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2023/05/02(火) 12:16

初めて見た30%・50%×200㎡の分譲戸建て まるで別荘 ポラス「柏 逆井」

投稿者:  牧田司

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「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」(緑は地役権設定エリア)

 ポラスグループのポラスガーデンヒルズは5月1日、千葉県柏市の分譲戸建て「NOEN KASHIWA SAKASAI-ノエン柏 逆井-」のメディア向け現場見学会を行った。建ぺい率30%、容積率50%の第一種低層住居専用地域(以下30・50%)に位置する全8棟。敷地内に数十種、約200本の中高木を植樹し、全戸とも敷地面積を200㎡とし、住戸間のフェンスを最低限に抑え、歩道空間に地役権を設定することで回遊性を高めたランドスケープデザインが抜群。これまで45年以上分譲戸建てを見学・取材してきたが、このような物件は見たことがない。

 物件は、東武アーバンパークライン逆井駅から徒歩7分、柏市逆井5丁目の第一種低層住居専用地域(建ぺい率30%、容積率50%)に位置する全8棟。土地面積は200.05~230.14㎡、建物面積は94.14~100.19㎡、価格は4,080万~4,480万円。建物は在来工法2階建て。全棟完成済み。引き渡し予定は5月15日。昨年9月に分譲開始し、今年3月までに完売している。

 YKK APとパートナーを組み、地役権を設定することで共用の緑地空間をつくり出し、木々に囲まれた居場所や住民同士の交流の場を提供しているのが特徴。当初計画では、前面道路幅(幅員5m)が狭く、車の入れ替えが大変で、敷地延長部分の有効活用が難しく、住民同士のコミュニケーションがとりにくいなどの難点を抱えていたのを、駐車スペースを道路側に寄せることで2台並列駐車を可能にし、建物を敷地から1m以上セットバックさせ、境界ブロック、フェンスを最小限に抑え、「くつろぎの縁」「広縁」を設けることで住民同士のコミュニケーションの醸成を図ったプランに変更した。

 敷地内には数十種、約200本の中高木を植樹し、保水性の高いインタロッキング・敷石、ベンチ、散策の道などを設置。各住戸には土間、ウッドデッキ、DEN、ガビオン、立水栓、雨水タンクなどを設けることで、家の内と外のつながりを演出している。

 見学会に出席した各氏は次のように語った。(発言順)

 同社設計部部長・松井孝治氏 YKK APさんとは5年以上前から事業パートナーに加わっていただいており、今回はグリーンクリエイターの小西範揚さんにも企画に参画していただき、当社スタッフと一緒になって建物とエクステリア・外構を一体としたランドスケープストーリーを描いた。購入者は地元と都内の方が半々。青田売りでも早期完売できたのは、立地特性にあった企画が奏功したからだと考えている

 同社ガーデンヒルズ事業部ウッドガーデン事業所用地開発課課長・高島彰氏 用地は6年前、地元の不動産会社から地主さんの相続がらみで取得の打診があったが、建ぺい率30%、容積率50%では事業的に難しいと判断し取得を断念した。コロナ禍で市場が盛り上がったので〝今なら買える〟と取得を決意した。当初は5区画だったが、その後、2人の地主さんからなる隣接土地も取得できたので、当初5区画から全8区画となった

 同社ガーデンヒルズ事業部設計部企画設計課課長・工藤政希氏 建物の内と外、表と裏の空間を設計に取り込み、歩車分離、地役権の設定、南ひな壇設計、白が基調の外観、2.4mサッシ高などを採用したことで、緑豊かな空間でのんびり暮らせるイメージを表現できた。上司から〝面白いではないか〟と背中を押してもらったのも励みになった。樹木の維持・管理は、当社の供給事例からして負担は重くないことが分かっているが、ワークショップを行ってさらに居住者の負担を軽くしていきたい

 YKK APエクステリア本部クリエイティブデザインLAB統括部長・粟井琢美氏 〝モノからコト〟へ領域を広げるのがわれわれのミッション。建物が完成してからでなく、最初の段階から(ポラスさんと)一緒に考えたのがプロジェクトを成功に導いた大きな要因。無駄な空間など一つもない。余分な空間をみつけて指摘していただきたい(問いかけに答えるのが礼儀だと考え、粗探しをしようと思ったが、時間が足りなかった)

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電線は一部地中化している

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回遊歩道空間(右の建物は一部平屋としている)

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舗装は保水性の高いインターロッキング

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ガビオン(じゃかご)

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左から工藤氏、松井氏、高島氏、粟井氏(4人とも今年の○○賞を総なめすることを確信しているようだった)

◇        ◆     ◇

 同社から取材の案内が届いたのは2週間前だ。取材日は記事にもした豊四季の「体感すまいパーク柏」は3月28日、今回の逆井の「ノエン柏 逆井」は5月1日とあった。それぞれ往復の交通時間だけでも4時間、2日で8時間だ。なにも生産しない、お金だけがかかる休憩・食事時間を含めたら10時間以上だ。そんな時間とお金をかける価値がある施設・物件なのか、消費時間・金額に見合う記事が書けるのかと疑問に思い、スルーすることも考えた。

 しかし、パスしたら現場主義を貫く記者の沽券にかかわる。新しい発見もあるかもしれないと応じることにした。

 「体感すまいパーク柏」は素晴らしい施設で、それにふさわしい記事も書けた。目的の半分は達成された。無駄足ではなかった。(記事参照)

