分譲地街並み(左)と1号棟リビング
ポラスグループ中央住宅は9月18日、「ことのは 越ヶ谷~蔵のある街づくりプロジェクト~」の第2弾の分譲戸建て4棟のメディア向け見学会を行った。価格は8,000万円前後で、〝唯一無二〟の和テイスト・和モダンを演出したもので、隣には同社が耐震補強を施し、越谷市に寄付した江戸末期に建設されたという「蔵」が建っている。街づくり・和テイストで括ればポラスの最高傑作だと思う。
プロジェクトがスタートしたのは2013年。同社は蔵を含む土地・建物を地主から購入し、蔵は壊して全て分譲戸建てにかる予定だったが、「歴史的建造物の蔵を壊すのはあまりにも無神経。地域の方々と協議を重ね、蔵や古材、灯籠なども残してプロジェクトに賛同していただける人に分譲することに決めた」(品川典久社長=当時)。当初はコーポラティブ住宅として分譲する意向だったが、買い手が現れず、蔵は耐震補強を施し、曳家の手法で現在地に移し、第1弾として2017年に戸建て4戸を分譲した。
今回はその第2弾。分譲地の東側は幅員7.9mの旧日光街道に、北側は幅員6mの公道に接道。景観協定を締結し、1・2号棟と3・4号棟の間に設けた幅4m、長さ約20mの共有地(地役権設定)には、従前敷地内にあった敷石を再利用し、東屋風のスペースを設け、居住者同士のコミュニティの醸成を図っている。この他、各住戸には従前の古民家に使用されていた瓦、欄間、構造材、梁などをインテリアとして取り込んでいる。
物件は、東武スカイツリーライン越谷駅から徒歩6分、越谷市越ヶ谷3丁目の近隣商業地域に位置する全4戸。土地面積は109.77~151.90㎡、建物面積は99.77~145.94㎡、価格は7,780万~8,480万円。構造はツーバイフォー工法2階建て・3階建て。引き渡し予定は2025年11月中旬。
6月27日から広告を開始し、これまで37組の来場があり、うち市外居住者は18組。1棟は契約済み。街づくりや長期優良住宅認定が高い評価を受けているという。
1号棟は「坪庭のある家」、2号棟は「縁側のある家」、3号棟は「土間のある家」、4号棟は「掘り炬燵のある家」とし特徴を持たせるとともに、旧日光街道に面した3号棟と4号棟は3階建てにし、用途地域が近隣商業地域であることから、多目的に利用できるテラス・土間・フリースペースを1階の道路側に設けているのも特徴の一つ。
見学会で同社戸建分譲設計本部設計二部営業企画設計課課長・池ノ谷崇行氏は「2013年に用地を取得した段階では、敷地内にあった蔵は取り壊して全て分譲することにしていたが、地域文化の価値の創造を理念にのっとって保存することを決定した。蔵は2025年の登録有形文化財に登録される予定で、カフェなどのイベントや空き家相談にも当社も参加して運営していく」と語った。また、同課係長・玉越啓資氏は「当社グループは住まい価値創造企業として地域の価値を創造し、未来に継承することを主眼にしている。今回は宿場町として地域に残っていた和のテイストを取り入れ、和モダンで外も中もデザインした。屋根は瓦屋根とし、外壁もモルタル仕上げとし、古材を再利用して随所にちりばめた」と話した。
区画割
共有地
分譲地に隣接する油長内蔵
街並み
共有地
4号棟3階から共有地を望む
共有地デザイン
左から池ノ谷氏、玉越氏マインドスクェア事業部営業課主任・鈴木祐喜氏
◇ ◆ ◇
冒頭に〝唯一無二〟〝ポラスの最高傑作〟と書いたが、心底からそう思った。「ことのは 越ヶ谷」については、これまで5本の記事を書いているので、それらも参照していただきたい。最初に取材したときは10年以上も続くプロジェクトだとは全然思わなかった。注文住宅を含めれば年間3,000戸以上も戸建てを供給する同社が、その0.3%にしか過ぎない宅地にこれだけの時間とコスト(蔵の耐震補強、曳家などには相当のお金がかかっているはず)を掛けて地域に貢献しようという姿勢は賞賛に値する。
同業の記者の方は、近隣物件との価格の差や完売までのめどについて質問したが、記者は〝唯一無二〟物件とごくありふれた〝価格ありき〟の物件(多分5,000万円台中心)と比較などできないし、注文住宅ならいざ知らず、このようなコミュニティ形成をテーマにした、徹底した和モダンの住宅で、桁違いの価格の分譲住宅を購入しようとする人はそう多くはないはずで、完売までにはそれなりの時間がかかると思った。
しかし、モデルハウスには市外からも18組が来場しているように、自然素材をふんだんに採用した商品企画に惚れ込む人は必ずいると思った。蔵を日常的に使える価値は高く、地域の歴史・文化の価値を継承しようという同社の姿勢に共感する人も少なくないはずだ。
つい最近、自然素材をふんだんに採用した事例を取材した。コスモスイニシアの「イニシア京都御所南」だ。共用部は古材が再利用され、天然石や土壁、和紙クロスなどが至るところに採用されていた。モデルルームのリビングに小上がり障子が用いられているのにびっくりした。マンションのリビングに障子を用いた物件など見たことがない。しかし、これは京都だけでなく、外からの視線が気になるあらゆる地域のマンションにも戸建てにも採用できると思った。
そして今回。確か3号棟の「土間のある家」だったと思うが、2階リビング窓などの開口部機は全て障子が採用されていた。和風住宅に障子はつきものだが、ここまで徹底しているのに驚いた。床や壁、建具・家具など本物にこだわっているのは「京都御所南」と同じだった。
価格について。記者は現地に着いてすぐ値段は8,000万円くらいだろうと予想した。内装仕上げを見てむしろ割安だと思った。同社の分譲戸建てがよく売れる理由がよくわかる。これまでたくさん現場を取材してきたおかげだし、劣悪な物件をたくさん見学している検討者もまた学習しているのだと思う。
欄間(一部)
古代の梁を再利用した一例
3号棟(3階から)
メープル材の挽き板フローリング
旧日光街道に面した3・4号棟
3・4号棟外観
◇ ◆ ◇
取材とは関係ないが、越谷駅西口の「カフェOB」が最高に素晴らしい。コーヒーは1敗280円と安く、タバコも吸える(越谷駅周辺にはタバコが吸える飲食店はほとんどない)。そして何より素晴らしいのは、内装は全て本物の木が採用されていることだ。了解を得たので写真を紹介する。本物だからこそ経年の変化が楽しめる。記者はこれが美しいと思う。
カフェ OB
カフェ OBの床
カフェOBの内観
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