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2021/07/05(月) 18:48

消費者に分かりづらい長期優良住宅 見直しへ 住宅性能表示と一体化すべき

投稿者:  牧田司

 国土交通省は6月29日、第1回「長期優良住宅認定基準の見直しに関する検討会」(座長:松村秀一・東京大学大学院工学系研究科特任教授)を開催した。令和3年5月に「住宅の質の向上及び円滑な取引環境の整備のための長期優良住宅の普及の促進に関する法律等の一部を改正する法律」が成立・公布されたことを受け、長期優良住宅認定制度に新たに創設される災害配慮基準や共同住宅での認定促進、脱炭素社会に向けた省エネ対策の強化に係る認定基準の見直しなどについて議論するのが目的だ。

 先に報告された「長期優良住宅制度のあり方に関する検討会」(同)最終とりまとめでは、平成21年6月に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(長期優良住宅法)による累計認定戸数は約102万戸(平成30度末時点)にのぼり、良質な住宅の供給に一定程度貢献しているとしながらも、消費者への意識向上につながっているかどうかは住宅事業者間で評価が分かれ、①共同住宅の認定がほとんど進んでいない②住宅性能表示制度と重複する評価項目が多いにも関わらず、別の制度であるために申請者の負担が大きい③建設コストが通常より高くなるにも関わらず、流通市場では認定制度はあまり評価されない④税制優遇などのインセンティブは10年後になくなり、増改築認定の場合は当初からインセンティブがほとんどない⑤賃貸住宅の認定実績がない⑥地価が高い都市部では規模の基準が厳しすぎる-などの課題も指摘されている。

 「見直し検討会」は、これら「あり方検討会」が指摘した課題に基づいて、具体的な見直し案をまとめることになる。

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 記者は、「あり方検討会」で各委員が指摘した「容積率等の緩和の可能性も検討することが望ましい」「長期優良住宅と住宅性能評価の仕組み自体をなるべく整合できるような形にしたほうがいいのではないか」などの声に賛成だ。

 制度・モノサシが異なるといってしまえばそれまでだが、住宅性能評価制度と長期優良住宅制度は分かりづらい。

 令和2年度の住宅着工戸数に占める住宅性能評価書交付件数は27.9%の約24.5万件で、長期優良住宅認定件数は12.5%の約10.1万戸しかないのは、消費者にとって分かりづらいのが最大の理由だと考えている。以下、まとまりを欠くが、記者なりの考えを紹介する。

 住宅性能表示は、2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づき10分野・34事項について等級表示することで消費者が住宅の品質を理解しやすいように定めた制度だ。紛争処理体制を整え、消費者保護を図り、住宅ローンの優遇が受けられるという目的には賛成だが、当初からずっと腑に落ちないものを感じていた。

 国土交通省のガイドラインには「建築基準法で定める基準を下回る住宅については違法と考えられますので、住宅性能評価書を交付することはできません」とある。

 当然のことだ。しかし、逆に考えれば、建基法をクリアすれば「等級1」を取得できる。これは〝違法建築ではありません〟と消費者自らか費用(数万円から20万円と言われている)を払っているようなものだ。そうまでしないと、消費者に信用されない業界は情けないと思った。(それでも違法建築は防げなかった)

 言い過ぎかもしれないが、住宅性能表示制度はお上がお墨付きを与えることで、建基法を満たしているに過ぎない住宅でも質の高い住宅であるかのような〝誤認〟を消費者に与えたという疑念をずっと抱いてきた。

 長期優良住宅制度も同様だ。全然〝優良〟でないのに「優良」のお墨付きを与えた旧住宅金融公庫時代の「優良(中古)マンション」制度と大差ないといったらこれまた失礼か。

 この制度の欠点を一つ指摘する。記者は住宅の価値は緑被率など緑環境や地域との親和性が重要だと考えている。長期優良住宅制度の9項目の評価基準の中に「良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持及び向上に配慮されたものであること」とする「居住環境」がある。これは所管行政庁が審査することになっており、各行政庁が定める地区計画、景観条例などに適合させることが求められている。

 これまた当たり前のことだ。しかし、地区計画、景観条例などは最低限の条件を定めたものが多く、「長期優良」にふさわしいかどうかは別問題だ。記者は、プレハブ建築協会が取り組んでいる「エコアクション」を高く評価しているが、それでも緑化面積率40%以上を目標にした建売住宅の供給率は2019年度実績で14.5%(前年比7.6ポイントマイナス)しかなく、2020年度目標の50%にはるかに及ばない。

 大手ハスウメーカーですらこれが現状だ。建売住宅大手も含めた戸建てはコンクリで地面が固められたぺんぺん草も生えない住宅地がどんどん広がっている。この流れを変えるためにも長期優良住宅にふさわしい独自の指標を設けるべきだ。

 住宅の質を計るモノサシは住宅性能表示制度、長期優良住宅制度だけではない。2001年に立ち上げたCASBEE、2012年運用開始の低炭素建築物認定制度、2013年運用開始の建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)、2016年ころから取り組みが始まったZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などだ。最近はZEHに力を入れているハウスメーカー・デベロッパーが多い。

