを模索しながら展開してきました。振り返ってみると当社の分譲事業はやはり強い、ボラティリティがないとわかったんです。〝分譲のフージャース〟というファクトは伝えやすいと。
アメリカやアジアでの自社開発は見極めている段階ですが、戸建てやシニア向けも含めた分譲住宅事業で必要利益を出そうと考えています。分譲事業で一定利益を確保して、そのうえで+αとして他の事業を展開しようという方向です。
「わたしの好きなものではなく、お客さまの好きなものを造ってくれ」と廣岡は言っています。社長の顔色を窺い、よくわからない社長の趣味に合うものなど誰もつれません。しかし、顧客のニーズは科学で解き明かすことができるんです。
-ありがとうございました。「つくば」はぜひ見学させてください。
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小川氏プロフィール 1964年生まれ。桐朋高-明治大学卒。1988年4月、コスモスイニシア(当時リクルートコスモス)入社。2001年7月、フージャースコーポレーション入社。2002年2月、同社取締役、2017年6月、同社社長(現職)、2019年5月、フージャースホールディングス取締役(現職)。
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【編集後記】 小川社長と友野部長と1時間以上にわたり話しあった。「街の資源と接続」するコンセプトに同感だ。デベロッパーは〝ここに住めばこうした生活ができる〟ということを分かりやすく伝えないといけない。単に価格が安いとか駅に近いというだけではユーザーの心に響かない。
つくば市の誰も利用しない公園を再生し、マンション居住者や地域とつなげる活動は刮目に値する。公園との柵を取っ払った事例などないはずだ。都市公園のあり方、指定管理者制度の方向性に示唆を与えるものだ。
同社の販売力と商品企画について補足する。「柏たなか」を3年間で売り切った販売力は、2008年のリーマン・ショックのとき「グランドホライゾン・トーキョーベイ」686戸の販売を受託し、早期完売したことで証明されている。
小川氏は「当社はコスモスイニシアと似て非なるもの」とも話した。〝頭脳〟も〝足腰〟も誰にも負けないことを言いたかったのだろう。
「COCOSUMA」「COCO COMMU」を代表する商品企画では、記者が強烈な印象として残っているのは、京王線中河原駅からかなり遠い坪単価138万円の「デュオヒルズ府中多摩川」(187戸)に食洗機を標準装備したことだ。普通のデベロッパーなら価格を抑えるため真っ先に削るはずだ。「忙しい共働きの主婦(あるいは主夫)にとって食洗機は必需品」という認識は記者と一緒だった。
冒頭に書いたように、同社は2021年3月期第3四半期決算の段階で、引き渡し戸数1,632戸のうち契約済みは1,560戸で、進捗率は95.6%に達したと発表した。駅近など売りやすい物件はほとんどないはずだ。むしろ逆だ。
同じようなデベロッパーでは、大和地所レジデンスが2021年3月期完成マンション898戸を全て期末までに契約したと発表した-なぜそのような芸当ができるか、じっくり考える必要がある。小川社長は「顧客ニーズは科学」と話した。ここにヒントがあるような気がする。
フージャースHD シニア向け「デュオセーヌ豊田」竣工 半分強が契約済み(2019/8/7)
米・クレセント社の日本初「グランドホライゾン・トーキョーベイ」(2008/2/15)
駅から7分で敷地60坪 素晴らしい フージャース「つくば吾妻」82区画 完売(2021/3/25)