先に紹介したように、令和6年度の住宅着工戸数がまとまった。首都圏マンションは53,599戸(前年度比11.2%増)で、都県別は東京都29,630戸(同22.0%増)、神奈川県13,524戸(同5.5%増)、埼玉県4,902戸(同25.1%減)、千葉県5,543戸(同21.8%増)となった。
一方、不動産経済研究所(不動研)は先に令和6年度の首都圏新築分譲マンション市場動向をまとめ発表。これによると、発売戸数は22,239戸(前期比17.0%減)で、過去最少だった1975年度の25,723戸を下回り、1973年の調査開始以来最少となり、販売在庫数は前期比455戸増の6,116戸となった。メディア各社もこれをコピペして〝市場縮小〟を印象付ける記事を書いた。
しかし、これを鵜呑みにするのは危険だ。別表・グラフで示したように、不動研のデータは首都圏市場全体の41.5%しか捕捉(カバー)していない。東京、神奈川は30%台であるのに対し、埼玉、千葉は70%前後だ。実勢を全然反映していない。捕捉率(カバー率)かこれほど低いのは、ここ数年、大規模再開発や建て替えマンション比率が高まり、寡占化が進む大手デベロッパーの情報収集力・資金力にものを言わせた戦略が劇的に市場を変えている。インナー(クローズド)が激増している。
いくつか事例を示そう。まず、再開発・大規模マンションの販売動向について。例えば積水ハウス他「グラングリーン大阪 THE NORTH RESIDENCE(ザ ノースレジデンス)」。メディアは最高価格が25億円(305㎡、坪単価2,687万円)に注目したが、記者は「全然驚かなかった」。それより全484戸のうち実に半数以上の248戸が一般分譲されなかったことに驚いた。
いま人気になっている野村不動産他「URAWA THE TOWER」も全525戸のうち非分譲は45%の234戸に達している。同社は先日、都心エリアでの分譲マンションの供給数を拡大すると発表したが、そのリリースの中で「都心エリアでの高額分譲マンションとして 2024年10月に『プラウド神宮前』が竣工いたしました。本物件は、明治神宮の緑を望む立地に所在し、隈研吾氏監修の商品企画による外観デザイン・空間設計…順調に販売が進捗いたしました」とあるのだが、記者は全然知らなかった。全76戸がインナー販売された模様だ。
このように一般には公開・販売されないマンションは年間数千戸に達している可能性がある。
次に、建て替えマンションについて。以下は、記者が取材した主な建て替えマンションの戸数と非分譲住戸の戸数を示したものだ。
・「アトラスシティ千歳烏山グランスイート」248戸(非分譲104戸)
・「プロミライズ青葉台」761戸(地権者住戸205戸)
・「パークホームズ初台 ザ レジデンス」115戸(一般販売対象住戸65戸)
・「クレヴィア渋谷富ヶ谷」35戸(事業協力者住戸13戸)
・「プレミストタワー白金高輪」280戸(非分譲住戸127戸)
・「アトラス四谷本塩町」51戸(非分譲23戸)
・「ザ・パークハウス早稲田」115戸(事業協力者住戸36戸)
・「プラウドシティ阿佐ヶ谷」575戸(権利者住戸188戸)
・「ONE AVENUE(ワンアベニュー)一番町文人通り」32戸(事業協力者住戸10戸)
・「桜上水ガーデンズ」878戸(非分譲364戸)
以上、10物件の全戸数は3,088戸で、分譲されたのは63.5%、1,960戸となっている。また、旭化成不動産レジデンス「マンション建替え 調査報告書Ⅷ」によると、2024 年3月末時点の同社の建て替え事例48物件の区分所有者の再取得率は60%となっている。
これらの結果から、建て替えマンションの約4割は非分譲になっているものと思われる。首都圏で年間どれくらいの建て替えマンションが分譲されているかわからないが、相当数に上っているはずだ。
さらにまた、不動研の調査対象外となっている専有面積が30㎡未満の物件も、このところの投資需要の高まりで年間数千戸が供給されている。これも不動研のカバー率を低くしている要因の一つだ。
完成在庫についても指摘したい。不動研の完成在庫を新規供給数で割ると在庫率は27.5%だ。常識的に考えれば、新規供給量の27.5%が在庫になったら利益は吹っ飛ぶ。危機的ラインだ。しかし、上場デベロッパーのマンション事業は軒並み好調だ。例えば三井不動産。同社の2025年3月期3Qのマンション販売戸数は2,150戸だが、完成在庫はわずか9戸しかない。同社は公表していないが、粗利益率は30%を超えるはずだ。
ただし、不動研の完成在庫数を着工戸数で割ると11.4%になる。これはまずの数字ではないか。価格先高観が強まっている現状を考えれば、よほど商品企画が劣っていない限り、値引き販売、赤字販売は避けられるはずだ。
以上見たように、着工戸数と不動研の調査データの乖離を関係者も一般の方もきちんと認識することが必要だ。でないと市場を見誤ることになる。
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