 この中で、記者はCASBEEとZEHをチェックするようにしている。CASBEEは評価結果を「Sランク(素晴らしい)」から「Aランク(大変良い)」「B+ランク(良い)」「B-ランク(やや劣る)」「Cランク(劣る)」の5段階で評価するもので分かりやすい。東京都の場合は、同様の「マンション環境性能評価」制度を平成17年に設け、断熱性、省エネ性、みどり環境など5項目についてそれぞれ★印3つ(満点は★15個)で評価している。これまで満点を取得したマンションはどれも素晴らしい物件だ。

 ZEHは、国土交通省、通産省、環境省など別々の取り組みもあり分かりづらいところもあるが、目指す目標は一つなのでとても分かりやすい。

 これらの制度と住宅性能表示、長期優良住宅は相互に関連していることではあるが、消費者は混乱するばかりだ。

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 事業者は住宅性能表示制度と長期優良住宅をどのように利活用しているか。事業者のスタンスの置き方、制度の方向性を考えるうえで参考になりそうなので紹介する。

 2021年3月期は46,620戸の戸建てを計上した飯田グループ6社は、住宅性能表示制度7項目で全て最高等級を取得しており、それを最大の〝売り〟の一つにしている。一方で、長期優良住宅認定は東栄住宅(2021年3月期は4,954戸)一社のみのはずだ。

 住宅トップの積水ハウスは、2019年度の長期優良住宅認定取得率は93%だが、同社は最近ZEHに力を入れており、2020年度のZEH比率が91%に達し、2021年3月末時点で累計60,843戸となったと発表した。

 デベロッパーはどうか。三井不動産レジデンシャルは、長期優良住宅認定を取得したマンションは数件あるが、年間数百戸をコンスタントに分譲している戸建てで長期優良住宅認定を受けたのは1件しかない。その理由を同社は「ファインコートの仕様から馴染まないところがいくつかあり、評価をクリアできないのと、維持保全計画は、建売住宅には馴染まない」としている。

 では、同社の戸建てのレベルが低いかといえばそうではない。記事にも添付したが、2016年に分譲した首都圏初の〝ススマートウェルネス住宅〟「ファインコート等々力 桜景邸」などは長期優良住宅レベルをはるかに超えていた。

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 「見直し検討会」に提出された出口健敬委員(不動産協会事務局長代理)と西澤哲郎委員(住宅生産団体連合会 住宅性能向上委員会SWG1リーダー)の資料について。

 出口委員は、集合住宅の現行55㎡の面積要件を単身者の都市居住型誘導居住水準である40㎡に引き下げることを要望している。記者はこれに賛成だ。

 住宅の質は基本的には広さではあるが、そもそも面積要件は官主導の住宅金融や税金控除などにはつきものだ。どこかで線を引かざるを得ないのだろうが、合理的な説明がつかないものは多い。記者はローン控除の面積要件を30㎡に引き下げろと20年前から主張してきた。

 西澤委員が要望した低層賃貸住宅の可変性に関する認定基準である躯体天井高2,650ミリ以上の基準の緩和には同意しかねる。技術的なことは分からないが、天井高は住宅の質にとって重要だ。最近はコストを削減するためどんどん天井高を低くしているのは残念でならない。賃貸住宅でも躯体天井高2,650ミリというのは譲れないラインではないのか。

 この点については、先の出口委員も20mの高さ規制を想定した場合「居室天井高2.45~2.5mを保持しようとすると、1層(階)減り、分譲売上の低下を招き、事業の起点である土地購入の難度が上がります」としているが、これは5m刻みが多い高さ規制に問題がある。1層を3mではなく、3.1とか3.2m刻みにすれば天井高は確保されるはずだ。長期優良など天井高の高いものについては容積の割り増しを行い、質の担保を図るのが合理的だと考える。記者は高さ規制を撤廃すべきというのが持論だ。

 また、西澤委員が求めている床面積要因を55㎡以上(現行75㎡以上)に引き下げるというのは基本的には賛成だ。理由は出口委員の要望について書いたのと同じだ。

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 住宅性能表示と長期優良住宅の申請に掛かる費用は1件5~10万円として、双方で年間35万件だから5~10万円×35万件=175~350億円となる。もちろん負担するのは他の誰でもない消費者だ。ローン控除などで還元されるとはいえ巨額だ。

 長期優良住宅制度の合理化を図り、ハードルを高くして事業者や消費者がチャレンジしたくなるような制度にするか、それともCASBEEのようにランク付けして選択制にしたらいいと思うのだが、どうだろうか。

なぜ伸びない品確法性能表示&長期優良住宅 どうなる中古住宅評価(2015/9/4)

長期優良住宅が「CASBEE」で評価されないのはなぜ(2013/6/13)

敷地60㎡未満の分譲「狭小住宅」 都心部は軒並み50%超 最少の練馬は1.9%(2019/8/19)

首都圏初の〝ススマートウェルネス住宅〟完成 三井不レジ「等々力」(2016/3/24)

 

 

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