 そして今回。逆井駅に着いて、一服しようと喫茶店を探したが1軒もない。豊四季と同じだった。仕方なく、道々タバコを吸い、草花を摘みながら価格を予想した。現地までは立派な戸建ても建ってはいたが、畑・荒地などもかなりあり、田舎の調整区域そのものだ。並みの敷地30坪、建物30坪だったら3,000万円で売れるかどうかだろうとはじいた。

 ところが、あにはからんや。現地を見て、飛び上がらんばかりの衝撃を受けた。記者は45年以上分譲戸建てを見学している。バブルがはじける前までは素晴らしい分譲戸建てを見学しているが、バブル崩壊後は、一部のデベロッパー、ハウスメーカーを除き、価格ありきの土地が30坪程度の都市型戸建てが主流を占め、敷地にはぺんぺん草も生えないコンクリで固めた狭小住宅が市場を席巻している。

 「ノエン柏 逆井」はそれらの分譲戸建てとは似て非なるものだった。例えていえば別荘、林間住宅だ。こんな分譲戸建てを過去に見たことがあるか、記憶を総動員させた。真っ先に思い出したのは宮脇檀が設計した「高幡鹿島台ガーデン54」で、それに近いものでは積水ハウス「コモアしおつ」「コモンシティ伊奈学園都市」、タカラレーベン「レーベンプラッツ大泉学園」…などだが、それらとはまた異なるという結論に達した。

 何が凄いかといえば、圧倒的な緑の量と質だ。積水ハウスの「5本の樹計画」も素晴らしいが、「ノエン柏 逆井」は1戸当たりに換算すると約25本だ。かつて敷地はブルーベリーの農園だったそうで、その記憶をとどめるようにブルーベリーも植えられていた。(配布された資料にはどこにどのような樹木が植えられているか図示されているのだが、字が小さくて一つも読めない。主だった樹木には名札を付けるべきだ)

 もう一つは、地役権を設定し、全8棟の庭・歩道空間を回遊できるよう、コストダウンにもつながる住戸間のフェンス、土留めブロックなどを最小限に抑えていることだ。地役権を設定したこの種の戸建てを同社グループは結構分譲しているが、何しろ今回は敷地が200㎡だ。スケールが異なる。先に別荘、林間住宅と書いたのは大げさな表現ではない。8棟のうち敷地延長住宅は5棟あるが、それが販売面で難点になりそうな住宅は1戸もない。回遊空間は風通しを良くするための建物の形状(平屋)を変え、それぞれの住戸間の〝お見合い〟を避けるため配置を変え、室内から樹木や子どもが遊んでいる様子が分かるように窓にも工夫を凝らしている。心憎い気づかいだ。

 細かいことだが、ガビオン(じゃかご)が多用されているのもいい。土が紛れ込むことで草花が生え、いろいろな生物が生息するようになるはずだ。生物多様性にも配慮しているのがとてもいい。

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右の花瓶の花は記者が摘んだもの

◇        ◆     ◇

 冒頭に「このような物件は見たことがない」と書いたが、同社を始めどこのデベロッパーもハウスメーカーもこのような戸建てを手掛けていないのではないか。

 根拠は示せないのだが、そもそも30・50%の用途地域を指定している自治体などあるのだろうかというのがその理由だ。記者の知る限り、隈研吾氏の設計による建ぺい率40%、容積率60%の「プロスタイル札幌 宮の森」が分譲住宅としてはもっとも厳しいエリアに立地しており、用途指定では田園調布、横浜山手町、芦屋市・六麓荘は建ぺい率40%、容積率80%だ。

 国土交通省に30・50%の用途地域を定めているところは全国にあるか聞いたが、「把握していない。各自治体に聞いてもらうしかない」という回答だった。

 そこで、柏市に聞いた。市内で唯一30・50%となっているのが、今回の物件が位置する逆井5丁目エリアだ。市の担当者によると、昭和48年、区画整理事業を予定していた逆井5丁目の調整区域を30・50%と暫定指定したが、地権者の同意が得られず区画整理事業はとん挫、そのまま30・50%の指定のみが残ったという。近隣の区画整理事業地は建ぺい率50%、容積率100%に指定されている。

 ポラスにも30・50%地域で分譲した事例はあるか聞いた。広報は「調べてみないと分からない」とのことだった。同社の調整区域開発の「ハナミズキ春日部・藤塚」(22戸)は建ぺい率60%、容積率200%だ。30・50%開発は今回が初めてのはずだ。同社が本拠とする埼玉県は、第1・2種住居専用地域は全用途の18.1%しかない(東京都は37.4%、千葉県は31.4%、神奈川県は31.0%)。

 後日、工藤氏からメールが届いた。同社はかつて、同じ逆井エリアと千葉県鎌ケ谷市の30・50%地域で分譲事例があるという。また、東京都羽村市にも30・50%地域があると教えられた。確認した。その通りだった。工藤氏はただものではない。どうして調べたのか。

 それにしても、2日間で往復10時間(取材時間を含めれば15時間)かけた甲斐があったということだ。企画によっては、見向きもされない土地に光を当て活性化させるヒントがここにある。価値のある記事かどうかは読者の皆さんが評価することだ。

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外の借景を取り込む窓(サッシはYKK APの樹脂サッシ)

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ドアはドアノブを含めて白で統一(デザインが美しい)

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工藤氏から送られてきた鎌ヶ谷市の都計図

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