
「こんにちは、原宿-CCBTと想像する少し先の未来」(「WITH HARAJUKU(ウィズ ハラジュク)で)
アートとデジタルテクノロジーを通じて人々の創造性を社会に発揮する「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」は2025年12月、活動拠点を渋谷から原宿「WITH HARAJUKU(ウィズ ハラジュク)」に移転、リニューアルオープンした。移転に伴うイベントの一つとして12月14日に行われた「WITH HARAJUKU」のトークセッション「こんにちは、原宿-CCBTと想像する少し先の未来」を取材した。
グッドデザイン賞審査委員長でCCBT共創戦略アドバイザー、パノラマティクス主宰・齋藤精一氏がモデレーターを務め、原宿駅前の「WITH HARAJUKU」と表参道に面した「クエスト原宿」の設計を手掛けたNTT都市開発エグゼクティブアドバイザー・楠本正幸氏、一般財団法人渋谷区観光協会理事兼事務局長・小池ひろよ氏、一般社団法人渋谷未来デザイン理事兼事務局長・長田新子氏が約90分にわたり〝唯一無二〟のポテンシャルを持つ原宿の近未来を語りあった。イベントには地域居住者やクリエイター、建築家など約40人が参加した。
齋藤氏は、世界でトップクラスのクリエイティブな街として評価されている「東京」は、他方では「自分のことをクリエイティブか」と聞かれると、スコアは圧倒的に低いことを指摘し、CCBTが今必要なのは「文化投資」であり、「会話」であり「公共」「シビックテック」などと話した。
楠本氏は、2つのプロジェクトについて、どうしたら人間中心の街づくりができるかのポイントとして①唯一性〈Only oneOnly〉そこしかないは前・歴史・文化②多様性〈Diversity〉多様な素材・昨日・人々が集積③回遊性〈Walkability〉ヒューマンスケールな安全・安心の3点を挙げ、人間の五感の全てに訴求するのが究極のアート、クリエイティブだと語った。
小池氏は、渋谷区や東急、東急不動産も特別賛助会員で、産官学民が連携し、変化し続ける都市における新たな観光振興事業を行っている同協会の活動を紹介。シビック・クリエイティブ、シビックプライドを重視しており、個人的には「キャットストリート」に注目していると話した。
長田氏は、同社団は渋谷区観光協会とは〝兄弟姉妹〟的な存在として、アクションするための組織として音楽・文化・スポーツなど12の多彩なオープンイノベーション、ソーシャルイノベーションの取り組みを行っていることを紹介した。
トークセッションのテーマの一つである生態系の変化について、小池氏は外国人を中心に路地裏まで散策するようにどこからでもアクセスできるようになり、長田氏は若者だけでなくサラリーマンやインバウンドが増加していると語った。また、楠本氏は、原宿の街のポテンシャルを最大限に引き出し、再認識してもらうよう「圧倒的な神宮の森の空気と風と光を人流とともに取り込んだ」と語った。これに対して齋藤氏は「それまでは鉄の壁が立ちはだかっていた。街は分断されていた」と形容した。
このほか、各氏は「界隈」「インタラクション」「染み出し」「シビックテック」「ミドルマン」など幅広い分野にわたって語り合った。
参加者からの質問に対して、交差点・街区構成は人の動きなどを視認できるのは50~60mが限界であることから、楠本氏は世界共通の街づくりであると、また、地価上昇・家賃高騰で都心部でのクリエイターの活動が困難になっていることについて、齋藤氏は思い切った郊外や地方に活動拠点を移すのもありではないかとそれぞれ答えた。
「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」は、コロナ禍の真っ最中2022年に開所。アーティスト、デザイナー、エンジニア、研究者などが共創を通じて創造的実験に取り組んできた。リニューアルオープンに当たり「都市は、想像力を要求する。」をキーワードに様々なイベントを2026年3月22日(日)まで展開する。
「WITH HARAJUKU(ウィズ ハラジュク)」はJR原宿駅から徒歩1分、渋谷区神宮前1丁目に位置する敷地面積約5,067㎡、地下3階地上10階建て延床面積約26,600㎡。フロア構成は地下2階~3階、8階:ショップ&レストラン(全14店舗)、4階~7階、9階~10階:賃貸レジデンス(賃貸戸数53戸)。事業主はNTT都市開発。開発コンサルタントはアール・アイ・エー、基本計画はアール・アイ・エー、竹中工務店+伊東豊雄建築設計事務所、設計は竹中工務店+伊東豊雄建築設計事務所、施工は竹中工務店。着工は2017年11月、開業は2020年4月25日。

齋藤氏

左から楠本氏、小池氏、長田氏
◇ ◆ ◇
取材の目的は、「WITH HARAJUKU」の設計に携わったという楠本氏が何を話すかを聞くためだった。竣工時の2020年に取材を申し込んだが、コロナを理由に断られた。
この日の取材の目的はほぼ達せられた。そもそも不動産はどこでも唯一無二ではあるが、その最大の土地の魅力を引き出したのは「WITH HARAJUKU」と「クエスト原宿」だと思う。
この施設の最大の特徴は、木を多用した印象的なファサードもさることながら、原宿駅前から明治通りに出るには幅員数メートルしかない竹下通りか表参道を利用するしかなかったから難点のアクセスを解消したことだ。建物の中央に明治神宮内苑の森の光と風と人流を呼び込み、施設の背後地の3方道路に繋ぐ計画が秀逸だ。かなりある比高差を巧みに利用したフロア構成も見事も見事だ。
いうまでもないことだが、原宿のポテンシャルは極めて高いと記者も思う。その一つは明治神宮外苑(約28.4ha)、明治神宮内苑(73ha)、代々木公園(約54ha)の公園が徒歩圏にあることだ。齋藤氏も研究したセントラルパークの約340haの規模にははるかに及ばないが、3つの公園併せて約155haの〝森〟が近接している価値はとても大きい。
余談だが、記者は2008年に分譲された定期借地権付き「パークコート神宮前」の購入を考えた。若者でごった返す街は好きではなかったが、東郷神社に隣接し、隈研吾氏がデザイン監修し、神宮外苑、明治神宮内苑、代々木公園も徒歩圏だったからだ。残念ながら、お金が足りずに断念した。現在の坪単価は当時の2~3倍になっているはずだ。
もう一つ、大きな収穫だったのは、最近取材した「Sensuous City(センシュアス・シティ)[官能都市] 2025」や先日の「プロミライズ青葉台」建替え内覧会の取材と通じるものがあることを確認できたことだ。とりわれ各氏が強調したて「会話」は、あらゆることに通じるものだ。
しかし、記者が無知だからでもあるのだが、齋藤氏が「ああいう風になった」と話したニューヨーク・ハイラインの再開発が何なのかさっぱり分からなかった。齋藤氏は「米国のベロッパーは、仕入れた案件を3倍、あるいは10倍で売って〝後は知ったことか〟のブローカーがほとんどだが、日本のデベロッパーがすごくえらいと思うのは、街を開発した後も考えてくれている」と話した。
この点について、かつて〝ハゲタカファンド〟という言葉が流行ったように、外資系デベロッパーが批判されたことはあるが、わが国のデベロッパーも〝売り逃げ〟という言葉があったように、後々までのことに関与し続けてきたかどうかは議論の余地があるように思う。

「WITH HARAJUKU」原宿駅前から

「WITH HARAJUKU」中央の開口部

「WITH HARAJUKU」後方の原宿駅へつながる施設内空間

「WITH HARAJUKU」施設内

「WITH HARAJUKU」東側
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