井戸氏
野村不動産は5月30日、「物流事業戦略発表会」を開催し、今後3年間で15棟・延床面積約130万㎡・投資額約3,000億円の事業化を決定したと発表した。累計では運用棟数60棟・延床面積約365万㎡・投資額8,000億円になる見込み。
日本国内のEC市場規模は令和5年で24.8兆円(前年比9.23%増)と増加を続けている一方、運送事業者における時間外労働の上限規制による「2024年問題」や、物流施設での商品包装・仕分け・検品などに従事する様々な労働力不足が深刻化しており、今後具体的な対応をしない場合、新型コロナウイルス感染症拡大以前の2019年度の貨物輸送量等と比較し、2030年度には約34%不足する可能性があると言われている。
同社は、物流業界が直面している様々な課題に対して、首都圏以外のエリアでも物流施設を開発することによる長距離配送の中継輸送への対応や倉庫内自動オペレーションの最適化を目指した「Techrum(テクラム)」の取り組み、冷凍冷蔵倉庫の開発、地域コミュニティ活動の促進に寄与する活動も積極的に行っていくとしている。
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記者は、これまで物流事業を取材したのは大和ハウス工業と三井不動産くらいで、野村不動産が2006年に「Landport厚木」を竣工してから現在まで45棟、約70万坪の実績を積み上げてきたことなど全然知らなかった。
興味がないからでもあるが、この業界については、のどに小骨が刺さっている気がかりなことが一つある。「物流」は「嫌悪施設」か否かだ。今から7年前の2018年5月、当時、三井不動産の常務執行役員ロジスティクス本部長・三木孝行氏(58)が記者発表会で「もはや、(当社は)後発ではない。(物流施設は)嫌悪施設ではない」とぶち上げたのがきっかけだった。これには衝撃を受けた。
それまで記者は、物流施設は建築基準法では「倉庫」に該当し、住居系用途地域では建築不可なので、「嫌悪施設」だと理解していた。ただ、「嫌悪施設」そのものは法律用語ではないことも知っていた。建基法にも都市計画法にもそのような規定・文言は一つもない。「嫌悪施設」は、不動産流通促進センターが不動産取引に当たって、消費者などとのトラブルを避けるため、倉庫などを「嫌悪施設」と例示し、きちんと説明することを求めているものだ。なので、三木氏が「物流施設は嫌悪施設ではない」と話したのに衝撃を受けた。驚いたのは記者だけではなく、業界関係者もそうなのか、記事に対するアクセス数は約4,000件に達した。
考えてみれば、物流施設で働く人はいわゆるエッセンシャルワーカーだ。建築規制があるからといって何の根拠も示さず「嫌悪施設」と決めつけるのは気の毒だ。
そこで、この日(30日)、会見に臨んだ同社常務執行役員都市開発第二事業本部長・井戸規昭氏らに三木氏の発言を紹介し、「野村さんのこれまでの45施設は嫌悪施設か。そうでないのなら、業界あげて実態調査を行い、きちんと消費者に伝えるべきではないか」と質問した。
これに対して井戸氏は「ここに出席している3人は物流施設が嫌悪施設だとは全く思っていない。物流あってこそお客様に荷物が届けられる。重要な社会インフラの一つ。不動産協会にも物流事業委員会(平成30年度設置)があり、横とのつながりもある。業界全体として地域貢献をアピールし、盛り上げていく」と話した。
ぜひそうしていただきたい。ただ、「横とのつながり」にはやや引っかかるものがある。不動産協会には物流事業を手掛けるデベロッパーはほとんど加入しているはずでまとまるのは早いだろうが、〝アナログ業界〟の代表と言われる業界全体との連携は進むのか。
国土交通省によると、物流の関連団体は日本物流団体連合会、日本倉庫協会、日本ロジスティクスシステム協会、利用運送振興会、航空貨物運送協会、日本インターナショナルフレイトフォワーダーズ協会、全国通運連盟、日本冷蔵倉庫協会、全日本トラック協会…市場規模が大きいから当然ではあるが、住宅・不動産関連団体(かなりある)のそれとは比べものにならない。
最大の業界団体と思われる日本倉庫協会の設立は昭和23年4月で、会員数は3,500社もあるようだ。一方で、日本物流団体連合会の設立は平成3年7月で、企業会員は78社、団体会員は14団体。これらの会員の中には記者もよく知っている既存の大手倉庫会社が名を連ねているが、デベロッパーの名は一つもない。これはなぜか。業界団体同士で縄張りを争う時代ではないはずだ。今度機会があったら聞いてみよう。
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