千葉大学名誉教授で、スケルトン・インフィル方式を編み出し、日本マンション学会会長などを歴任された小林秀樹氏が、6月22日に行われるマンションコミュニティ研究会(代表・廣田信子氏)主催の第25回フォーラム「マンションの長寿命化に向けた取り組み…二つの老いにどう備えるか…」で基調講演をされる。視聴申し込みは6月19日まで、以下のURLへ。https://www.mckhug.com/blog/25
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小林先生が基調講演をされることは、廣田氏からのメールで知った。テーマの「二つの老いにどう備えるか」はマンション管理業界、管理組合の大きなテーマの一つだが、肩書が「名誉教授」になっていたのに驚き、名誉職に退く年齢でもないと思い、小林秀樹研究室情報サイトで調べた。
絶句するほかなかった。先生が2020年3月末で定年退職されたのは仕方がないとしても、2022年3月12日付の【ご報告】には、「半年前に肝内胆管癌が発見され治療を進めています。幸い治療の効果で生活にそれほど支障はありません。詳しくは、癌ブログを公開しました」とあるではないか。恐る恐る読んだ。〝闘病記〟の第1回目には次のように綴られている。
「2021年6月に肝内胆管癌がみつかったとき、すでにステージⅣで肝臓に転移しており、手術はできない状態であった。
そのとき、最初に調べたのは、癌を克服する方法であった。手術の可能性はないのだろうか。抗がん剤治療はどんなものだろうか、新しい治療法はあるのだろうか、などを本やネットで調べた。
しかし、手術以外に完治の見込みはない難治性の癌であることを知った。もちろん、希望を捨てたわけではない。抗がん剤が効いて癌が小さくなれば、手術できる可能性は残されている。
妻は、私以上につらかったはずだ。食事療法の本を買い込み、ニンジンジュース、癌によい食事を調べて毎日つくってくれた。感謝しかない。
そして、次に知りたいと思ったことは、余命をどう生きるかであった。夫婦の趣味である登山の田部井淳子さんの闘病記を読んで勇気づけられた。また、同じ癌で亡くなった川島なお美さんは、亡くなる3週間前まで舞台に立っていたそうだ。その生き様に心を打たれた。そして、多くの方のブログが心に染みた。
そうだ…私も癌と過ごした記録を残しておこう。それは、余命を生きた証にもなるはずだ」と。
その後、本日(6月18日)現在、21回ブログを更新されている。文量は1回あたり400字原稿用紙3枚前後か。
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このような記事を書くのはつらい。小生の妻も28年前、乳がんで死亡しているからだ。しかし、先生の闘病記を読んで、これは伝えなければならないと思った。先生がわが国の住宅政策、街づくり、団地再生・活性化に大きな役割を果たされていることを知っていただきたいので書くことを決断した。先生にもご了解を頂いた。
先生との出会いは12年前だ。「感動的な催しを取材することができた」と記事に書いたように、「もう一つの住まい方推進協議会(Alternative Housing & Living Association)」が主催した「第6回もうひとつの住まい方推進フォーラム2010 〝複合〟でつなぐ地域の暮らしと福祉」を取材したときだ。
その時の記事と先生の講演要旨を添付する。座学ではなく、実践に基づく講演なのでとても参考になる。今回の記事も、この講演を参考にしていただくのが最大の目的だ。
その後、先生が参加された国土交通省などの会合を何度も取材させていただいた。とにかく先生の話は面白い。しかも、すらりとしてかっこいいのだ。いつも西城英樹さんとだぶらせて話を聞いた。年齢は小生より二回りは低いはずだとずっと思ってきた。
先生の記事のアクセス数も多く、旭化成ホームズが主催したフォーラムの記事は6,000件をはるかに突破した。主だった記事も添付する。
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先生が行った2020年10月10日の最終講義をビデオで視聴した。「40年の研究人生を振り返って」というテーマで、1時間半にわたって話された。
大学の先生の最終講義を受講・聴講するのはこれで2度目だ。最初は十数年前、明治大学・百瀬恵夫名誉教授だった。この時は特別に許可され、学生さんと一緒に長椅子に腰かけて受講した。
講義を通じて企業のあり方、人間としての生き方を学んだ。その後の取材にも生かされている。先生は「CATが大事」と話された。「C」とは「Compliance(コンプライアンス)」、「A」とは「Accountability(アカウンタビリティ)」、「T」とは「Traceability(トレーサビリティ)」だ。
これを守らない政治家がいかに多いことか。百瀬先生は「代議士は詐欺師か大馬鹿野郎のどちらか」と話されたこともあった。
そして今回の小林先生。先生は講義の締めくくりとして、①住民の暮らしの現場を大切にする。〝なぜ〟が研究のヒントになる②一人ひとりの要求を大切にする。顕在的要求から潜在的要求を引き出す企画者たれ③これからの建築・都市を考えるうえで、対立・矛盾の中にチャンスがある-この3つのメッセージを学生さんに贈った。
百瀬先生と小林先生に共通するのは「武闘派」「実践派」ということだ。百瀬先生は中小企業研究の第一人者として知られるが、経営者はもちろん従業員などと酒を飲み交わしながら大企業に負けない理論を打ち立てた。「百瀬教」を名乗る研究者や経営者がたくさんいる。記者は勝手ながら「武闘派」と呼んだ。
小林先生は、どちらかというと優男で、柔道5段(と聞いた覚えがある)でいくつもの武勇伝を持つ百瀬先生と対照的だが、座学を枕にするような先生ではないことを、12年前の取材で知った。前段で書いた通りだ。
最終講義でも「現場」「実践」を何度も話し、セキスイハイムの「オーサンス」や旭化成ホームズの「母力」などの家づくり研究に参画したのもとても勉強になったと語った。「研究室の外に出よう」とも呼び掛けられた。
6月22日の基調講演ではどのような話をされるのか。
〝羽ばたけないかごの鳥〟国交省 団地再生検討会 エアコンなし 議論白熱30度超に(2008/6/8)
マンションコミュニティ研究会 設立5周年フォーラム「豊かな未来へ」(2015/12/4)
平成の田園調布になるか1区画200坪の街づくり つくば市の「春風台」(2015/5/26)
厚くて高い法の壁 合意形成の難問も立ちはだかる 国交省「団地再生あり方検討会」(2015/3/18)
「理想の間取りは普通の間取り」 小林秀樹・千葉大大学院教授(2014/1/22)
〝複合〟でつなぐ地域の暮らしと福祉 「もう一つの住まい方推進協議会(AHLA)」フォーラム(2010/10/29)
「おーお明治」大学の誇り 百瀬恵夫名誉教授の「瑞宝中綬章」受章を祝う会に300名(2017/8/8)