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2025/01/17(金) 14:35

わが国のウォーカブル政策のどこに問題があるのか

投稿者:  牧田司

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ヴァンソン 藤井由実著「フランスのウォーカブルシティ 歩きたくなる都市のデザイン」

記者も年を取った。これ以上守備(取材)範囲を広げたくないのだが、ウォーカブルシティには興味がある。国土交通省が昨年11月に「都市の個性の確立と質や価値の向上に関する懇談会」(座長:野澤千絵・明治大学政治経済学部教授)を設置し、先日(1月15日)に第3回懇談会を行ったのをきっかけに、少しずつ取材することに決めた。

3回の懇談会は非公開で行われたが、配布資料は「ウォーカブル政策の展開について」だけでも41ページにも及ぶ。資料によると、Walkable(歩きたくなる)、Eyelevel(まちに開かれた1階)、Diversity(多様な人の多様な用途、使い方)、Open(開かれた空間が心地よい)の考え方「WEDO」に共鳴している全国の383都市が具体的な取り組みを行っており、119市区町村(東京都は18区13市)がウォーカブル区域(滞在快適性等向上区域)を設定しているとある(令和6年12月31日時点)。

都の先進的な取り組みとして「さかさ川通り」(大田区)、「新宿通り」(新宿区)、「丸の内ストリートパーク」(千代田区)、「松陰神社通り」(世田谷区)、「ENJOY OPEN STREETs 武蔵野」(武蔵野市)の事例も紹介されている。

資料をざっと読んだ。なるほどとは思うのだが、何かが欠けているように感じた。何が欠けているのか。資料にもあるように「人中心のまちなかへの修復・改変(リノベーション)」が決定的に欠けており、「コンパクトシティ政策が都市経済・社会までも縮小させる政策と誤った理解をされる場面も」あったからではないか。わが国の街づくりは行政主導で、住民参加の視点が欠落していると思えてならない。〝誤った理解〟をされた責任は行政にあるのではないか。

典型的な例が、千代田区が進めている「神田警察通りの道路整備事業」だ。区は住民の合意形成の基本と言える民主的な手続きを行ってこなかった。裁判沙汰にまで発展したのはこのためだ。住民を犯罪者扱いすることなどありえない。

「ウォーカブル」のワードで検索してもヒットするのは国交省や地方自治体の取り組みばかりだ。メディアもほとんど報道していない。

図書館で入門書か専門書を読もうと検索したが、ヒットしたのはヴァンソン 藤井由実著「フランスのウォーカブルシティ 歩きたくなる都市のデザイン」(学芸出版社)のみだった。

これはお勧めだ。わが国の地方自治や都市計画に関する専門書とはまったく異なる。専門用語は少なく、フランスの地理、歴史、文化、経済、政治背景などをわかりやすく紹介しながら、丹念なフィールドワークに基づきモビリティ、ウォーカブルシティの現場をレポートしている。

一つひとつ紹介する余裕はないが、目からうろこだ。「パリ市内の車は時速30㎞制限が適用されている」「(ライドシェアでは)ドライバーが利用者を同乗させると自治体が1ライド当たり2ユーロを銀行口座に振り込む」「モビリティ基本法制定には3千人が法律制定に携わった」「一般に障害者という表現を使わない」(わが国は法律用語)、「『交通弱者』という表現もない」「議員の27.7%が年金生活者」「行政職員は配置転換がない」「公務員はその専門性に応じて採用される」「自治体の自主財源比率は全国平均70%以上」「女性議員の比率は41.6%」「マスターアーバニストが重要な役割を果たしている」「一定の収入以下の所得者が入居可能な『社会住宅』の供給比率を20%以上にしている」「住民には『知らなかった』と言わせない情報公開を徹底して行っている」「公聴会などでの発言者と発言内容は公表される」「(自治体の合意形成ヘの取り組みは熱心で)国民のほとんどが都市計画というものが何かを知っている」「中心市街地の道路は歩行者と公共交通機関のみが通行できる」「落葉しない常緑樹が植栽されている」…同著が2024年の「国際交通安全学会大賞」と「咲耶出版大賞」(咲耶会=大阪大学外国語部・大阪外国語大学同窓会)を受賞したのもうなずける。

        ◆     ◇

3回の懇談会には、井上成・三菱地所エリアマネジメント企画部担当部長兼東京藝術大学芸術未来研究場特任教授がゲストとしてプレゼンテーションを行った。

井上氏が何を話されたかはわからないが、三菱地所など正会員65社で構成される「大丸有エリアマネジメント協会」がもっとも先進的な取り組みを行っていると思う。

エリアではタバコが吸えないのと、貧乏人は利用できない店舗が多いのは難点だが、ワインの値段はそこそこだし、丸ビルには飲み放題・食べ放題のフリードリンク・フリースナック付き「TSUTAYAシェアラウンジ」もある。

もう少し勉強して、同社に取材を申し込むことにした。

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