左から ケンテック 長谷部社長、松尾建設 中嶋常務、竹中工務店 佐々木社長、MEC Industry 森下社長、三菱地所 吉田社長、大豊建設 大隅社長、南国殖産 永山社長、山佐木材 有馬社長
三菱地所、竹中工務店、大豊建設、松尾建設、南国殖産、ケンテック、山佐木材の7社は7月27日、建築用木材の生産から流通、施工、販売まで川上から川下までを統合する新たな総合木材事業会社「MEC Industry」を設立したと発表した。
RC造・S造に木(もく)を取り入れた新建材を供給する「新建材事業」と、低廉な戸建住宅などを販売する「木プレファブリック事業」を柱に、10年後の売上高100億円を目指す。
「新建材事業」では、三菱地所とケンテックが共同開発(協力:大豊建設)した型枠材「(仮称)配筋付型枠」を製造・販売する。通常は廃材となる型枠材をそのまま内装(天井)の仕上げ材として利用することで、デザイン性の向上と施工負担の軽減を実現した。三菱地所が札幌市中央区で建設中のホテル「(仮称)大通西1丁目プロジェクト」の3~7階の客室内天井部に採用する予定。
「木プレファブリック事業」では、CLTパネルや集成材を使用し、あらかじめ工場で作った部材を現場で組み立てる建築工法(木造モジュラーハウス)を用いることで、工事期間の短縮も可能となり、100㎡の平屋戸建てを1,000万円未満で供給するという。
このほか、山林を伐採して市場に卸してから売却先を探すという従来の「プッシュ型」の原木調達スタイルから、伐採前に山林側に欲しい木材を伝える「プル型」の調達スタイルに変更することで調達コストを抑制するほか、顧客ニーズに即した設計・施工などの商品開発、製造コストの効率性を向上させる。
将来的には多品種、多用途に展開し、製造・販売エリアの拡大(多拠点化)を目指す。
新会社は2020年1月24日に設立。資本金は1,925百万円。社長は森下喜隆氏(三菱地所関連事業推進室長)。従業員数は8人(7月時点)。新社屋は鹿児島県霧島市国分野口東(県立栗野工業高校跡地)で近く着工、来春に操業する。約100人の就業者を採用する予定。
記者発表会に出席した各社の代表はそれぞれ次のように語った。
MEC Industry・森下喜隆社長 これまで4年間研究、開発して結果生まれた会社だが、このような形にすることまでは想像していなかった。既存の建築の枠組みをイノベーションするのが使命。国産材の活用を通じて大規模建築物適用させていく。川上から川下まで総合型ビジネスモデルを構築し、将来的には全国展開し、グローバル化も視野に入れている
三菱地所・吉田淳一社長 MECはMitsubishi Estate Companyの略だが、わたしはMany Excellent Companyの略でもあると考えており、この名にふさわしい企業が結集し新しい事業を興していく。近代史の歴史を開いた鹿児島からスタートするのも、イノベーションを興すのにぴったりだ
竹中工務店・佐々木正人社長 当社は1610年、名古屋の大工棟梁が創業した。400年の歴史を振り返り、もう一度木造に力を入れていきたい。都市に木造を建設することで地方の活性化につなげたい
大豊建設・大隅健一社長 自然災害が多発しており、治山治水が重要な課題となっているが、新会社は森林・林業の再生、地域の活性化につながる。新しい時代が始まる
松尾建設・中嶋孝次常務 私どもは佐賀県の会社で、松尾社長は九州の建設業協会のトップとして、先の集中豪雨の復旧の陣頭指揮を執っており、わたしが代理で出席させていただいた。2年前建設した新社屋は床に日本初の大臣認定を受けたCLTを採用し、ハイブリッド建築物にした
南国殖産・永山在紀社長 南九州は豊かな森林資源に恵まれている。総合商社として長年、木質建材の利活用に力を入れてきた。これまで構築してきた販売力を生かして市場を開拓していく
ケンテック・長谷部義雄社長 新たに開発した新建材は強度があり、木の温かさが感じられ、高級感もある。メンバーの一員に加えていただき大変うれしい
山佐木材・有馬宏美社長 国産材の製材、集成材、CLTの研究・開発を行っているが、地方と都市をどう結び付けるかをずっと考えてきた。新会社は林業活性化につながると期待している
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発表会場となった東京會舘には三菱地所・吉田淳一社長を始め7社の代表が出席しそれぞれ夢を語った。意気込みがストレートに伝わる発表会となった。
万全の新型コロナ対策も取られていた。歩測した会場の広さは約200坪。記者席として用意されたテーブルは48席くらいで、椅子は1卓に一脚のみ。隣り合う記者との距離は3mくらいあった。ホテル関係者に確認したら、通常は450人収容できる会場だという。
記者一人当たりの広さに換算したら4坪以上だ。こんな贅沢な会見はもちろん初めてだが、これがwithコロナか、主催者がかけたコストに見合う記事が書けるのかと思ったら複雑な気持ちになった。
記者発表会場(東京會舘)
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「(仮称)配筋付型枠」は画期的な商品であるのは間違いない。捨てるはずの型枠をそのまま内装デザインとして採用するなんて考えられない。型枠工事は労務費上昇の最大要因の一つとされており、型枠技能工は慢性的な職人不足を抱えている。業界に大きなインパクトを与えるはずだ。
平屋戸建て30坪で1,000万円(坪単価33万円)というのも信じられない。どの程度の基本性能・設備仕様かも分からないが、市場に流通するようになったら戸建て住宅の価格を劇的に変える。
同社は10年後後の売上高目標として100億円を掲げた。三菱地所の2020年3月期売上高21,957億円の0.5%にも満たない。しかし、森下社長が「ゼロからのスタートだが、無限の可能性を秘める総合林業」と話したように、記者は「無限の可能性」に賭ける。大化けする可能性はあると見た。「総合林業」という新しい業種が生まれるか。
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わが国の〝山林王〟と呼ばれた諸戸家の発祥・三重県出身の小生は、国土強靭化の肝は森林・林業の再生・活性化だと信じて疑わないが、現実の森林・林業に関するデータは絶望的なものばかりだ。
林野庁予算は平成7年のピーク時の5,000億円から30~40%減の3,000~4,000億円で推移しており、昭和の時代へ逆戻りしている。激発する自然災害との因果関係は不明だが、治山治水事業費はこの20年間で2兆円超から約1兆円へ半減した。平成30年の国内総生産(GDP)約547兆円のうち林業は2,262億円しかなく、もはや産業とも呼べないレヘルにある。
一つだけ疑問に思うのは「川上」への展開だ。業として林業が成り立つのは北海道や一部の九州、四国くらいで、急峻な山から木材を搬出するための林道の整備などを考えると本州は難しいと林業関係者から聞いた。どうだろうか。
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