
建国記念文庫北側(赤い部分が表土でない部分)
〝宝〟であるはずの表土が捨てられている!?-「神宮外苑の緑と空と」グループは11月22日、「植木職人さんと神宮外苑の移植状況チェック」イベントを開催し、「植木職人の小島さん」は、建国記念文庫北側(旧新宿区道)の整備現場について、「本来深さ20~30cmの宝物の表土は保存し、もとに戻すべきなのにそうなっていない」と指摘し、訝る記者に東京大学名誉教授・石川幹子氏は「見れば分かるでしょ」ととどめを刺した。この他、「植木職人の小島さん」は建国記念文庫から軟式野球場に移植されたシラカシについて「来年の夏が越せるかどうか」などと警鐘を鳴らした。

神宮外苑イチョウ並木




垂乳根(記者は小さいころ、祖母の垂乳根と遊んだ)

このようなイチョウも5~6本あった
◇ ◆ ◇
冒頭の写真を観ていただきたい。皆さんは、この写真から「宝の表土」が捨てられていることを見抜くことができるか。記者はさっぱり分からなかった。「植木職人の小島さん」や「見れば分かるでしょ」と記者に言った石川氏の説明からすれば、巨木の根本にある緑の部分と、そうでない部分に注目すべきだというのだ。そうでない茶色の部分は赤土だというのだ。
なるほど、よく見れば、茶色の部分は表土でないことは容易に理解できる。表土が微生物や小動物にとって生きるための必要条件であることくらい分かる。
ネットで調べた。前富士常葉大学環境防災学部教授・竹林征三氏(1943年- 2021年)の「一万年前の表土 Topsoil of Ten Thousand Years Ago」には次のようにある。「表土は大自然が 何百何千年かけて作った極めて価値高い財産であり、表土の中には自然生態自己復元に欠かせない埋土種子が多く含まれている。また、生態システムを支えている多くの有用微生物の宝庫である」とし、「既存法面の表土の持つ極めて価値の高い有用表土を合理的に収集、保存、供給できるシステムとする」「自然生態自己復元緑化」を提唱している。
神宮外苑の整備にこの「自然生態自己復元緑化」の考えが取り入れられているかどうか知らないが、石川氏は「セントラル・パークの整備では、表土が保存され、再び戻されたという記録が残っている」と話した。
小島さん、石川さん、よくわかる。しかし、神宮外苑再開発は公園整備事業ではない。都の都市計画審議会で承認された事案だ。批判の矛先は事業者ではなく、形骸化している審議会とその委員に向けるべきではないか。

移植樹木について説明する小島さん

移植されたシラカシかケヤキ

移植されたヒトツバダコ

絵画管敷地内の3代目のヒトツバダコ
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前夜、ロッシェル・カップさんからのメールで、取材することにした。「植木職人の小島さん」から直に移植の是非、手法を聞くことはもちろんだが、今が盛りの神宮外苑のイチョウ並木を観察することにあった。写真のように、人でごった返していた。4列並木がシンメトリーで美しく、イチョウもまた円錐形に剪定されているからだろうが、記者などはさっぱり理解できない。イチョウなどどこにでもあるではないか。むしろ、垂乳根に憐れみを覚えた。移植が検討されている秩父宮ラグビー場の18本のイチョウは健全であることが確認できた。4列植栽の約40本のイチョウ並木では、5~6本は落葉し、丸裸になっているのが確認できた。これは樹勢が衰えているためかどうかは素人の記者には全く分からなかった。
記者の発言が参加者や小島さんからたしなめられたこともあった。どなたかが「イチョウ並木は(存続の)危ないわよ」と話したので、記者は「イチョウ並木は保存されますよ」と言い返したら、「あなた、勉強不足」「イチヨウは西日が必要」「地下の根が張れるかどうか」とやり返された。
西日を嫌う樹木、植物はたくさんあるが(記者と同類の隠花植物がいい例)、イチョウは西日が重要というのは初めて聞いた。晩秋の西日に映える姿は、花言葉の「長寿」「荘厳」が示すように、若い人にもお年寄りにも何かを暗示するものがあるのか。
もう一つは、建国記念文庫から軟式野球場に移植されたシラカシについて、小島さんが「来年の夏が越せるかどうか」と話されたので、「シラカシはどこにでもある安い木。枯死してもいくらでも替えがある。移植費のほうが問題」と話したら、「どこにでもある木を大事にしないといけない」とやり返された。いうことなし。
石川さんが「ヒトツバダコは剪定するものではない。自然樹形が美しく、だからこそ美しい白い花が咲く」というのは大賛成。「グラングリーン大阪」の「うめきた公園」には立派なヒトツバダコが植えられている。
石川さんはまた、自然林には高木-中木-低木-地衣類が層をなして混在することが大事だとも話された。これにも同感。先日、東京建物の「大手町の森」を観てきたが、同社は千葉県での実証実験を3年間もかけて行い、森を移植した。こんな美しい森は都心にはない。


石川さん
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